本当に深刻な「スローペース症候群」は、短距離界に存在するのでは
文/安福良直
1着
スズカフェニックス、2着
ペールギュント。いずれも
芝では1400m以上でしか勝ったことがない2頭で決まった今年の
高松宮記念。芝1200mはどちらも初めての挑戦だった。
同じく芝1200m未経験馬同士(
オレハマッテルゼと
ラインクラフト)で決まった昨年は、人気サイドとはいえ、この結果には少なからず驚かされたものだが、今年はちっとも驚かなかった。
「ああ、やっぱりな」というのが正直な感想である。
というのも、このところの
短距離重賞があまりにも低調だからだ。低調の原因は、私が思うに、スタートからガンガン飛ばす
「短の逃げ馬」がいなくなってしまったことだろう。
ショウナンカンプや
カルストンライトオなど、最初の3ハロンを
32秒台の猛スピードで飛ばす馬がいた頃は、この流れについていけない者はレースに参加することすらできず、マイラーがスプリンターの土俵で勝ち負けするのは難しかった。
それが今はどうだ。前半3ハロンが
33秒を切ることがほとんどなく、マイラーでも十分ついていける流れになっているではないか。
今回の
高松宮記念で先導役を務めたのは、9歳馬の
ディバインシルバー。おもな活躍の場は
ダートの交流重賞で、普通に考えれば、
芝の重賞ではスピードが足りないはず。
それが前走の
シルクロードSでもハナに立ち、今回も楽に逃げられてしまうのだからなあ。今回の前半3ハロンは、
33秒8で通過。
重馬場とはいえこれは遅い。だって、9Rの
3歳500万下特別は
33秒6で通過したのだから。
もうこうなった時点で、互角のスタートを切った
スズカフェニックスにとっては楽勝ムードだったのではないだろうか。あとは
重馬場をどう対処するかだけ。
武豊騎手はすかさず馬場のいい外に持ち出し、直線は
プリサイスマシーンのさらに外から豪快に差し切ってしまった。
スズカフェニックスのレースでは、前々走の
東京新聞杯が鮮やかな差し切りだったが、今回はそれよりも楽で危なげのない勝利と言えるだろう。
これで待望のG1初制覇だが、この勝利は
安田記念へ、あるいは
秋の天皇賞へ向けての単なる通過点、という気もする。そのくらいの力の差を見せつけた勝利だろう。
明日のスターが誕生したという意味では、価値があった
高松宮記念だが、逆に、深刻な
「短の逃げ馬」不足が改めて浮き彫りになったレースでもあると言える。
よく
長距離戦では
「スローペース症候群」という言葉が叫ばれるのだが、本当に深刻な
「スローペース症候群」は、
短距離界に存在するのではないか。
スズカフェニックスが勝つのもいいが、本当に見たいのは、
カルストンライトオや
ショウナンカンプのような逃げ馬の再来。負けてもいいからそんな馬が出てきてほしかった。
そうでなければ、秋の
スプリンターズSは、また
外国馬に馬場を貸すだけに終わってしまいそうだぞ。