何が起こっても不思議ない条件の時ほど、何も起こらない
文/編集部
オリンピックだから何があるか分かりません。
野球はゲームセットまで分からない。
競馬は走ってみるまで分からない。
男女の仲もいつまで続くか分からない。
結局、何も分かんないんじゃねえかって毒づきたくなるのは、
競馬で負けた後だからでしょうか(笑)。
まあそれでも、何が起こるか分からないことだらけのこの世の中にあって、
「何が起こっても驚けない!」と強く言われる時ほど
平穏に収まるから不思議ですよね。
出会い満載!と思って
結婚式の二次会に行ったのに、なぜか
帰りの電車も普通に独りだったりして(笑)。
連続開催5週目(それもずっとAコース)での小倉芝1200m戦で、
フルゲートの18頭。前日から雨が降って馬場は
稍重。しかも、
ハンデ重賞で
トップハンデを
牝馬が担うことになり、その馬がパドックに現れたら馬体重が
前走比10kg増だっていうんですから……今年の
北九州記念は、もう何が起こってもいいようにガマ口を全開にして待ちかまえてしまいました(笑)。
ところが終わってみれば、その
トップハンデで
10kg増の牝馬が
2馬身差で完勝をして、2着には
3番人気馬が、3着には
4番人気馬がそれぞれ入線。しかも、2着と3着に入った馬はいずれも
下級条件の馬で、それでも上位人気に推されてそれに応えるというんですから、
ファンの審眼にも驚かされまくりました。
正直なところ、
2着以下は斤量差と道悪の巧拙の差が出た結果と思われますが、優勝した
スリープレスナイトは、誰にも文句の付けようがない、まさに
完全勝利でしょう。
好スタートを決めてハナを奪えるほどのスピードを見せながら、内から
エムオーウイナーが上がってきたらそれに先頭を譲り。2番手に付けた後に直線で軽く交わして、後続を突き放すんですから。馬券で同馬を蹴飛ばした人も、素直に白旗を揚げたのではないでしょうか。
まるで、スタート直後に浮き上がってきたら頭ひとつリードして、ターンの時のタッチは他の選手に譲り、ターンをし終わって再び浮かび上がってきたら先頭を奪い返し、そのまま押し切った
平泳ぎの
北島選手のよう。
いや、
スリープレスナイトの場合は、これで
ダート1200mが[6.1.0.0]、
芝1200mが[2.0.0.0]ですから、
バタフライでも
自由形でも金メダルを取りまくりの米国の
フェルプス選手のような存在なのかもしれません。
いずれにしても、
規格外の存在であることは確かでしょう。
スリープレスナイトはご存じ
ケイティーズの一族です。
ケイティーズは
愛1000ギニー覇者で、
英国3歳女王に選ばれた名牝。母としては
ヒシアマゾン、
ヒシナイル、
ヒシピナクルらを輩出し、その妹である
ケイティーズファーストの系統からは
アドマイヤムーンが誕生しています。
スリープレスナイトの母である
ホワットケイティーディドからは、3~4勝する馬がコンスタントに出ていながら重賞ウイナーがいませんでしたが、やはり
名牝系の底力は違いましたね。
スリープレスナイトの父
クロフネは
デピュティミニスター系で、この系統からは
クロフネ以外にも
アドマイヤジュピタや
エイシンデピュティ、
サンアディユや
レジネッタなど、
勢いに乗ると手が付けられない活躍を見せる馬が多く出ています。
このふたつの系統を掛け合わされた
スリープレスナイトは、どんな走りを見せても説明可能の印象を受けます。
芝ダートを問わずスピード豊かな父系、
底力あふれる牝系。何とでも言えそうな気がしますが、ただひとつ、血統屋でも予測不能なのが
『能力のリミット』ではないでしょうか。
果たして
スリープレスナイトはどれほどの器なのか。大きすぎてどこが限界点なのか、言い切れる人はいないでしょう。
レース後のインタビューで早くも
G1(スプリンターズS)の話が出ていたように、あくまで今回は
通過点に過ぎなかったようですが、もしかしたら
スプリンターズSも
通過点になる可能性があるでしょう。
スリープレスナイトの主な勝ち鞍の中に
「北九州記念」という文字が埋もれてしまう日も、そう遠くないような気がします。