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アサヒライジングの台本をライターで焼き払ったデアリングハート
文/編集部

出走馬16頭のうち、前走で重賞を連対した馬はアサヒライジングだけだったが、同馬はそれが重賞初制覇で、それ以前は詰めの甘い面のあった馬。今回は広い東京コースに替わり、枠順も1番→15番となったので、人気は割れるものだと思っていた。

ところが、前日売り段階でスッと1番人気に推されると、アサヒライジングはそのまま他馬に交わされることもなく、最終的には2.7倍というちょっと差の付く1番人気に落ち着いた。

2番人気のアドマイヤキッス4.2倍で、3番人気のディアデラノビア5.9倍、4番人気のデアリングハート7.8倍。2番手以降の方が混戦模様の印象を受けた。

2~4番人気の3頭はいずれもサンデーサイレンス産駒で、1番人気がロイヤルタッチ産駒。父の名前を見るとちょっと不思議な気持ちになったが、上位人気のサンデー産駒は近4走以内に連対歴がなく、近走成績がパッとしなかったので、それも仕方なかったか。

レースはユキノマーメイドが逃げ、外枠発進だったアサヒライジングは控えて2~3番手を追走した。このあたりは、アサヒライジングの単勝を買った人も折り込み済みだったことだろう。

そのまま直線に向いてから先頭を交わし、近走いまひとつのサンデー産駒たちの差しをかいくぐって逃げ込みを図る。

それがアサヒライジングの勝利へのシナリオで、直線半ばまでは台本通りに進んでいた。

内からディアデラノビアが迫り、一瞬伸びかけたものの脚色が鈍り、アドマイヤキッスが差し届かない位置になってしまったのも、すべてアサヒライジングが描いたシナリオ内に収まってる話のように感じられた。

が。台本にはないアドリブ(?)で迫ってくる馬が1頭だけいた。昨年の覇者デアリングハートで、同馬はアサヒライジングを捕まえると、競り合う場面も見せずに抜き去ってしまった。

デアリングハートは、3走前こそヴィクトリアマイル僅差の3着になったものの、ここ2戦は9着7着。もともとは連続して好走することの多いタイプで、アサヒライジングにしてみたら、まさに「聞いてない」ようなアドリブ差しだったことだろう。

しかし、デアリングハートにも動ける要因はあった。前走は8kg増の436kgで、自己最多体重だった。それが今回は8kg減と絞れ、過去3勝を挙げている420kg台までシェイプアップされていた。こっちこそが本当の台本だったのだ。

デアリングハートは、デビュー戦2着→2戦目1着のスタートを切った馬で、フィリーズレビュー2着→桜花賞3着→NHKマイルC2着クイーンS1着→府中牝馬S1着など、確かに連続して好走するパターンが多い。それだけに前走7着の今回は狙いづらく、単勝も微妙なオッズとなったのだろう。

でも、直線に向いてエンジンに火がつき、アサヒライジングに迫った時に思い出したんですよね。「あ、母父ダンチヒだった」と。

前走のことなど何事もなかったかのように一変してみせる、あのエンジンの付きっぷりは、まさに母父ダンチヒの成せる業だと感じたのだ。

調べてみると、母父ダンチヒの馬には、グラスワンダービリーヴニシノフラワースターリングローズと名馬がズラリと並び、やはりかなりの一変ぶりを見せている。

毎日王冠AR共和国杯と敗れた後に有馬記念で復活したグラスワンダー香港遠征12着阪急杯9着から一変して高松宮記念を勝ったビリーヴ。他にも、ニシノフラワーの晩年の3着2回は、前走で8着13着に敗れた後での一変だったし、スターリングローズが最後のレースでフェブラリーSで3着に入った時(アドマイヤドンと0秒1差)は、前走11着からの巻き返しだった。

グラスワンダーなどは叩いて叩いて良くなった印象もあるが、それにしても、8着→5着→3着と階段を登るように着順を回復させるのではなく、6着→1着と一足飛びに跳ね上がる瞬発力を持っていたのは、母父ダンチヒの影響だったと思われる。

例えれば、炭火で火を起こそうと思ってる馬が多い中、母父ダンチヒだけはライターを持ってるようなもの(笑)。

今回のデアリングハートはそれくらいの一変を見せ、一瞬のうちにエンジンに点火して(アサヒライジングの台本にも火を付けて)、差し切った。

一度火が付くと、連続して好走しやすいタイプであるデアリングハートだが、さて、次走はどうだろうか。

昨年はマイルCSに挑戦して13着に敗れている。現在5歳秋のクラブ馬なので、現役生活は長くてもあと半年だろう。

このまま燃焼し続けるのか。再びライターで点火されることがあるのか。

いずれにしても、引退して牧場に帰るまでは、この血を持つ馬は目を離さない方が良さそうだ。

あ、母になった後も、その仔が「母母父ダンチヒ」の影響力を発揮しそうだから、ずーっと目は離さない方がいいかもしれないか(笑)。

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