人馬とも少し遠回りをしたけど、電撃的なG1制覇
文/浅田知広

ファンファーレが鳴り終わったと思ったら、枠入り順調、あっという間に全馬ゲートインを済ませてスタートが切られた今年の
スプリンターズS。レースも
「電撃の6ハロン」1分8秒。
同じお金を払って(馬券を買って)いるのだから、手に汗握る時間が長ければ長いに越したことはない、と言ってしまうと、ただ単にケチくさいだけのような気もするが、今年はあまりに電撃過ぎた。
もちろん、枠入りをゴネる馬がいて2分、3分と待たされるのも、他の出走馬にとってもあまり良いことではないのだが、なにせここは
G1。
もうちょっとどっしりと、重みある雰囲気があってもいいんじゃないか、などと考えながらレースを眺めていた。
ところが。
「いやあ、やっぱりG1って重みあるよね」などと思わず自分が電撃の変わり身を見せてしまったレース後の
上村騎手の表情である。自身が
92年の京王杯オータムH(
トシグリーン)で重賞初制覇を飾った
秋の中山の舞台。
目に病気を患ったことによる長らくの不振、そして手術を乗り越えてのG1初制覇。外から見ているだけではとても計り知れない
「やっとの思い」、インタビューでの言葉の裏に、いったいどれほどの苦難があったのだろうか。
03年の
14勝、04年の
6勝から、05年以降は
42、24、36勝。
「勝ち鞍数」では復活を遂げていたとは言えるものの、今回騎乗した
スリープレスナイトによる6月のCBC賞優勝が、98年のスワンS・ロイヤルスズカ以来となる重賞制覇。
「大きな舞台での活躍」という面では、わずか3ヶ月で一気にG1タイトルまで手にしたのだから、
電撃の復活劇と言ってもいい。
もうひとつ言えば、優勝した
スリープレスナイトの出世ぶりも
「電撃の早さ」だ。昨年夏に
ダート1200mの準オープン、
越後Sで3連勝目を飾った頃は
「なかなかやりそうじゃん」程度にしか思っていなかったのだが、今春の
京葉Sで戦列に復帰すると、
あれよあれよの5連勝である。
まだ
1番人気に推された今回すら
「(重賞は)G3のハンデ戦しか勝ってないんだし」などという筆者の予想は、電撃にまったく追いつけていない過小評価。スプリント戦には欠かせないスタートをバッチリと決め、最初の100mほどは先頭。
そこから一旦控え、直線でもう一度伸びるという、まさに横綱相撲でのG1奪取は
見事というほかにない。
こうして電撃的に頂点を極めた馬や人は、競馬に限らず、
しぼんでゆくのも電撃的な速さ、という例も多々見られるもの。しかし、苦難を乗り越えて
G1・40戦目でついに栄冠を手にした
上村騎手、そして
芝のデビューから
ダート、そして
芝と少々遠回りしてきた
スリープレスナイトは、最近の勢いこそ電撃的でも、しっかりとした
「積み重ね」がある。
このコンビ、決して電撃的に「過ぎ去って」ゆくことなどなく、これからもさらなる活躍を見せてくれるに違いない。