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これで来年の牝馬クラシックの軸馬が誕生した
文/安福良直

毎年この時期になると、今年の2歳馬のレベルはどうだろう、と考えてみるものだが、このレースのゲートが開くまでは、「今年はかなり低レベルなのでは」と思っていた。

11月の2歳重賞はすべて穴馬(それもかなりの人気薄)が勝っていたのがその象徴。夏場ならともかく、秋も深まってきて、そんなに穴馬ばかり勝つというのはどういうことなのか。軸馬不在を象徴する出来事ではないのか。そんな印象を持っていた。

しかし、今日のレースを見て、思い知らされました。今まで低レベルに見えたのは、単にブエナビスタが重賞を走っていなかったから、だったのね。押し合いへし合いの肉弾戦を繰り広げる他馬を尻目に、外からひとマクリしての大楽勝。

最後は「馬が遊んでいた」ということだそうだが、安藤勝騎手も手綱を抑えて余裕のゴール。未勝利戦ならよくあるシーンだけど、G1でこれほどの余裕を見せた馬は、なかなかいないぞ。

まあとにかく、「余裕の勝利」だったのは間違いない。ゲートが開くかなり前から(それこそ何日も前から)、ブエナビスタの実力に全幅の信頼を置いていた、と言わんばかりのレースぶりだった。G1なら、ある程度、いい位置につけて……みたいなことを考えるものだと思うのだが、ブエナビスタはまったくの自然体。

いったん先頭に出たショウナンカッサイが控えたことによって、レースの前半4ハロンは47秒3。G1にしてはスローペースだが、ブエナビスタ後方4番手。末脚に自信があるから、その位置取りでなんの問題もないのだ。これがそうでなかったら、もう少し前につけるのだろうが、そうすると馬込みに入ってゴチャゴチャしていたかもしれない。

そして3コーナーからは、マクリ気味に上がるダノンベルベールデグラーティアの後ろにできたスペースを悠然と上がっていく。デグラーティアはこのあたり、ちょっと勝ち急いでいるかなというレースぶりだったが、まだまだ急がないブエナビスタは、逆にその動きを利用して上がっていけた。余裕を持って事にあたれば、なにもかもがいい方向に働くものですな。

そして、直線は外からひとマクリ。残り2ハロンからのレース全体のハロンタイムが11秒3だったので、ブエナビスタはここで10秒台の脚を使っていたことになるのだろう。

すばらしい瞬発力、すばらしい能力。そして何より、その能力を信頼し切っていた安藤勝騎手がお見事だった。超人的な手綱捌きを見せることだけが一流騎手の仕事ではないぞ、ということですな。

さて、これで来年の牝馬クラシックの軸馬が誕生した、と言って間違いないが、ブエナビスタは近年の名牝とはちょっと違うタイプの馬かもしれない。ウオッカのように男勝りの迫力を見せるわけではないし、ダイワスカーレットや母ビワハイジのように、先行して強いわけでもない。

450キロという馬体と今日のレースぶりから見ると、ディープインパクトを牝馬にしたような感じ、というのがいちばんしっくりくると思ったのだがどうかな。

今後は他馬にマークされる形になったらどうかとか、馬込みに入らざるを得なくなったらどうか、という課題が考えられるが、それらを乗り越えて、ウオッカダイワスカーレットと戦う日が来るのを楽しみにしたい。

すっかりブエナビスタの強さにかすんだ感じだったが、2着のダノンベルベールは、普通のG1なら勝っていた、という内容。他馬と格闘して先着したという意味では、ブエナビスタとは違った収穫があった。

また、内から渋太く抜け出してきたショウナンカッサイや、最後に伸びてきたイナズマアマリリスには雑草的な強さを感じた。どちらも血統は地味だが、クラシック戦線のどこかで見せ場を作りそうだ。でも、地味血統と言っても、ショウナンカッサイにはタケシバオーのインブリードなどがあって、配合は相当面白い。馬券的な楽しみでは、この2頭は覚えておいて損はないと思うぞ。

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