偉業を風化させないためにも、レコードが長く残ることを願う
文/編集部

逃げた
ビービーガルダンが作ったペースは前半3Fが
33秒9。予想以上にすんなりハナに立たせてもらえた。
函館スプリントSのそれが
32秒9だったわけで、それを考えればペースはかなり緩かった。
スローペースと言ってもいいだろう。
函館スプリントSが
超がつくハイペースとなり、
1分8秒4のレコードタイで決着。同じ先行馬が顔を揃えた1戦となれば、またハイペースになるだろうと予想するのは自然の流れ。ただ、今年の
CBC賞もそうだったが、
速くなるぞと周囲が騒いだ時に限って、レースのペースは緩みがちという(笑)。
ジョッキー同士が牽制し合うというのも要因のひとつかもしれないが、ポンと1頭が先頭に立つと意外に流れが落ち着く。そのペースを考えれば、
1分7秒9のレコードが出たのは少々驚きだが、上位は
ラチ沿いを通った馬が占め、
外を回った差し馬は見せ場すら作られせてもらえなかった。
上がり馬の
ビービーガルダン、
マヤノツルギは
2、3番人気に推されたが、
2、5着ならよく走ったと思う。
ビービーガルダンは自身が前走でマークしたレコードを0秒3上回る時計で走破し、
マヤノツルギも自分の持ち時計を0秒1詰めたのだから。悲観することはない。
1番人気の
キンシャサノキセキは内枠が災いし、少しスムーズさを欠く競馬だったが、
馬券圏内を確保して地力を証明してみせた。
キングストレイルもスタートで大きく出遅れながら、内を捌いて
4着まで押し上げてみせた。
ただ、それ以上に頑張ったのが、
8歳にして
レコードで駆け抜け、
重賞初制覇を飾った
タニノマティーニだろう。
単勝161.4倍の16番人気で
1着。2、3着が2、1番人気なのに3連単は
56万馬券という。
マティーニをたらふく飲んでベロベロに酔っていても、この結果を見た瞬間、酔いは一気に醒めたと思います(笑)。
確かに
タニノマティーニは、8勝中5勝を
北海道の洋芝で挙げていて、
洋芝巧者という強調材料があった。4走前の
テレビ愛知オープンでは
1分7秒6で走り、自身の持ち時計を短縮していた。
CBC賞でも
⑧着ながら、
スリープレスナイトから0秒5差と善戦していた。
今回のレースぶりも実に堂々としたもので、ハナを切れないとモロいなんてどこ吹く風。好位のインで見事に折り合い、逃げた
ビービーガルダンをきっちりと捕らえて先頭でゴールを駆け抜けた。レースぶりからは、
単勝161.4倍の16番人気馬とは到底思えない。
また、テン乗りながら、その能力を存分に引き出した
秋山騎手の騎乗も光った。
秋山騎手は
インサイドワークが上手く、レースぶりにソツがないと感じることが多い。馬券を買う人間としては、実に頼りがいのあるジョッキーの1人だ。
かと思えば、
04年の中京記念で差し馬だった
メイショウキオウ(
単勝161.9倍の16番人気)を逃げ切らせてみたり、
06年の函館スプリントSで
ビーナスライン(
単勝77.4倍の13番人気)で直線一気を決めてみたり。穴を演出することも少なくない。
今回の勝利は、
馬の調子や
展開、
枠順、
乗り替わりなど、
すべてが良い方向に作用したという印象を受けるが、それにしても天晴れだった。馬券的中の喜びに酔いしれることは叶わなかったが、
8歳馬にこれだけの大激走を見せられると、馬券を外しても、なんか清清しいです(笑)。
タニノマティーニの同期では、
ブルーコンコルド、
メイショウバトラー、
サカラート、
アイポッパー、
グラスボンバー、
ヴィータローザ、
ワンモアチャッター、そして
新潟記念に出走していた
エリモハリアーなどが現役として重賞戦線で頑張っている。こうして馬名を列挙してみると意外に多いが、
ネオユニヴァースや
サクラプレジデントが今年、初年度産駒をターフに送り出していることを考えると、
8歳という年齢に重みを感じずにはいられない。
シンガリ人気だった
8歳馬が
レコードをマークして
重賞初制覇。この偉業を風化させないためにも、
タニノマティーニのレコードが長く残ることを願う。そしていつか、今年の
キーンランドCの話が、
酒の肴にできる日が訪れると信じて待つのみ(笑)。