世界を代表する名手の今後にも期待したい
文/編集部

1番人気には
スズカコーズウェイが推されたが単勝オッズは5.7倍と、人気は割れた。レースは押して
マイネルレーニアが先頭に立ち、3歳馬
アーリーロブストが2番手から。3番手集団から2番人気
トレノジュビリー、4番人気
キンシャサノキセキが進み、
スズカコーズウェイはその後ろから進む。
600m通過は34秒7と、それほどペースは上がらない。そのままの隊列で直線に入り、
マイネルレーニアを競り潰した
アーリーロブストが先頭に立ち、その外から
トレノジュビリーが迫る。前が残る競馬となったが、2頭の間から満を持して抜け出したのが、スミヨン騎手騎乗の
キンシャサノキセキだった。
そのまま
アーリーロブストをクビ差抑えてゴールに飛び込み、
昨年の函館スプリントS以来となる約1年4ヶ月ぶりの重賞制覇を飾った。3着は中団から差を詰めた
マルカフェニックス。
アーリーロブストは16番人気の低評価だったため、3連単88万円の大波乱となった。
日本で重賞初勝利となった鞍上の
スミヨン騎手は、この日が短期免許による騎乗初日。01年に来日経験がある同騎手だが、その時は48戦してわずか6勝。
阪急杯で
ラティールに騎乗して
降着となり、
6日間の騎乗停止処分を受けて帰国するという、不本意な成績に終わっていた。
そのせいか、
スミヨン騎手には
日本に対するネガティブなエピソードもある。06年の
キングジョージ、
ハリケーンランに騎乗して日本の
ハーツクライを直線で競り潰したが、そのゴール直後に舌を出すパフォーマンスを見せて日本の関係者の怒りを買い、後に謝罪することになったとか。
そんな
スミヨン騎手だが、本国では日本での鬱憤を晴らすかのように大レースを勝ちまくった。02年からは
欧州の大オーナーブリーダーであるアガ・カーン殿下の主戦騎手となり、03年に
ダラカニで
凱旋門賞を、そして昨年も3歳牝馬
ザルカヴァが無敗で同レースを勝ち、それ以外にも
仏ダービーで3勝。それ以外のオーナーとのコンビでも、
シロッコで
BCターフ、先述の
ハリケーンランでの勝利など、世界中で活躍を続けてきた。
しかし、近年はそのキャリアに暗雲が立ちこめていた。フランスを代表する調教師のひとりである
ファーブル師の主戦騎手の座は07年に下ろされ、今年8月には
アガ・カーン殿下とのコンビも今年いっぱいで終了することが発表されている。
その原因は
ファーブル師によれば
「ムチの使い方」(英レーシングポスト紙)だと言うし、その
激しい性格に理由を求める声もあり、実際のところは分からない。しかし、
「上手いが問題もある」ジョッキーだったことは間違いないようだ。ちなみに、
アガ・カーン殿下の主戦騎手の座を受け継ぐのは、日本でもおなじみの
ルメール騎手である。
ただ、
スミヨン騎手には独特の運がある。
キングジョージの
ハリケーンランは、主戦の
ファロン騎手が
薬物問題でイギリスでの騎乗ができないためにお鉢が回ってきた(初騎乗ではない)ものだった。
さらに、今年の凱旋門賞ウィークでは、2歳G1の
マルセルブサック賞を
アガ・カーン殿下の
ロサナラで制した。まだ契約が残っているので当然と思いきや、元々の騎乗予定騎手は
ルメール騎手だった。
契約は残っていたが、実質はすでに主戦を下ろされていたのである。しかし、なんと当の
ルメール騎手が金曜日に落馬負傷し、騎乗ができなくなったために急遽ピンチヒッターを務めることになった。
(※余談だが、この土日にアガ・カーン殿下の馬が数多く出走していたが、この日会場で配られたレーシングプログラムの多くにルメール騎手の名が記載されていたため、現地ではどの馬に誰が代打騎乗していたのかまったく分からない(笑)。この週はアガ・カーン殿下の馬がG1を5勝したが、勝つたびに戻ってくる騎手の顔を見て「誰だ?」と確認していたほどだ)その
スミヨンが久しぶりに日本にやってきて、いきなり重賞を勝った。レース後の
「前夜に何度もレース映像を見たが、折り合いを欠いたり、ペースを乱したりした面があったので、そこに気をつけて乗った」の言葉通り、スタート直後からすぐに前を行く
アーリーロブストの後ろに入れ、そのまま直線に入るまでそこで我慢していた。競馬に対する真摯な姿勢は今も昔も変わっていないようだ。
勝利インタビューでは喜びの声に続いて
マネージャーに対する感謝を口にした(ご本人のことを言われていたため、訳されなかったが)スミヨン騎手。今後年末まで騎乗することが予定されているが、
世界を代表する名手としての騎乗ぶりはもちろん、強気なコメントで秋G1戦線を盛り上げてくれることも期待したい。
アガ・カーン殿下の主戦の座を受け継いだ
ルメール騎手も、今後来日を予定している。思わぬ遺恨対決(?)が日本で実現することになったが、あのインタビューを見て、
「あんな優等生じゃなかったはずなんだけどな……」と思っているのは、自分だけではないはずだ(失礼)。