今年もまた、エリモハリアーのためにある一戦となった
文/関口隆哉
トウカイテイオーが地力の違いを示して
皐月賞、
ダービーの二冠を制した1991年春、海の向こう欧州の3歳戦線にも、怪物的な強さを誇る大スターが登場してきていた。
英ダービー、
愛ダービー、
“Kジョージ”と距離12Fの大レースを3連覇した
ジェネラスである。
なかでも、後続を5馬身ちぎった
英ダービーで見せた
ジェネラスの爆発力は、十二分に衝撃的だった。
「テイオーも相当に強い競走馬だけど、本場欧州の怪物は、やっぱりスケールが違うわぁ…」と、
東京競馬場のターフビジョンに流れる
英ダービーのビデオを見ながら、筆者は思わず嘆息したのである。
その
ジェネラスが、種牡馬として日本で供用され始めたのは、1996年のこと。ダービー馬
フサイチコンコルドを筆頭に、日本での活躍産駒が多数いる父カーリアンの血と、自らの素晴らしい競走成績から、大きな成功を収めるかと期待されたが、結果は大変に厳しいものとなってしまった。
失敗の要因をひと言でまとめれば、
「日本競馬で要求される素軽いスピードと切れ味鋭い瞬発力が不足していたから」ということになると思う。
ところが、普通ならマイナス材料となる、
ジェネラス産駒の特徴(優れたパワー、上がりのかかるレースに向く重厚な末脚)を活かして、一流のグラスホースとなった仔もいる。前年まで
函館記念を連覇していた
エリモハリアーだ。
良馬場、あるいは
稍重馬場で、
2分2~5秒台の決着となることが多い
函館記念は、ジェネラス産駒
エリモハリアーにとって、唯一とも言える理想的条件下で行なわれる重賞レースだったわけだ。
3連覇を目指すことになった、この
函館記念の
エリモハリアーだったが、10カ月半ぶりの出走となった前走
巴賞で
最下位に敗れていたこと、さらに
7歳という年齢もあるのか、
単勝25.1倍の7番人気という、実績とは完全に反比例する低評価でレースに臨んだ。
ゲートが開き、8歳馬
マイソールサウンドがゆっくりとしたペースでレースを引っ張る。1番人気
アドマイヤフジ、スピークリーズン以来18年ぶりの3歳馬優勝を目指す
ナムラマースらが好位を追走、2番人気
サクラメガワンダーは後方集団の外目に付けた。
エリモハリアーは
サクラメガワンダーの少し前で、内ラチ沿いを、ノンビリとした様子で走っている。
マイソールサウンドが先頭をキープして直線へ入る。
エリモハリアーは、まだ6、7番手。しかし、鞍上
武幸四郎が馬場の真ん中に持ち出してからの
エリモハリアーの爆発力は素晴らしかった。
先に抜け出した
ロフティーエイムを交わし、追い込んできた
サクラメガワンダーを完璧に抑え込む。
父ジェネラスの
英ダービーのような迫力こそないが、
横綱相撲とも言える堂々たるレースぶりで、
エリモハリアーが3連覇のゴールを切る。
良馬場でありながら、2分2秒8とかかった勝ちタイム、そして
重厚な末脚が活きる展開。今年の
函館記念もまた、
エリモハリアーのためにある一戦となった。加えて、
低評価での出走となり、武幸四郎騎手が思い切った作戦をとりやすかったことも、勝因のひとつと言えるかもしれない。
セン馬である
エリモハリアーは、種牡馬として
父ジェネラスの血を後世に残すことはできない。であれば、8歳となる来年もぜひ
函館記念に出走し、
同一重賞4連覇の大偉業を目指してもらいたい。
「一芸に秀でた競走馬」の存在は、日本競馬の財産でもあるのだから。