藤岡騎手の積極性とナムラマースの長所が絶妙にマッチした
文/編集部
「去年は積極性を失っていたと思うので、今年は積極的な競馬を心掛けていきたいですね」サラブレ4月号の
『シークレットルーム』の取材で、
藤岡佑介騎手は今年の抱負をそう語っていた。その言葉通り、
毎日杯の
ナムラマースのレースぶりには、
藤岡騎手の積極性が強く表れていたように思う。
毎日杯のラップを見ると、12.6-10.8-11.4-
13.0-
13.0-12.7-11.5-11.0-12.0となっていて、4F目と5F目でペースが緩み、その後からペースアップしていることがわかる。
「3コーナーで少しペースが落ち着いてしまったので、馬の力を信じて自分から動いて行きました」と、
藤岡騎手はレース後に語っていたが、大本命の
ナムラマースが動いたことで、レースが動き出した。
ナムラマースは残り4Fあたりから外、外を回ってポジションを上げて行き、直線で突き抜けたが、並の馬ではおそらくゴール前、いや坂でガス欠になってもおかしくない。
だが、
ナムラマースは
上がり34秒0(メンバー中2位)で脚色が鈍ることなくゴールを駆け抜けた。直線勝負に賭けた
ニュービギニングが、
上がり33秒9(メンバー中1位)で3着となったが、早めにスパートして、
ニュービギニングとほぼ同等の上がりを計時した
ナムラマースは、やはり力が抜けていたということだろう。
また、馬の力を信じて早めに動いたという
藤岡騎手の判断は、別の意味でも理にかなっていた。というのも、
ナムラマースは父が
チーフベアハートで、同産駒は
一瞬の斬れ味勝負より、持続力勝負に強いという特徴があるからだ。
早めにスパートして、
ナムラマースの卓越した持続力を活かし切った。おそらく、直線入口まで動かずにジッと我慢をしていたら、負けたとまでは言わないが、2着
ヒラボクロイヤル以下との差(
1.1/4馬身差)はもっと際どくなっていたかもしれない。
藤岡騎手の積極性と
ナムラマースの長所が絶妙にマッチした。確かに能力が一枚上だったこともあるだろう。それでも、本命馬に最高の競馬をされたら、他の馬が手も足も出ないのは仕方がない。
昨今の競馬では、若手騎手からトップジョッキーにあっさりスイッチされることは珍しくない。デビュー4年目の
藤岡騎手もまたしかりで、
札幌2歳Sで
ナムラマースを勝利に導きながら、
ラジオNIKKEI杯2歳S、
きさらぎ賞では
ペリエ騎手に乗り替わりとなった。
それでも、
藤岡騎手は再び巡ってきたチャンスを、
毎日杯制覇という結果できちんと応えてみせた。これは素晴らしいことだと思う。
もちろん、トップジョッキーによる競演は見応えがあり、競馬の醍醐味のひとつではある。だが、
テイエムオペラオーの
和田騎手、
ナリタトップロードの
渡辺騎手など、有力馬と若手騎手のコンビは時に、切っては切れない関係に育つもので、人馬の成長がファンを惹きつける要素にもなりうる。
また、そういった有力馬に若手騎手が出会うことは、騎手を成長される促進剤となり、トップジョッキーへステップアップするためには不可欠でもあるだろう。
藤岡騎手は昨年、
タマモサポートという素質馬に巡り会いながらも、トライアルで権利を逃し、クラシック出走は叶わなかった。その時の反省が糧となり、もうチャンスは失いたくないと、
毎日杯の勝利に対する強い思いがあったのかもしれない。
ナムラマースと
藤岡佑介騎手。
コスモス賞、
札幌2歳S、そして
毎日杯を制し、
勝率100%という絆で結ばれた最強タッグ。
「(ナムラマースは)本当に強い馬なので、胸を張ってクラシックに臨めると思います」毎日杯のレース後に語った
藤岡騎手のその言葉に、馬への信頼、自信が伝わってきた。
有力馬と若手騎手のコンビが、久々にクラシック戦線で拝める。実に楽しみだ。