競馬の神様も、なんとも意地悪な演出をするものだ
文/編集部
現2歳世代の重賞は
ファンタジーS以前に5レースが行われていた。
1番人気の成績はというと、
函館2歳Sは
ナムラミーティアが
2着、
新潟2歳Sは
セイウンワンダーが
1着、
小倉2歳Sは
ツルマルジャパンが
3着、
札幌2歳Sは
ロジユニヴァースが
1着、
デイリー杯2歳Sは
ホッコータキオンが
2着。
ずっと1番人気馬が馬券圏内をキープしていたが、
ファンタジーSで
1.6倍の断然1番人気に推された
ワイドサファイアは上位3頭に0秒1差まで迫ったものの、
4着に敗れるという結果になった。
重賞でキャリア1戦だった馬は、
ロジユニヴァースが
札幌2歳Sを勝っているし、
フィフスペトルも
函館2歳Sを制している。だが、単勝1倍台に推された馬は、
ワイドサファイアと同じ
1.6倍だった
ツルマルジャパンが
小倉2歳Sで
3着となっていた。
ワイドサファイアが圧倒的な支持を集めたのは、
圧巻だった新馬戦の勝ちっぷり、
福永騎手の期待の大きさを語ったコメント、
傑出馬不在の現2歳牝馬……複数の要因が絡み合ってのものだろう。何もそれが悪いというわけではない。
ただ、勝利を収めたのが
ブービー人気(13番人気)で、単勝74.6倍だった
イナズマアマリリス。出走馬14頭中で最多となる、
キャリア7戦を誇った馬だったから、競馬の神様も、なんとも意地悪な演出をするものだ。
イナズマアマリリスは
北海道の角川秀樹厩舎から、
栗東の松元茂樹厩舎へ転厩したばかり。
松元厩舎は
アルゼンチン共和国杯に送り出した
アルナスラインは
1番人気で
3着に敗れてしまったが、
イナズマアマリリスの父である
スエヒロコマンダーも管理していた
松元調教師にとって、
突然、孝行娘が現れた感じだろう。
マイナス14kgも関係なし。
1000m通過61秒1という超スローペースも関係なし。レース後の
池添騎手のコメントにも、
「経験豊富なので、ハナを切った馬の後ろでしっかりと我慢してくれていました」とあったように、
イナズマアマリリスは好位のインでピタリと折り合いがついていた。
直線で逃げていた
コウエイハートの外に持ち出し、迫り来る
アディアフォーン、
ワンカラットを抜かせず、堂々の押し切り勝ち。スタートで出遅れ、道中では頭を上げて行きたがる素振りを見せていた
ワイドサファイアとは対照的な、実にスムーズなレースぶりだった。
「経験に勝るものなし」今年の
ファンタジーSを象徴する言葉を探すなら、それがパッと思い浮かぶ。だからこそ、
ワイドサファイアも悲観することはない。上位3頭との
0秒1差は、今回の敗戦を糧に成長していけば、そう遠くない日に埋められるはずだ。
ちなみに、
スエヒロコマンダーは
イナズマアマリリスと同じ
デビュー8戦目で
初勝利を挙げ、
500万卒業に
10戦を要した。
900万(現1000万)卒業にも
6戦かかっている。準OPはわずか
1戦で突破し、その
3戦後には
小倉大賞典で
重賞初制覇、その
2戦後にはG2の
鳴尾記念を勝利した。
鳴尾記念を勝ったのが
4歳6月で、次の勝利は
25戦後、
7歳9月の
札幌日経オープンだった。
7歳時には
ステイヤーズSで
3着になるなど、高齢まで渋太く活躍していた姿は思い出深い。
スエヒロコマンダーの成績を見ると、勝手ながら、
「叩き上げの苦労人」というフレーズがしっくりきてしまう。
「苦労は若い時にしておくものだぜ!」父
スエヒロコマンダーが、娘
イナズマアマリリスに送ったとすればその言葉か。親子間でそんなやり取りがあったかは定かでないが、確かに、地方からの叩き上げである
イナズマアマリリスには、父の姿がどことなくダブって見える。うら若き2歳の牝馬に対して、失礼かもしれませんけど(笑)。
「重賞は若い時に勝っておくものよ!」娘
イナズマアマリリスが、父
スエヒロコマンダーに言い放つとすればその言葉か。鞍上に従順に見える
イナズマアマリリスが、親に対してそんな反抗的な態度を取るかはわかりませんが、今回の勝利は
イナズマアマリリスの未来とともに、いろいろと、
ファンタジーに溢れているということで(笑)。