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「いい馬だね。ありがとう」と、横山典騎手は育成スタッフに感謝の声をかけた
文/村本浩平

1番人気に支持されたロジユニヴァースが、直線で前を行くホッカイドウ競馬所属馬の2頭を交わしてゴールに入ったすぐ後、検量室に関係者の話を聞きに行こうとウイナーズサークルに近づいた時、「村本さん!」と声をかけられた。

その声の主とはロジユニヴァースの生産、そして育成牧場でもあるノーザンファームの育成スタッフだった。

反射的に、「おめでとうございます」と返した僕に対し、そのスタッフは、「生産馬が勝ったことは嬉しいですけど、僕が乗っていたのはダノンヒデキですから」と苦笑いを見せ、そして、「ここにロジユニヴァースに乗っていたスタッフがいますよ」と同僚からの祝福に頭を下げ続ける若手スタッフを紹介してくれた。

僕も「おめでとうございます」と話しかけると、その若手スタッフは、「ありがとうございます!」と一際大きな声で返事を返してくれた。

この春、ノーザンファームには幾度となくPOGの取材で足を運んだが、ロジユニヴァースの母であるアコースティクス(どうしてもPOGの取材では馬名ではなく、母の名前で馬を覚えてしまう)の名前は評判馬として聞いたことがなかった。

そのことについて若手スタッフ(仮にA君としておきます)に聞くと、「僕のいた厩舎には他にもいい馬がたくさんいましたから。確かに取材の時期には目立ってなかったのは事実でしたが、その後、急激に良くなって、入厩が決まった時には『新馬戦でもいけそうだ』と思うようになりました」と教えてくれた。

その期待通りにロジユニヴァースメイクデビューを快勝。この勝利は父ネオユニヴァースにとって産駒の初勝利ともなったわけだが、実はA君にとっても、自分が入厩まで携わった馬としては初めての勝利だった。

メイクデビューで勝利を収めたロジユニヴァースは、再びノーザンファームに戻ってきて調整されることとなった。

メイクデビューではまだ頼りなく見えた馬体も、この調整期間中に逞しさを増していき、そして精神的にも落ち着きを見せるようになっていたという。

「いい状態で送り出せましたし、馬体が大きく増えたこともこの馬には良かったと見ていました」とA君は、プラス26㎏の馬体でパドックを堂々と歩くロジユニヴァースを見て、より札幌2歳Sでの好走を期待するようになった。

メジロチャンプが逃げ、ホッカイドウ競馬所属イクゼキュティヴがその後につけたレースは、ほとんど隊列を変えることなく直線へと向かっていく。先に抜け出したのはイクゼキュティヴモエレエキスパート。だが、前を行くホッカイドウ競馬所属の2頭を力強く交わしていったのは、A君が牧場スタッフの誰よりも能力を信じていたロジユニヴァースだった。

同僚のみんなに押し出されるようにウイナーズサークルへと入ったA君は、「ネオユニヴァースにとって初勝利も、初重賞制覇もこの馬になりましたが、それは僕にとっても一緒なんですよね。こうなったら初ダービー制覇もロジユニヴァースになってもらいたいです」と胸ポケットに刺さったままのペンを隠しながら話してくれる。

そこに、口取り写真に参加するために、鞍上を務めた横山典弘騎手がやってきた。すると横山騎手はA君を見るなり立ち止まり、「いい馬だね。ありがとう」と声をかけてきた。その時、A君はあまりの嬉しさからか、ちょっとだけ顔がくしゃくしゃになっていた。

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