馬群を割ったあの瞬間は、ターニングポイントになるかも
文/編集部
元プロ野球選手で西武ライオンズの監督でもあった
東尾修氏は、
松坂大輔投手(現ボストンレッドソックス)のデビュー戦をどこで投げさせるかについて
「気を遣った」という。
最初の試合で勝つのと負けるのとでは、その後のプロ野球人生に大きな差が出る、と感じていたからだそうだ。それは自身自身の経験からくるものだったらしい。
東尾氏はプロ入り後、自分と同程度の実力を持つ投手がもうひとりいたが、その投手は初勝利を挙げるのに苦労し、反面、自分自身は運良く勝てた。その
最初の小さな差が、その後の成績に大きな影響を与えたと実感しているのだという。
同じように、
松坂投手にも最初の一歩をきちんと踏み出させたい。そう思って
「気を遣い」、
松坂投手をデビュー戦に向かわせたのだった。
その思いは今年の
メジャーリーグでのデビュー戦でも同じだったようで、メジャーでの最初の試合で勝てるか、非常に注目していたという(7回1失点で勝利)。
松坂投手のその後の活躍は、ここで記すまでもないだろう。
この
東尾氏の考え方は、実に勝負師らしいと思う。
ゲンを担ぐとかいう類のものではないのだろうが、長年勝負の世界で生きてくると、その後に大きな影響を与える戦いに出くわすものだ。そこをクリアするか、手こずるかによって、後に差が出る。
馬券を買ってても、そんな場面にはよく出くわしますよね。
松坂投手や
東尾氏みたいに、その戦いに勝てるかどうかは別にしても(笑)。
ドラゴンファイヤーにとっての今回の
シリウスSは、そんな岐路に立つ戦いだったのではないかと思う。
5月に
同世代相手の500万を快勝し、
ユニコーンSは除外になったものの、7月に初の古馬との対戦になった
麒麟山特別(1000万)も圧勝。9月9日には
オークランドRCT(1600万)で右回りでの初勝利を飾り、3連勝で重賞に初挑戦となった。
ここをスッと突破できるか、それとももたつくかによって、その後の競走馬人生は大きく異なるのではないか。そう思ってみていたのだが、最後の直線で、まさにそのような局面が訪れた。
いつもより前目に付けた
ドラゴンファイヤーは、好位の内で回りながら揉まれることもなく、手応え良く追走していた。
そのまま直線に向いた時はまたも楽勝するかと思われたが、さすがに重賞ともなると馬群に隙が生まれない。
鞍上の
福永騎手も
「どこか開いてくれ」と念じていたそうだが、一瞬、
脚を余して負けるのでは?とも見えた。
しかし、最後の200mほどで馬群の間を割ると、そこからは弾けるように伸びて1馬身差の快勝。
後になって考えれば、
あの馬群を割って伸びたことがターニングポイントだったと言われてもいいような場面だった。
確かに
ハンデ53kgと斤量に恵まれた面もあったとは思うが、重賞初挑戦の今回は、勝ったことに大きな意義があるだろう。4連勝の中の1勝ではなく、
東尾氏が言うところの
『勝つことが重要な一戦』だった。
賞金を加算した
ドラゴンファイヤーは、今後は
ジャパンCダートに直行する予定だという。
2100mに延びる距離に不安はないし、
左回りに替わるのもむしろプラスと言えそう。
ジャパンCダートは
現在3歳馬が2連勝中(05年
カネヒキリ、06年
アロンダイト)だが、それに続く3年連続優勝もあり得るのではないか。
ちなみに3歳で
ジャパンCダートを制したのは、
カネヒキリと
アロンダイト、そして
クロフネといるが、その3頭はすべて
ダート重賞初挑戦の一戦を
白星で飾っている。
ドラゴンファイヤーも
『重要な一戦』を制した価値は大きいに違いない。