完全復活を果たした『競馬界のカール君』
文/編集部
01年に
新潟競馬場が改修され、その後、
東京芝の直線距離が延び、
阪神芝に外回りコースが完成。JRAは
『長い直線での攻防』がお好きなようだが、直線距離が延びることに対して、ファンからはイマイチな反応も少なくなかった。結局、
「直線の長い攻防」というよりは、
「直線に向いてのよーいドン」になることが多いですからね。
小回りコースでの競馬は、
位置取りや
ペースなどによって結果がガラリと変わりやすく、すなわち
『推理』のし甲斐がある。
ところが、
直線の長いコースでのレースは、結果を左右する比重が
直線の瞬発力に偏りすぎるため、
「結局、サンデーかよ」みたいなことに陥りやすい。
イマイチな反応をする人の言い分は、直線だけの競馬になるから予想をしても意味がない、というものだが、まあ、大半は
馬券を外しての恨み節でしょう(笑)。気持ちは分からなくもないけど。
小回りコースよりも直線の長いコースの方が上回るものは、レースの
『ライブ感』だろう。長い直線を使っての追い比べは、たとえ
「よーいドン」であっても、現場で見ると楽しい。
JRAは、『推理』面よりも、競馬場での『ライブ感』を重視した、と考えれば、その戦略も納得できるのではないか。
そして、ある意味、こんな馬の出現を望んでいたのではないかという気すらする。
オースミグラスワンだ。
新潟芝の外回りコースの直線距離は
659m。
京都(404m)や
阪神(476.3m)の外回りは言うに及ばず、
東京(525.9m)よりもさらに100m以上も直線距離が長い。
ボーイング747を横に9機並べてもまだ余裕があるというこの長い直線をフルに活かして、
オースミグラスワンは、最後方から全馬を抜き去るというのだから痛快極まりない。
今回の
新潟大賞典は、1000m通過が
60秒7で、上がりは4Fが
44秒9で、3Fが
32秒9。2番手追走から先に抜け出した
マンハッタンスカイが
2着に粘ったことを見ても分かるように、流れ自体は先行馬有利と言えた。
それを次元の違う脚で捕らえて交わし去った
オースミグラスワンは、どう見ても往年の
『カール君(ビートたけしのスポーツ大将)』にしか見えませんでした(笑)。他の馬たちは
「相手が悪かった」としか言いようがない。
オースミグラスワンは
06年にもこのレースを勝っていて、その時も
馬番5番で、
2馬身差の完勝だった。それを考えれば、今回の
3番人気というのは評価が低かったのかもしれない。
しかし、その背景には
6歳という年齢も関係していたのだろう。
新潟大賞典は
6歳以上に厳しいレースで、特に
外回りの2000mになってからは勝ち馬が出ていなかった。現に今年も、
ひと桁着順に入った6歳以上の馬は
オースミグラスワンと
シルクネクサスだけで、10着以下はすべて6歳以上の馬たちだった。
オースミグラスワンは500kgを大きく超える大型馬ながら気が小さい面があったようで、道中でゴチャつくことを嫌う。また、雨が降って馬場がぬかるむのも良くないタイプだ。
それなのに、
ゴチャつきやすい内枠に入ってしまうことが多く、
雨に祟られることも少なくなかった。本当にツイてないケースが多かった。
戦績を見ると、一昨年に
新潟大賞典を勝った後、
ふた桁着順が5回もあり、
競走中止も一度記録している。それでも気持ちを切らさずに、
6歳になった今年に勝ち鞍をふたつ加えた。これは本当に立派だ。
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荒川厩舎は、昨年に開業して、これが重賞初制覇。スランプに陥った同馬を立て直した手腕は、高く評価されるべきだろう。
オースミグラスワンは、準OPクラス以上での勝利がこれで4つ目。
06年松籟S(京都芝2400m)、
06年新潟大賞典(新潟芝2000m)、
08年大阪城S(阪神芝1800m)、
08年新潟大賞典(新潟芝2000m)と、すべて
直線の長いコースで挙げている。
「直線だけのよーいドン」がつまらないという人は、一度、
オースミグラスワンのレースを競馬場に見に行きましょう。目の前を
『カール君』ばりに突き抜けられたら、たとえ馬券がハズレても、
「いいものを見させてもらった」と思えることだろう。