四位騎手、昆師とも昨年の経験がしっかり生きたといえる
文/鈴木正(スポーツニッポン)

競馬記者たるもの、
ダービーは当てたい。なんとしても当てたい。そういう時ほど外野の声がいつも以上に耳に入って、予想スタンスにブレが生じる。
NHKマイルCの走りを見て、
ディープスカイこそ世代最強と感じた。しかし、さまざまな声が否応なしに聞こえてきた。
「あの切れは典型的なマイラーだ」「ダービー馬は皐月賞組から出るんだよ」「サクセスブロッケンは無敗だぞ。しかも血統は芝向きだ」。
迷って迷って、さらに迷って…原点に立ち戻って◎
ディープスカイ。だが逡巡を重ねた自分が恥ずかしくなるほどに、
ディープスカイと
四位騎手は素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。
パドックでもう勝利の予感がした。毛づや、落ち着きとも素晴らしい。栗毛の馬体は神々しく見えるほどだった。
ダービーなのだから、どの馬も良く見えるのだが、その中でもひときわ輝いて見えた。
確信その2は枠入りの時。大歓声に興奮する馬が何頭か出る中、
ディープスカイはじつに落ち着いていた。
四位騎手にポンと右の尻を叩かれてゲートに入った時、それまでやや緊張していた自分の心もスッと落ち着いていくのを感じた。
四位騎手も冷静だった。
「ブラックシェルが行くなら譲って、行かないなら自分が前へ」と作戦を練っていた。
NHKマイルCでもっとも迫ってきた馬と、その鞍上にいる
ダービー4勝騎手の動き方次第で自分のリズムを決める。何とも心憎いプランではないか。
4コーナーでは
「フローテーションがいたのでワンテンポ置いた」と語った。
ダービーという大舞台、しかも
1番人気に乗って勝負どころを迎えてなお、周囲のライバルを的確に判断できる。この冷静沈着ぶりは素晴らしかった。
昨年、
ウオッカで
ダービーを制した
四位騎手。
ダービーをいい意味で呑んでかかれる騎手となったのだろう。
そして直線のパフォーマンス。
ダービー史上に残るハイライトだった。
四位騎手は
「雨が続いたので1番枠はイヤだった」と語ったが、インで踏ん張っていた
スマイルジャックが2着に頑張ったように、内でもスピードが乗るコンディションだった。
それを大外からナデ切りだ。通った場所でいえば
ナリタブライアンか
ディープインパクトか。歴史的名馬たちに思わず重ねたくなる、迫力ある走りだった。
NHKマイルC前、
昆師に話を聞く機会があった。
この馬は東京で大仕事をする予感がする、そう話していた。今年2月の東京での500万マイル戦、2着に敗れたが
上がり3F33秒4の脚を使ったのを見て、そう感じたのだそうだ。
そこで
NHKマイルCを春の目標に置き、逆算してローテーションを組んだ。そのプランの中に皐月賞出走はなかった。
「中山はトリッキーなコース。あまり出走させる意味を感じなかった」。指揮官はあっさりとそう言って、クラシック一冠目の可能性を自ら捨てた。
裏には、昨年の苦い経験があった。
昆師のもとには
ローレルゲレイロという素質馬がいた。勝てないまでも2、3着を繰り返す堅実なタイプ。だが
皐月賞で中山独特の流れの中、自分のペースを見失い、初めて
9着という惨敗を喫した。
続く
NHKマイルCでは
1番人気に支持されながら
2着。
皐月賞の敗戦を引きずっている、
昆師はそう感じた。同じ轍は踏まない。この英断があったからこその
NHKマイルC制覇であり、さらに
ダービーを優勝できた最大の理由かもしれない。
とするならば、
四位騎手、
昆師とも
昨年の経験がしっかり生きたダービーだったといえる。
初めて舞台に上がってサッと勝てるほどダービーは甘くない、そういうことだ。
それにしても
皐月賞を見送った馬が勝ち、
皐月賞2、3、4着馬は複勝圏内に入れなかった。来年以降、
ダービーを予想するにあたって
皐月賞をどうとらえればいいのか、最後にまたわずかな迷いが残った。