自ら動いてスローペースを断ち切ったのは実に天晴れだった
文/編集部
『一年の計は金杯にあり』。誰が言い出したのか知りませんが、そうらしいです。
バレンタインデーにおけるチョコレートと同じで、上手いこと消費者が乗せられてるような気がしないでもないけど、今年は
『JRAプレミアム』という催しも手伝い、
金杯の馬券売上が前年比で大幅にアップしたとのこと。それはそれで喜ばしいですね。
ただ、今年の
中山金杯は、戦前にはひとつ不安なことがあった。それは
逃げ馬不在であったこと。
今年は
出走馬16頭のうち8頭が重賞ウイナーとそれなりのメンバーが集まったものの、有力馬は
差しタイプばかり。
キャリア33戦がすべてダートという9歳セン馬のカオリノーブルがハナを奪うんじゃないか!?という声もあったほどで、新年早々、
緩~いスローペースに陥るのかと思われた。
ところが、ゲートが開くと、
田中勝騎手が
メイショウレガーロを押して前へ進め、15頭を引き連れて先頭に立った。重賞実績もある馬がハナを切れば、それなりに流れるのではないか。人気上位馬の馬券を握りしめていた人の中には、そう思って安堵した人もいたのではないか。
しかし、そう簡単に事が上手く運ばないのが競馬というもの。
メイショウレガーロが勢いよく飛ばしたのは最初だけで、1コーナーを回った頃にはガクンとペースを落とした。
このあたりは、前年の
中山金杯を逃げ切った
田中勝騎手の戦術だったのだろうが、このペースダウンで掛かる馬も見受けられ、最内枠スタートだった
フサイチホウオーなど、エンジンが
“空ぶかし”のような状態になっている馬が何頭もいた。
1000m通過は
62秒0。明らかな
スローペースだった。調べてみると、1000m通過が
61秒0を超えた
中山金杯は、
ジョービッグバンが2番手から抜け出して勝った00年以来のこと。
62秒0以上となったのは、なんと
88年以来20年ぶりだった。つまり、
今年の中山金杯は、平成初の1000m通過62秒台だったってことです。
スローペースの競馬がすべて悪いわけではないけれど、見ている側としてはつまらなく感じやすい。
有馬記念のレース直後に、引き上げてきた騎手に向かって
「もっと前に行けよ!」と当たり散らしている人がいたが、まあ、見ているだけだとそう言いたくもなる。同じことが08年最初の重賞でも起こるのか……。3コーナーに差し掛かった縦長の隊列を見ていたら、そう思わざるを得なかった。
それを断ち切ったのが、
アドマイヤフジだった。いつもより前に付けていた
アドマイヤフジ&
川田騎手は、4コーナー手前で自ら仕掛けて
メイショウレガーロを追いかけると、直線では競り潰すように交わして、そのまま突き放した。
熾烈な2着争いを後目に、後続に付けた着差は
1馬身3/4。タイムにして
0秒3差だった。2着
エアシェイディから9着
センカクまでの差も
0秒3差だったから、いかに完勝だったかが分かるだろう。
過去20年の
中山金杯で、1着と2着の差が0秒3以上開いたのは、
良馬場に限れば
2回しかない。91年の
カリブソング(0秒4差)と04年の
アサカディフィート(0秒6差)で、そのどちらも優勝が
6歳時で、その後も高齢まで活躍している。奇しくも同じ
6歳で制した
アドマイヤフジも、まだまだこれからが楽しみと言えるだろう。
「前走(鳴尾記念)は自分が下手に乗って負けた」と
川田騎手は話しており、今回はその反省を活かした強気の騎乗だったのだろうが、自ら動いてスローペースを断ち切ったレース運びは、実に天晴れだった。
一年の計が金杯にあるのは、
馬券的な話ばかりでなく、
売上的にも、
レース的にも当てはまるのなら、とりあえず、
中山金杯的には明るい兆しが見えたと言えるんじゃないだろうか。来週以降も
積極的で激しい競馬を見たいものだ。