内田博幸騎手のポジティブな姿勢がVを引き寄せたように思える
文/鈴木正(スポーツニッポン)

雨が降ったら黙ってフレンチ(デピュティ産駒)。雨中の
昨年のNHKマイルC、
ピンクカメオが大外からしぶきを上げながら差し切った(そういえばこの時も
内田博幸騎手だった)。
稍重でパワーを問われた、同じく
昨年のエプソムC。
フレンチデピュティ産駒が1、2、3着を独占(
エイシンデピュティ、
ブライトトゥモロー、
サイレントプライド)した。
そしてこの
宝塚記念。たっぷりと水を吸った馬場を全く苦にせず逃げ切った
エイシンデピュティに、
フレンチ産駒の絶大な雨適性を見た思いだ。
決して恵まれての逃げ切りではない。
ダイワスカーレットに最後まで食らいついた
大阪杯。ゴールまで脚さばき確かに逃げ切った
金鯱賞。能力の高さは示していた。そこに
雨という理想のスパイスが加わってG1制覇という大輪の花が咲いた。
ヘルメットもゴーグルもまったく汚れていない
内田騎手の笑顔がさわやかだ。
「JRAに移籍して初めてのG1勝ち。いつか来るとは思っていたが正直うれしい」と語った。
移籍して当初は予想したほどには勝ち星に恵まれず、美浦の口さがない向きから
「ウチパクも意外に大したことないね」とささやかれた。正確に言えば一流騎手並みに勝ってはいる。だが前評判があまりに高かっただけに期待はずれのように周囲には感じられたのだろう。
そんな声は、当然、本人の耳に入っている。だが
内田騎手は表情を変えることなく淡々と攻め馬をこなした。他人の声にいちいち反応していてはリズムを崩すだけ。自分をコントロールできなければトップには立てない…。そう自分自身に言い聞かせているように、筆者には見えた。
今回は
岩田騎手が
ロックドゥカンブを選択したため回ってきたチャンスだった。意地悪く言うなら、
岩田が優勝は難しいと判断した馬に乗るということだ。
だが
内田騎手は
「エイシンの会長(平井豊光氏)が僕を指名してくれた。うれしかった」と前向きにとらえた。このポジティブな姿勢がVを引き寄せたように思える。
内田騎手は口さがない他人の声の中で平常心を保ち、高いモチベーションを抱いて大一番へと臨んでいた。
ゴール前では左ムチ連発。最後は雨のせいか、滑ってムチが飛んでしまい、
佐藤哲騎手の顔にぶつかってしまったようだった。その反省もあってか、ガッツポーズもなくウイニングランもなかったが、それも控えめな
内田騎手らしくて良かった。勝利騎手インタビューで得意のバック宙を披露して、ようやく
内田騎手らしい笑顔が浮かんだ。
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野元師は、実に
91年エリザベス女王杯(リンデンリリー)以来のG1勝ち。いつも調教師席で笑顔で取材に応じてくれる、笑顔の素敵な先生だ。
最近は馬房の回転巧みな若手調教師の台頭が目立つが、昔ながらの調教技術でしっかりと馬をつくっていく、こうしたベテラン調教師が表彰台に立つのも、またうれしい。
と、ここまで書いていたら
内田騎手が阪神最終レースを
ホッコーパドゥシャで逃げ切った。この馬場ならインでスイスイと逃げた馬が有利と見て、すかさず
エイシンデピュティと同じ戦法か…。筆者は
内田騎手をさわやかで気持ちのしっかりした男と認識しているが、なかなかしたたかな一面も持っているようだ(笑)。