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想像を先走りさせるほど、今回の爆走は胸を突いた
文/編集部

それはまさに、ウサイン・ボルトのようだった。今夏に開催された北京オリンピックの陸上男子100m決勝において、9秒69という世界新記録を樹立。後半は両手を広げ、胸を叩くパフォーマンスをしながら後続を置き去りにし、とんでもないワールドレコードを叩き出したあの爆走だ。

1000m通過は58秒1。思った以上にペースが速くなったことも幸いしたと思うが、4コーナーから直線にかけて、抜群の手応えで大外から進出してくるサクラメガワンダー。直線でエンジンが唸りを上げると、伸びあぐねる内の各馬を並ぶ間もなく交し去り、一気に突き抜けてしまった。

終わってみれば、今回の舞台である阪神芝外回りの芝1800mで重賞を勝っている2頭のワンツーとなったが(サクラメガワンダー06年鳴尾記念勝ち、ナムラマース07年毎日杯勝ち)、サクラメガワンダーは2着ナムラマース3馬身差をつけた。

世界新記録をマークし、後半でおどけた仕草を見せたウサイン・ボルトに対し、サクラメガワンダーはレコードをマークしたわけでもなく、おどけた仕草を見せたわけでもない。他馬と力の違いを見せつけた走りが、ウサイン・ボルトとダブって見えただけの話である。

レース後の福永騎手のコメントにも、「今日はいつも戦ってきた相手と比べると、メンバーも楽になっていましたし、ねじ伏せるような競馬をしようと思っていました。それに応えてくれましたし、思っていた通りの勝ち方ができたと思います」とあった。

今回の鳴尾記念に臨むにあたっての大命題は、きっちりと勝利を挙げての賞金加算だったはず。ただ、今年に入ってからずっとサクラメガワンダーの主戦を務めてきた福永騎手にとって、力の違いを見せつけて勝つ、がプラスアルファだったのだろう。「ねじ伏せるような競馬」というフレーズにその意識が感じられた。

ゴール前では流す余裕も見せたサクラメガワンダー&福永騎手だったが、鞍上の福永騎手はガッツポーズなどで喜びを表現するすることはなかった。ゴーグルをしているのではっきりと顔は見えないが、表情も淡々としていた。それは「勝って当然」「これくらい走って当然」という無言のアピールだったのかもしれない。

また、福永騎手はこうとも言っていた。「宝塚記念は僕が上手に乗れなくて4着に負けてしまって。そのミスをこれからちょっとずつでも返していけたらなと思います」と。宝塚記念は直線で内を突かず外に回した、そのぶん届かなかった。そう言ってしまえばそれまでだが、それはあくまで結果論でしかない。

福永騎手には取材で何度か会う機会があったが、その印象は冷静クールといった言葉がパッと思い浮かぶ。その福永騎手が、5ヵ月近く前の宝塚記念のレースぶりを、いまでも心に留めているとは少し意外だった。逆に言えば、宝塚記念がそれだけ気持ちが篭っていたレースだったと再認識させられた。

サクラメガワンダー阪神&京都芝で[6.1.2.4]と抜群の成績を残しているのに対し、東京&中山芝では[0.0.0.8]と振るわない。G1を狙うとなると、距離適性を考慮すれば自然と宝塚記念、もしくはマイルCSが浮上してくる。チャンスはそれほど多くないのだろうか?

いや、サクラメガワンダーは2走前の天皇賞・秋で、1着ウオッカ、2着ダイワスカーレット、3着ディープスカイ、4着カンパニー1分57秒2のレコードで駆け抜けた中、その4頭から0秒3差で走った。G1や関東圏だとひ弱い、そんなイメージを払拭するには十分だった。

サクラメガワンダーは確実にスケールアップしている。その天皇賞・秋の内容といい、デビュー以来、最重量の馬体重(492kg)で圧倒的なパフォーマンスを見せた今回の鳴尾記念といい。

グラスワンダー産駒としての重賞初勝利は、フェアリーS(04年)を制したフェリシアに先を越された(サクラメガワンダーラジオたんぱ杯2歳Sを制し、産駒2番目の重賞勝ち)。グラスワンダー産駒としての平地G1初制覇は、前週のジャパンCスクリーンヒーローに先を越された。

だが、父グラスワンダー暮れの中山芝G1で3戦3勝(97年朝日杯3歳S、98年&99年有馬記念)だった。サクラメガワンダー暮れの阪神開催で4戦4勝(05年ラジオたんぱ杯2歳S、06年&08年鳴尾記念、05年エリカ賞)となっている。

スクリーンヒーローはすでに出走表明しているが、サクラメガワンダーは、次走に12月28日の有馬記念に向かう可能性も出てきた模様。父が滅法強かったレースで、12月に4戦4勝と父にそっくりな戦績を誇る息子なら、ひょっとするとひょっとして!? そんな想像を先走りさせるほど、今回の爆走は胸を突いた。

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