馬券は大波乱だったが、厳しいペースで見応えがあった
文/安福良直

ときに大波乱が起きるG1(Jpn1)、とわかっていても、これはさすがに取れないよ。そんな感じの
秋華賞だった。
しかし、レースそのものは手に汗握る大混戦。最後の直線は、逃げる
プロヴィナージュをめがけて10頭ほどが横一線の追い比べ。これだけ横にズラーッと広がるのは珍しく、まさに壮観、
これぞG1、というシーンだったのではないだろうか。ほとんどの人にとっては、この時点まで自分の馬券に夢と希望を持っていたはずだが…。
最後に抜け出したのは、終始、インコースで抜け出すチャンスをうかがっていた
ブラックエンブレム。筆者にとって
岩田騎手は、
「勝利に向かって迷わず最短距離の道を突き進む男」というイメージが強いのだが、今回はまさにその通りの勝利。
秋初戦の
ローズSが
見るところのない惨敗だったから人気が落ちていたが、春は重賞を勝ったほどの実力馬。
簡単に見捨ててはいけなかった、ということだね。そして、
小島茂厩舎と
父ウォーエンブレムにとっても
初のG1タイトル。今回はG1初挑戦の騎手が多かったから、騎手のドラマが見られるのかと思っていたが、ここは予想が外れた。
2着の
ムードインディゴは、今回いちばん強い競馬をしたと思う。馬群を真ん中から割ってきた脚は力強かったし、これで
ローズSに続いての好走。春は続けて好走することがなかっただけに、これは
収穫と言っていい。底力のある
ダンス産駒だし、これで本格化ということなら、一気に世代最強馬に上り詰めるのかもしれない。
そして
1000万馬券の主役になった、3着の
プロヴィナージュ。実は
ラジオNIKKEI賞のときにこの馬から買っていて、
「初芝で勝ち馬から0秒5差なら健闘かな」と思ったことを、ゴールを過ぎてから思い出してしまった…。
今回は
前残りの展開に恵まれての3着にも思えるが、ラップタイムを見ると、スタートから2ハロン目は
10秒4と速いし、5ハロン目でまた
11秒4と上げている。
かなり厳しいペースを自ら作り、上がりの競馬に持ち込ませなかったのは、力がある証拠と言える。
この3歳世代はダート馬のレベルがすごいが、そのダートで実績を作ってきたのはダテではなかったようだ。鞍上は
佐藤哲騎手。まさに
タップダンスシチーを思い出させる逃げっぷりで、
馬力のあるプロヴィナージュにピッタリとハマった、と言えるだろう。
結局、
秋華賞を終わっても、今年の3歳牝馬の勢力図は
混沌としたまま。春の段階では、
トールポピー、
レジネッタ、
エフティマイアの3頭がアタマひとつリードしているかなという感じで、秋もトライアルで凡走しても本番ではキッチリ上位に来るのかな、と思っていたのだが…。3頭ともそう差のないところには来ていたけど、春のようにラストで弾ける感じがなかった。
これは
レベルが低いのか、それとも
高レベルの馬がたくさんいすぎるのか。次の
エリザベス女王杯を見ないと何とも言えない。ただ、馬券は
大波乱だったが、
厳しいペースで見応えがあるレースでもあった。