「恵まれ勝ち」ではないことを証明する「34秒2」
文/浅田知広

無傷で阪神JFを制した
ピースオブワールドに、宝塚記念で強豪牡馬を斬り捨てた
スイープトウショウ。さらには桜花賞、NHKマイルCの「変則二冠」を達成した
ラインクラフト、そして先のスプリンターズSを
アストンマーチャン。
以前は先々に繋がりづらい感もあった
ファンタジーSだが、近年の勝ち馬はかなりのハイレベルである。
もしかしたら
「秋の2歳重賞なんて、どれも似たようなものじゃないの?」と思われる方もいるかもしれない。
そこで、再来週に行われる同じ2歳のG3・
東京スポーツ杯2歳Sの勝ち馬を列挙してみると、
ブルーイレヴン、
アドマイヤビッグ、
スムースバリトン、
フサイチリシャール、そして
フサイチホウオー。
イメージ的にはこちらの方が
「先々を占う重要な一戦」という雰囲気が強いのだが、結果を見ると特にクラシックへ向けては
「勝ってはいけない一戦」という印象すら受け、
ファンタジーSとはとても比較にならない。それほど、近年の
ファンタジーSはハイレベルなのだ。
そんな一戦を今年制したのは、
オディールだった。
オディールの母
キュンティアは、デビュー2戦目に
阪神3歳牝馬Sで
2着に好走したものの、重賞連対はそのひと鞍のみに終わってしまった。
しかし、その娘・
オディールは
「ハイレベルになった」ファンタジーSの優勝馬。母よりさらに上の成績を残してゆく可能性は十分にある…、と言っていいのだろうか?
レースでとにかく目立ったのは、2着に敗れた
エイムアットビップだろう。3コーナーで先頭に立つと一気に後続を突き放し、
800m45秒6、
1000m56秒9のハイラップ。
さすがに最後は力尽き、ラスト1ハロンは
12秒8(レースのラップは12秒6)と止まってしまったが、スピード能力の高さはしっかりと証明した一戦だった。
そんな
エイムアットビップを残り100mで捕らえ、さらに1馬身4分の1突き放した
オディールをどう評価すべきかは難しい。
前がバテるのに乗じて差し切った、と見てしまえば、
「恵まれ勝ち」と考える人がいても不思議ではない。
ただ、ここで注目したいのは、
オディールの上がりタイム
「34秒2」だ。
前が止まっただけの一戦なら、上がり35秒台での差し切りも多々見られるもの。しかし、
34秒2ともなると、自身もしっかり切れる脚を使った証明にほかならない。
確かに
エイムアットビップからは離れていたが、2~3番手を追走した自身も、決して楽なペースではなかったはずだ。
そこから見せた差し馬並みの
上がり34秒2。
「恵まれ勝ち」で片づけてしまうのは少々無理がある。
「厳しい流れを2~3番手で追走し、直線で抜群の切れ味を披露して一気に差し切った」とみるとどうだろう。冒頭に挙げたG1馬4頭に迫る存在となっていきそうな
「雰囲気」はあるのではないだろうか。
続く
阪神JFで結果を出せるかどうかはともかく、
春のクラシックや、さらにその先まで注目していきたい存在だ。