荒れた内を突いて好走するのは、地力もあり、調子が良い馬ができる芸当
文/編集部
福島の芝は難しい。改めてそう思った人も多いのではないだろうか。
いや、もしかしたらファンに限らず、乗っているジョッキーの中にもそう感じている人が少なくないかもしれない。
直線で馬場の良い外に持ち出したら、内を回った馬に先着されるケースが非常に多かったのだから。
福島記念が行われた
3回福島開催は、予定通り
10日間に渡ってレースが繰り広げられた。雨に祟られた日は少なかったものの、初日(10月25日)や9日目(11月22日)などが
道悪競馬となり、
さすがに内側の芝はボロボロに……と思われたが、最終日になっても意外に
内をすくって伸びる馬が目立っていた。
「あれ? ちょっとおかしいぞ」と平場戦を見ていた時点で気づいていたのだが、人間の固定観念とは恐ろしいもので、
「次は外差しになるんじゃないか」、
「次こそは…」と思い続けてしまい、結局、最終レースも
中舘騎手に逃げ切られてしまいました(笑)。
まだ芝生の生育が良くない春先の開催が
6日間に短縮され、芝生も
はがれにくい種類に変えていることが奏功したのかもしれない。それにしても、10日間も競馬を続けて、これほど内が伸びるとは思ってもみなかった。
優勝した
マンハッタンスカイは、終始
内ラチ沿いを走っていた。4着に健闘した
フサイチアソートも
内を回っていたし、3着に入った
グラスボンバーは2コーナーまでは後方2番手にいたのに、向こう正面で
内ラチ沿いをスルスルと上がって行き、3コーナーの手前では
フサイチアソートの直後まで押し上げていた。
グラスボンバーは
福島芝を走るのが今回が
9度目で、これはもちろん今回のメンバーの中で最多(2番目に多いのは
5走目の
キャッチータイトル)。福島で好走するための戦術を馬自身が知っているかのようで、いかにも
『勝手知ったる自分の庭』という感じだった。
その
グラスボンバーに1馬身の差を付けて優勝争いを演じた
マンハッタンスカイと
マイネルキッツは、
グラスボンバーよりも若く、しかもハンデが軽かったことも良かったのかもしれない。
惜しくも差し届かなかった
マイネルキッツは、これで重賞では
5着、3着、2着、4着、2着となった。惜敗続きだが、そんな悔しさの深さは
マンハッタンスカイの方が上だったか。
マンハッタンスカイの過去の重賞成績は、
7着、8着、15着、5着、2着、2着、3着、8着、6着、13着。中でも
芝2000m重賞では、
新潟大賞典2着、
金鯱賞2着、
函館記念3着、
札幌記念8着と、タイトルに手が届きそうでいながら、他馬にさらわれ続けていた。
この距離ならという思いは、かなり強かったことだろう。
マンハッタンスカイが
56kg、
マイネルキッツが
55kgと両馬とも重すぎないハンデが良かったのでは、と記したが、実は
マイネルキッツは
ハンデ戦での戦績が、これで
2着、3着、2着、2着となった。これまた勝ち切れていない面はあるものの
『ハンデ戦巧者』と呼ぶに相応しい走りを見せている。
一方、
マンハッタンスカイの
ハンデ戦での戦績は、
7着、6着、5着、2着、3着、13着、1着。まずまずといった感じだが、実は、
マンハッタンカフェ産駒全体では、
芝のハンデ戦は[9.7.4.29](複勝率40.8%)で、中でも
牡駒は[9.6.2.21](複勝率44.7%)と優秀な成績を残している。
マンハッタンカフェ自身は、
現役時代は500kg前後で走っていた大型のサンデー産駒で、その産駒も
大柄なタイプが多い(
マンハッタンスカイは
530kg)。
大柄だけにハンデを苦にしないタイプが多いということだろうか。
斤量に敏感かどうかは、背中のラインと関係がある、という話を以前に聞いたことがある。
背中が垂れ気味の体型の馬は斤量に敏感で、小柄であっても背中のラインが水平に近いと斤量を克服しやすい、と。
理屈では合ってる気もするが、実際に馬に聞いたわけじゃないので、本当かどうかは分かりません(笑)。ただ、そんな視点で見てみると、
ハンデ戦もより面白く感じられるかもしれませんね。もしかしたら
マンハッタンカフェ産駒は、
斤量を苦にしない鋼の背中を持っているのかも…。
今回の
福島記念を見て思い出したのは、
07年七夕賞での後藤騎手のコメントだった。
後藤騎手は
サンバレンティンに騎乗して、最後の直線で進路を最内に取って差し切ったのだが、レース後に次のように話していた。
「この手応えなら(荒れた)内を突いても大丈夫だと思った」。
おそらく、開催終盤の福島芝で内を突いて好走するのは、
地力もあり、調子が良い馬ができる芸当なのだろう。
マンハッタンスカイ、
マイネルキッツ、
グラスボンバー、
フサイチアソートと、今回の
福島記念で内を回って好走した馬も、
「距離ロスなく走ったから」と安易な評価を下すのは違うような気がする。次走以降も目を離さないようにしたい。
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