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乱ペースに冷静に対応した騎手の腕、馬の能力
文/編集部

今年のジャパンCダートジャパンCのレースラップを並べると、次のようになる。

ジャパンCダート
7.1-10.7-11.9-11.7-11.5-11.9-12.6-12.3-12.5-12.0-12.5

ジャパンC
12.9-10.7-12.0-12.3-12.2-12.7-12.8-12.6-12.2-11.3-11.1-11.9

10~11秒台のラップが刻まれた部分を赤字で示したが、一目瞭然で、ジャパンCダート前傾ジャパンC後傾ラップだった。

1000m通過タイムは、ジャパンCダート59秒0で、ジャパンC60秒1ダートの方が芝より速いなんて、そんなのあり!? って思いますよね。

でも、実は、ジャパンCダート前傾ラップになりやすい歴史があり、例えば第1回(00年、勝ち馬ウイングアロー)も次のようなラップを踏んでいる。

7.2-10.4-11.3-11.5-11.7-11.9-11.9-12.8-13.0-12.8-12.7

00年は前半の1100m通過が64秒0で、今年は64秒8。第1回の方が速かったのだ。

このような前傾ラップになりやすいのは、東京競馬場のダート2100mコースが、1コーナーまでの距離が短いからだろう。

つまり、施行コースが変更となる来年以降は、こんなハイペースは見られない公算が大きい。ってことは、今回ヴァーミリアンによって樹立されたレコードは、永久不滅かもしれませんね。

第1回ジャパンCダートが超ハイペースとなったのは、逃げ馬のレギュラーメンバーが外枠から飛ばしたからだったが、今年の要因はどこにあったのだろう。

その伏線は、10月31日に行われたJBCクラシックにあったのではないかと思われる。

JBCクラシックで1番人気に推されていたのは、ブルーコンコルドだった。ところが同馬は4コーナーで外に振られる不利を受けて4着に敗れた。

G1・5勝馬は、今回、雪辱を期したに違いない。東京ダート2100mで不利とされる外枠(7枠13番)に入ってしまい、力を出し切れるように先行策を取った。ここからハイペースが始まったように見えた。

向こう正面に入ってもペースは一向に緩む気配がなかったが、各馬が追走する場面を見ていて、ちょっと驚いたことがあった。

緑色の帽子のジョッキーが、黄色の帽子のジョッキーより内に潜り込み、内ラチ沿いを進んでいたからだ。

緑色の帽子のジョッキーとは横山典騎手で、枠順では外だったはずのフィールドルージュ(6枠11番)が、5枠10番のワンダースピードより内に入っていた。その姿を見た時は「さすが」と唸らされ、同時に「これはやられるな」と観念した。

直線に向いて内を突いたフィールドルージュは、いつもより早めのスパートで先頭に躍り出た。横山典騎手はペースが速いことが分かっていただろうし、それであれば、後続馬は追走に脚を使わされて直線では伸びきれないと考えるだろう。

素人目にも、フィールドルージュは完璧なレースをしたと見えた。それでも、それをねじ伏せるように伸びてきた馬が1頭だけいた。

これは誤算だったか、あるいはヴァーミリアンならその可能性もあると想定していたか。いずれにしても、フィールドルージュはこれだけのレースをして敗れてしまったのでは、仕方ないとしか言いようがない。

驚異的なレコードを樹立したヴァーミリアンは、武豊騎手がレース後にコメントしていたように、乗り手のコントロールに素直に応じる性格が勝利の一因となったのだろう。

ペースが速くても「追いかけないように」して、直線に向いても「すぐに先頭に立たないように」した、という。

聞いてる分には簡単そうに感じるが、騎乗しながらそのことを冷静に判断できる鞍上だからこそ可能となったことでもあるはずだ。

また、いくら馬と騎手が冷静でいられても、そればかりで勝てるほど生やさしいペースではなかった。

エルコンドルパサーサンデーサイレンスノーザンテースト。それらの名血を彩られたスカーレットインクの母系の底力には、ただただ敬服するしかない。

第1回のジャパンCダートは、超ハイペースを察知して後方に控えたウイングアロー&岡部騎手が、3~4コーナーで仕掛けられてそのまま直線で抜け出す圧勝だった。鞍上の岡部騎手はG1レースで38度目の戴冠だった。

今回の武豊騎手G1通算60勝目。そればかりでなく、今回上位に入った武豊騎手横山典騎手安藤勝騎手は、00年以降の中央G1で、3着以内に入った回数がもっとも多い3人でもある。

乱ペースで頼りになるのは名手の腕。そう思わされる結末でもあった。

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