ブルーメンブラットは、夏休みの間に何があった!?
文/編集部
ゴール前は、まるで先週の
毎日王冠を見ているようだった。
カワカミプリンセスが
ウオッカにダブって見え、
ブルーメンブラットは
スーパーホーネットと同じように外から差し切った。
スピードの違いでハナに立った
ウオッカは、最後の上がり3Fを
33秒8でまとめたものの、
スーパーホーネットの豪脚に屈した。
今回の
カワカミプリンセスは、逃げた
アサヒライジングが早々に失速してしまい、押し出されるようにして先頭へ立った。東京の長い直線で、登り坂の下で先頭に立つことは、さすがに想定外だったのではないか。
それでも上がり3Fは
34秒0。
毎日王冠での
ウオッカとほぼ同じタイムで上がっているのだから、こちらも
「敗れてなお強し」だろう。交わし去った
ブルーメンブラットの上がり3Fは、
毎日王冠の
スーパーホーネット(33秒3)を凌ぐ
33秒2だった。
歴戦の古牝馬の戦いらしく、スタートは横一線の非常にきれいなものだった。ただ、その中で唯一少し遅れたのが
ブルーメンブラットだった。
5ヶ月ぶりの休み明けだったことが影響したか、他馬より半馬身くらい行き脚がつかなかった。
それでも鞍上の
吉田豊騎手は慌てた様子を見せなかった。序盤こそ後方に控えていたが、ペースが落ち着くと馬群の間をジリジリと上がっていった。このポジション取りが絶妙に見えた。
毎日王冠の上位入線馬たちと
ブルーメンブラットが異なったのは、その
枠順だ。
毎日王冠では1着から4着までを
馬番5番以内の内枠馬が占めたが、今回の
ブルーメンブラットは
8枠16番。
吉田豊騎手の頭の中には、
外枠でそのまま外を回っていては届かない、といったこともあったのではないか。
向こう正面では
後方に位置していた
ブルーメンブラットは、3コーナーでは
中団後ろ目まで進出し、直線入口では
先行馬を見られるような位置に移動している。
直線での叩き合いの中でも、
カワカミプリンセスを追う
レインダンスの後ろに付け、その脚色が鈍りかけると見るや、すぐさま外に出されてエンジン全開となった。その姿は、
スリップストリームに入った後にパスしていくF1マシンのようだった。
スタートしてから直線での攻防まで、
ブルーメンブラットは終始一貫して、
内ラチから三分三厘の位置でレースを進めていた。現在の東京競馬場の芝は絶好のコンディションで、
内を通った馬の天下になっている。そのことを考えれば、
後方から差し切るにはギリギリのポジション取りだったように思う。
ブルーメンブラットのこれまでの6勝は、すべて
馬番7番以内で記録されている。枠順が
ふた桁馬番だった時は、
2着、6着、2着、8着、3着、4着。これまでは差し届かないケースが多かったのだが、今回は
馬番16番でも、
ひと桁馬番のような位置で競馬をしていた。これは
吉田豊騎手のファインプレーだろう。
振り返ってみると、
府中牝馬Sは、
芝1800m戦になって以降、特に
G1実績馬の好成績が目立っている。今年も終わってみれば、大筋ではその傾向通りだった。
2着の
カワカミプリンセスは
オークス&秋華賞の二冠馬で、3着の
ベッラレイアは
オークス2着馬。4着の
レインダンスは
秋華賞2着馬で、5着の
キストゥヘヴンは
桜花賞馬だ。
これを見ると、
ブルーメンブラットの今回の勝利は、
単なる1勝に止まらない価値を感じさせられる。改めて、
その能力はG1を見据えられるもの、と言い切れそうだ。
ブルーメンブラットのこれまでを見ると、昨年の春までと秋以降で、別馬のような違いを感じさせられる。
4歳春までで
ブルーメンブラットは
4勝をマークしているが、そのうち
1勝は
ダート戦で、残りの3勝のうち
2勝は
道悪(稍重&重)、そしてもう
1勝は
札幌の洋芝でのものだった。
芝での3勝時の上がり3Fは
36秒3、
34秒5、
35秒5。
道悪になるなどして、上がりがかかった方がいいタイプ、という印象だった。
それが、昨秋に休養から復帰すると、完全にひと皮剥けていた。
昨秋以降、前走までの成績は、
1着、1着、3着、4着、2着、3着だが、上がり3Fは
34秒3、
34秒2、
34秒0、
34秒8、
33秒5、
33秒6。以前とは末の切れ味がまったく違っている。
夏休み前はちょっと野暮ったいように見えた女の子が、2学期が始まる時にはすっかり見違えていた。
「夏休みの間に何があったんだーっ!?」と海に向かって叫びたくなるような、そんな感じですね(笑)。
今回は
自身最速となる上がり3F(33秒2)を計時し、これで近3走はすべて
33秒台となった。それ以前の20戦では、一度も33秒台の上がりを使ったことがなかったのだから、
ブルーメンブラットは
「進化を遂げた」ではなく
「進化している」という表現が適切だろう。
4歳時にひと夏を越えて変化を遂げた
ブルーメンブラットは、今夏もまた一段上に成長した跡を見せた。果たして、この進化はどこまで続くのか。海に行って叫んでる暇があったら、彼女に置いていかれないように、認識を改めて次走以降に接するようにしたい。