時計にしてコンマ1秒差だが、それは「持てる者と持たざる者」の差でもある
文/浅田知広

ゴール直後に
「去年のスーパーホーネットにちょっと似てるな」と思ったのは、
マイルCS当日の
東京8Rに出走した
セイコースペシャル。後方から馬場の中央を豪快に伸びて一気に差し切った、かと思いきや、残り200mで止まって内からケイアイエーデルに差し返され、2着に敗れてしまったのだ。
ちなみに
「去年のスーパーホーネット」というのは皆さんご存じの通り、先に抜け出した
ダイワメジャーに並びかけるところまでは一気に伸び、一瞬は
「これは勝ったか」という脚色。しかし、どこまでいってもそれ以上は差が詰まらずに、最後は逆に突き放されて
2着に敗れた競馬である。
ただ、
今年のスーパーホーネットはひと味違う、と思わせたのが前走の
毎日王冠で、
ウオッカに一気に並ぶまではこれまで通りのこの馬の脚。しかし、上がり3ハロンは
10.5-11.3-12.0とラストが粘りの勝負になってもへこたれず、最後は
ウオッカを競り落としたのだから、去年よりもさらに進境を見せているものと想像させる走りだった。おそらくファンの皆さんもそれが共通認識、その結果の断然の1番人気だったのだろう。
ところが。
馬の本質などそうそう簡単には変わるものではない、というのが今年のひとつの教訓。見るもの誰もが
「差し切った」と確信しながら止まってしまうあたりは、今年の
スーパーホーネットは昨年以上に、
東京8Rの
セイコースペシャルそっくりだった。
その一方で。
いやいや、本質は本質としてあるとしても、しっかり進歩を見せる馬もいるんだよ、という走りを見せたのが優勝した
ブルーメンブラットだ。
力だけでもなんとかなる3歳春までを別にすれば、明らかにマイルよりも
1400mの馬。
1600万条件の2勝、
オープン特別の1勝、さらには牡馬相手に好走を見せた
阪神Cも、そして重賞初連対を記録した
阪神牝馬Sも、どれをとってもすべて
1400m戦。
前走、
カワカミプリンセスを差し切った
府中牝馬Sにしても、時計こそ
1分45秒台だが、道中のラップには緩みがあってレースの上がりは
34秒0。決して
「きっちり1800m分のスタミナ」を要求されたレースではなかったはずだ。
今回はその
府中牝馬Sから一転、強力な先行馬がずらりと揃い、道中のラップは
11秒台の連続。レースの上がり3ハロンは
34秒7、そして勝ち時計も過去10年では
アグネスデジタルと並んで2番目に速い(最速は一昨年のハットトリック)
1分32秒6。楽な展開ではなく、
「きっちり1600m分のスタミナ」は問われた展開だったに違いない。
もちろん、
外に出せず内に突っ込んだことが、結果的には距離損を最小限に抑え、厳しい競馬を勝ち抜くことに繋がったという幸運もある。
ローレルゲレイロと
マイネルレーニアの間を抜ける際も、さほど待たされずに済んだこともラッキーだった。
しかし、強豪が集結するG1レースは
「運の強い馬が勝つ」と言われる
ダービーに限らず、
運も
実力もなければ勝利は手にできないものだ。
春の阪神牝馬S以降、常に33秒台の末脚を叩き出し続けた実力、そして
厳しい流れになってもその末脚を失わない成長力、加えて
大きなロスなく内を抜けられた運。
勝ったのだから当たり前とはいえ、終わってみれば、
ブルーメンブラットは
G1を勝つために必要なものをすべて持って挑み、そしてレースの中でも
「手に入れた」結果の戴冠だった。
ブルーメンブラットと
スーパーホーネットの着差は
3/4馬身、時計にして
コンマ1秒、本当にわずかの差でしかない。しかし、
様々な面で「持てる者と持たざる者」の差が如実に結果として現れた一戦だったと言えるだろう。