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幸運の女神が微笑む、運命も時には粋な計らいをするもの
文/鈴木正(スポーツニッポン)

レースが終わり、率直に抱いた感想は「角居厩舎、凄い」である。かつて最強を誇ったチャンピオンとはいえ、2年4カ月もの間、実戦から離れていたのである。しかも理由が屈腱炎だ。もちろん治療技術、調教技術の向上によって、不治の病とされたかつてのイメージは払拭された。

とはいえ……しつこいようだが屈腱炎だぞ。さらに言えば、いったんトレセンに入厩して復帰を目指したが、やはり脚元がダメだということで牧場に戻された経緯もある馬だ。それが一度叩いただけで、これだけのメンバーがそろったG1を勝ってしまうのである。角居厩舎、凄い、凄い、凄い。何度でも言ってしまおう。凄すぎる。

かつてジャパンCダートフェブラリーSを制したチャンピオンだ。記者として折に触れて「カネヒキリはどうしてますか?」と聞いてきた。そのたびに厩舎の方は複雑な表情を浮かべながら「なにせ屈腱炎ですからね。なんとか戻ってきてほしい、それだけですよ」と語っていたものだ。

武蔵野Sで復帰する前も「まずは無事で戻ってくることが先決」と話していた。それが正直な気持ちだっただろう。それがこの大舞台での劇的復活。角居厩舎ノーザンファームの技術は何度でも称えられるべきだ。

レース内容にも触れたい。道中は6番手を追走。向正面で内側にいたアドマイヤフジが下がり、インが開いた。ここで迷わずインへと馬を誘導したルメールの決断力はさすがだ。4コーナーでは4番手インの絶好ポジション。内から2頭目を捌き、真っすぐに追った。ヴァーミリアンが外を回らされたのとは対照的。限りなく経済コースを進み、ゴールまで我慢し切った。

「いいスピードがあるから好位を進んでいこうと思っていた。その通りになったね。パーフェクトな騎乗ができたよ」

自画自賛となったルメールの言葉からもプラン通りの騎乗だったことが窺える。勝つにはこれしかないという騎乗を展開し、インを進んだにもかかわらず前が次々と開いた。幸運も味方した。

ただ、その幸運は偶然にやってきたのでなく、関係者が呼び込んだのだと考える。再度言うが屈腱炎に悩んだ馬だ。関係者の努力といったら凄まじかっただろう。まったく動かせないところから始まり、脚元の様子を見ながら運動を始め、なにかあれば冷やし、ペースを緩め、1歩ずつ慎重に前へと進んでここまで来たのだ。

脚元の悪い強豪馬を担当している厩務員がこう漏らしたことがある。「朝が来るのが怖いんだ。馬房に行ったら脚が腫れているんじゃないかってね。で、ドキドキしながら脚元をさする。何ともない。そこでやっとホッとして一日が始まる、という気持ちになるのさ」

カネヒキリの周囲にいた人々も毎日、このような心境だったのだろう。そのプレッシャーと戦い続け、大一番へと送り出したスタッフに幸運の女神が微笑んだ。そう思いたい。運命も時には粋な計らいをするものだ。

ヴァーミリアンは運がなかった。武豊騎手骨折で乗れない不運。さらにかなり外を回らされてしまった。さらに外を回ったメイショウトウコンに先着されたのは意外だったが、これは重め(前走から12kg増)が残ったためか。まずまずの脚は使っていたと思う。

2着メイショウトウコンは実に立派。これまでは小回りコースで少々メンバーが落ちた中、マクリを利かせて勝つイメージだった。阪神の大舞台でこの競馬ができたのは相当な収穫だ。

さらに付け加えればカネヒキリメイショウトウコンヴァーミリアンサンライズバッカス6歳馬が1~4着を独占。ディープインパクト世代というのは本当に凄い。3歳世代も強いと言われたが、カジノドライヴあたりはベテランの底力を思い知ったかもしれない。

阪神へと舞台を移したJCダート。米国馬を右回りに招待するのかなど、戦前はさまざま言われたが、レース後はさわやかな気分になった。努力した者のもとに幸運が舞い降りる。非常に気持ちのいい一戦だった。

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