単勝1.8倍の期待に見合う、素晴らしいレースだった
文/編集部
秋山騎手の印象を聞かれれば、
「レースで流れに乗ってソツなく立ち回れる」というのがまず頭に浮かぶ。先の
ダービー卿CTにおいて、
ピカレスクコートを勝利に導いた騎乗はその真骨頂だった。
道中は中団で脚を温存させ、直線では馬群を捌いてロスなく突き抜ける。馬の能力を最大限に活かし、
進路取り、
追い出しのタイミングも完璧だった。
その
秋山騎手が、
フローラSでは迷うことなく
ベッラレイアを
大外に持ち出した。道中でほぼ同じ位置にいた
ミンティエアーが内を捌いて抜け出したように、普通ならロスなく立ち回った
ミンティエアーが勝っていたレース。
だが
秋山騎手は、直線で徐々に
ベッラレイアを外に導き、外にいた
ミルクトーレルを先に行かせ、追い出しを開始したのは
残り2ハロン目を過ぎたあたりから。
個人的な印象で恐縮だが、なんとも
秋山騎手らしくないロスの多い競馬であり、並の馬なら3着を拾うのがやっとのところのはず。では、
秋山騎手をそうまでさせた理由とは何か?
確かに
フローラSに関しては、
オークスの出走権獲得が至上命題であるため、リスクの多い内目を避け、外を回すという安全策を取ったとも見れる。だが、根底にあるのは当然、
ベッラレイアに対する絶対的な信頼以外の何物でもないだろう。
秋山騎手の中に、あの追い出しのタイミングで
「差し切れる」という確信があったかどうかは、
秋山騎手だけが知るところ。だが、そう信じていなければ、あの進路取りは普通では考えられない。
ゴール後、
秋山騎手はガッツポーズをすることもなく、淡々と
ベッラレイアを流していた。
「これくらい走って当然」と言わんばかりに。物静かな男らしい、
無言のパフォーマンスだった。
それにしても、
サンデーサイレンス系の産駒が、フローラS出走馬17頭中、
10頭も占めるといった状況。もはや珍しいことでもなんでもないのだが、
血統のバラエティー感に乏しいのはいつもながら気が滅入る。
そんな
サンデーサイレンス系が謳歌する現在の日本競馬にあって、異流とも言える
ナリタトップロード産駒の
ベッラレイアが、
サンデー産駒のお株を奪う斬れ味を披露する。血統好きにはたまらない光景だし、
レッドソックス松坂の奪三振ショーにだってヒケを取らない(笑)。
これで
オークスは、
アグネスタキオン産駒(サンデーサイレンス系)の
ダイワスカーレット、
タニノギムレット産駒(ロベルト系)の
ウオッカ、そして、
ナリタトップロード産駒(ディクタス系)の
ベッラレイアの三つ巴の様相となった。
桜花賞1、2着馬にして現在の日本の二大本流血統
ダイワスカーレットと
ウオッカに、反流の
ベッラレイアが挑む。2強が抜けた存在で興味が停滞気味だった
牝馬クラシック戦線が、自分の中で一気に活気づいてきた。
崖っぷちのトライアル挑戦を、
オークスに向けてのデモンストレーションの場に変えた
ベッラレイア。肝の据わった騎乗で
ベッラレイアを樫の舞台へとエスコートした
秋山騎手。
単勝1.8倍の期待に見合う、素晴らしいレースだった。