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ベストを尽くしても届かないことがあるのが勝負事でもある
文/編集部

勝利を引き寄せるものとは、何なのだろうか。

テニスの全日本選手権では、今年4月に現役復帰したクルム伊達公子が、16年ぶりの同大会優勝を果たした。クルム伊達公子女子ダブルスも制し、単複2冠達成となった。

一方、バドミントンの全日本総合選手権では、“オグシオ”こと小椋久美子潮田玲子組「有終の五連覇」を成し遂げた。今大会限りでのコンビ解消が発表されている中、北京五輪4位末綱聡子前田美順組をストレートで下しての優勝だった。

クルム伊達は長いブランクを経て復帰したばかりだし、“オグシオ”も4連覇中だったとはいえ、7月に末綱・前田組に敗れて、日本人相手の連勝がストップしていた。「勢い」があったかと言えば、そうとも言い切れないだろう。

それでも、それぞれの試合を見ていると、勝負の勘所をよく知っていると思わせられた。テニスもバドミントンも相手があるスポーツで、流れが対戦相手に行く場面が何度か見られたが、それでも慌てず、自分に流れが来た時に一気に攻め立てていた。

「勝ち方を知っている」と口で言うのは簡単だが、実際に競技をしていればテンションは上がり、冷静さを保つのも容易ではないもの。そんな状況下でも、彼女たちは肉体的にも精神的にも相手の一枚上を行く力を備えていた。そういうことだろうか。

今回のエリザベス女王杯で、1番人気ながら2着に敗れたカワカミプリンセスには、何が足りなかったのだろうか。前走で12kg増えていた体は、10kg減ときっちり絞れていた。気配も悪くなかったように見えた。

レースでも中団に付け、外回りコースで直線で伸びるには申し分ない位置取りに見えた。しかし、直線で外から鋭進したものの、先に仕掛けられたリトルアマポーラを最後まで捕まえることはできなかった。

鞍上の横山典騎手が勝負の勘所を掴めていないわけはないし、ここで優勝するだけの力がカワカミプリンセスにないわけでもないだろう。それでも、勝利の女神は微笑まなかった。あの1位入線降着の悲劇から2年、カワカミプリンセスはまたも勝利を挙げられなかった。

リトルアマポーラC・ルメール騎手は、またも大仕事をやってのけた。

05年有馬記念ハーツクライに騎乗したルメール騎手は、無敗の三冠を成し遂げたディープインパクトよりも前でレースを進め、そのまま半馬身差を付けて押し切った。あの時は、ディープインパクトの単勝オッズが1.3倍で、ハーツクライ17.1倍の4番人気。今回のエリザベス女王杯とよく似ている(リトルアマポーラ単勝13.2倍の4番人気)。

終わってみれば、カワカミプリンセスを倒して勝利するためのいちばんの勘所ルメール騎手が掴んでいたように見えたが、しかし、リトルアマポーラ自身に勢いがあったかと言えば、それは疑問符が付く。桜花賞(5着)、オークス(7着)、秋華賞(6着)といずれも僅差ながら勝利を挙げるまでには至らず、G1の大舞台で力が足りるかどうかは未知数だっただろう。

G1タイトルへの悲願の度合いで言えば、ベッラレイアにも相当のものがあったはずだ。オークス2着秋華賞4着ヴィクトリアマイル8着。レース前までのG1実績に関して言えば、リトルアマポーラよりも上だった。

京都競馬場の雨は午前中には上がり、レースの時には陽も照ってなんとか馬場も保たれていた。ベッラレイアの切れ味を活かすのに状況は整っていたと言えるだろう。しかし、リトルアマポーラカワカミプリンセスには及ばず。G1タイトルを手にすることはできなかった。

ベッラレイアは自身の最大の長所である切れ味を活かすためのレースを実践し、カワカミプリンセスも管理する西浦調教師がレース後に「最高のレースができていた」と話していたように、1番人気に相応しい堂々としたレースをしていた。それぞれが「自分らしい」競馬を貫いたが、勝てなかった。勝負とは、時としてそういうもの。そう言うしかないのかもしれない。

優勝したクルム伊達公子“オグシオ”については、前述したように、勝負の勘所を掴んでいるように見えた。しかし、敗れた側にもう一度目を転じれば、それぞれの決勝で敗れた末綱・前田組瀬間友里加に対して、何が足りなかったかを明確に言うことは難しいだろう。何かが足りなかったから敗れたのではあるだろうけれど、その何かは簡単に見つかるものではない気がする。

カワカミプリンセスベッラレイアには、何かが足りなかったのだろうか。こちらも明確な何かを見つけることは難しいと思う。

勝者はひとりだけ。天皇賞・秋を見ても、それが競馬の、勝負事の醍醐味ではあるけれど、ベストを尽くしても手が届かないことがある。それもまた勝負事ということだろう。

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