切れ味でこれほど魅了し続ける種牡馬はもう出ないんだろうな
文/編集部

前日の
愛知杯で
JRA重賞300勝を達成した
サンデーサイレンス産駒が、翌日の
阪神Cも制し、早くも重賞勝利記録を
301勝に伸ばした。
重賞通算300勝と言っても、
サンデー産駒にとっては、
ゴールデンウィークにおけるみどりの日並みの
“通過点”に過ぎないのだろう。連日の重賞制覇をあっさり成し遂げたのを見て、そんな感じを受けた。
しかし、
ゴールデンウィークにおけるみどりの日と同じように、そろそろ終わりに近づいているのも事実と言える。あと2週間も過ぎれば、
ディアデラノビアや
スズカフェニックスは6歳となり、
サンデー産駒の最終世代である現4歳馬たちも
5歳となる。
これまでに中央登録された
サンデーサイレンス産駒は
1415頭を数えるが、現在も競走馬登録をされているのは
166頭。およそ9割の馬たちは、すでに登録を抹消されたことになる。
もちろんその中には
フジキセキや
アグネスタキオン、
スペシャルウィークなど、すでに産駒を送り出し、サンデー直仔と直接対決をしている馬もいるし、
ディープインパクトのように現役競走馬は引退し、産駒デビューを控えている種牡馬もいる。
しかし、彼らの名前を出してそのレースぶりを思い出したり、今回の
愛知杯や
阪神Cのゴール前を改めて見ると、その偉大な切れ味を見られなくなる日が近づいているのかと、つい感傷に浸ってしまう。
正直な話をすれば、今回の
阪神Cにおける
スズカフェニックスは、
危険な人気馬だと思っていた。出走馬18頭の中で、
3歳以上のG1を制した唯一の存在であることは認められても、
気になるデータがあったからだ。
サンデーサイレンス産駒は、
阪神芝1400mの重賞を4勝しているが、それはすべて
牝馬によるもので
牡馬は勝ったことがなかった。
これは
阪神芝1200mにも言えることで、
牝馬は
ビリーヴが
02年セントウルSを制しているものの、
牡馬は
未勝利。
サンデーサイレンス牡馬は、阪神の芝1200&1400m重賞で[0.2.3.13]という成績だったのだ。
スズカフェニックスもこの成績の一端を担っていて、今年2月の
阪急杯では、タイム差ナシの接戦を演じながら
ハナ差届かず3着に敗れていた。あれを見た時、壁の厚さを実感したのだ。
今回の
スズカフェニックスは、あの時と同じ
休み明けからの3戦目。後方から伸びてこないことは想像しづらかったが、まとめて差し切るまでは難しいのではないかと感じていた。
ところが結果はご覧の通り。その末脚は、明らかに別格のものだった。こちらは、
サンデーサイレンス産駒の弱点を10年以上探し続けて、またも虚しく敗れ去る事態に見舞われた。
今回、
スズカフェニックスが記録した上がり3Fは
34秒1。メンバー最速は
ブルーメンブラットの
34秒0に譲ったが、それに次ぐ速さだった。
サンデーサイレンス産駒の芝重賞勝利は今回の
阪神Cで
291勝目となったが、そのうち実に
223勝が
メンバー3位以内の上がりを計時しての差し切り勝ちである。
JRA重賞300勝の記録は、当分の間破られない、というか、我々が生きている間は不滅の大記録だろうと思われるが、同時に、これだけの切れ味で魅了し続けた種牡馬というのも、今後は現れないのではないだろうか。
ダイワスカーレットを輩出した
アグネスタキオンや、
ドリームジャーニーらを出している
ステイゴールドも切れる産駒を出しており、おそらく
ディープインパクトもそういった産駒を送り出してくるのだろう。それでもやはり、産駒全体のアベレージで父に並び立つのは容易ではないと思われる。
サンデーサイレンス産駒の最年長G1制覇は、
国内では
ダイワメジャー(07年マイルCS)の
6歳、
海外を含めれば
ステイゴールド(01年香港ヴァーズ)の
7歳となる。
重賞勝利ということでは、
ユキノサンロイヤル(05年日経賞)と
サイレントハンター(01年新潟大賞典)の
8歳が最高齢だ。
スズカフェニックスは、
武豊騎手の言葉通り、
6歳となる来年も切れ味鋭い末脚を見せてくれることだろう。でも、そんなサンデー特有の脚を見られる機会も、時を経るごとに確実に減っていく。見逃さないように、しかと目に焼き付けていきたいものだ。