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嘆きの裏にはベテランらしい別のヨミが隠されていた
文/平松さとし

「今日はお客さんが入っているね」

パドックへ向かう地下馬道。調教師・松田国英はそう口を開き、続けた。

「1頭強いのがいるけど、やることはやったから……」

松田の管理するのはダイワスカーレット。そして“1頭強いのがいる”といった相手は、前走で負かされたウオッカである。

その松田のわずか5メートル前を歩いていたのがウオッカの調教師・角居勝彦。一緒に歩く藤沢和雄「皐月賞へ行くなり外国に行くなりしてくれよ」と言われ、苦笑した。

「これならついて来られないだろうっていうタイミングで追い出したのに、後ろを見たら馬なりでついて来ていた。あんな競馬をされちゃ、かなわないよ」

前走のチューリップ賞ウオッカに敗れたダイワスカーレットの鞍上・安藤勝己は嘆いていた。

しかし、その嘆きの裏にはベテランらしい別のヨミが隠されていた。

曇天の下、アマノチェリーランの逃げで始まった“新コース”での最初の桜花賞

5ハロン59秒8のスローペースに、ユタカ=アストンマーチャンが掛かり気味に進出。それを追走するように上がって行ったのがアンカツ=ダイワスカーレット四位洋文の操るウオッカはさらにそのあとから続いた。

4コーナーに差しかかると、アストンが先頭を窺う。しかし、その直後でダイワスカーレットが先行勢を射程圏に入れる。

前走でウオッカとの脚を計っていたアンカツ。あのタイミングで仕掛けても楽について来られちゃうなら……といった感じで、さらに早目のスパートをかけると、堂々と抜け出した。

唯一、追いすがったのがウオッカだった。しかし、前走よりもペースが遅かった。そして、それにも関わらずライバルのスパートは早かった。その分、今回は前へ行ったほうに分があった。

前走をモノサシにした狡猾さを見せたアンカツに導かれ、持ち味を発揮したダイワスカーレット負けて強しの実力を見せたウオッカ

戦前からハイレベルといわれた桜花賞は、噂に違わぬ好勝負となった。
(文中敬称略)

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