今回の勝利で、ワンダーアキュートがNo.1コンテンダーとなった
文/編集部

高橋ヒロシ氏の漫画
『クローズ』をご存知だろうか? 続編の
『ワースト』、クローズの1年前を描いた映画
『クローズzero』も人気を集めた。それらの話の舞台となっているのが不良の集まる
鈴蘭男子高校である。各地の番長が顔を揃えるこの学校では派閥同士の争いなどが絶えないが、いまだかつて番長として全校をまとめあげた存在はいないとされている。
物語の中では最強とされている存在は数名登場するが、彼らも全校をまとめる番長としては描かれない。それは、例えば校内最強と言われている者を誰かが倒すと、その日から今度は狙われる立場となる。仮にそれらの敵を返り討ちにしたとしても、時間が経つと今度は新たな挑戦者(漫画の中でいうならば新入生や転校生など)が現われるからだ。
これを読んで、何かに似ていると思わないだろうか? そう、
サラブレッドの世界とよく似ている。
鈴蘭男子高校では、新入生はまず
1年の中で最強を決める戦いが行なわれる。これなんて競馬の世界の
3歳クラシックそのもの。その1年最強の男がその時のトップに挑戦するのだが、そのシチュエーションは、
ダービー馬や菊花賞馬がジャパンCや有馬記念で古馬のトップ陣と激突するようなものと言えるだろう。
現在のダート界では、先日の
JBCクラシックでG1(Jpn1)8勝という新記録を打ち立てた
ヴァーミリアンがトップとして君臨している。
ヴァーミリアンは同世代の
カネヒキリ、ふたつ上の
ブルーコンコルドらとともに長らくダート界を引っ張ってきた。
長期間に渡ってダート界を支配してきたそれらの世代を突き破るのではないのかと期待されたのが、
現4歳世代だ。今年の
フェブラリーSでは
サクセスブロッケンと
カジノドライヴがワンツーを決め、
「世代交代」の声が大きく聞かれるようにもなった。
今秋も、ウ
゛ァーミリアンらの古豪VS4歳勢という図式が中心になると思われていたが、ここにきて流れに変化が起こりつつある。夏過ぎから
現3歳世代が古馬を相手に快進撃を続け始めたからだ。
今回の
武蔵野Sは、
1~7番人気までが
3~4歳馬となり、
ダート界での世代交代を目論む若い馬たち同士の戦いとなった。
1番人気は、フェブラリーSでヴァーミリアンらを破った
サクセスブロッケンで、2番人気が前走のエルムSで重賞初制覇を飾った
マチカネニホンバレ。この2頭はともに4歳馬で、これらに、
トランセンド、
テスタマッタ、
ワンダーアキュート、
ラヴェリータ、
シルクメビウスといった3歳馬たちが続き、
JCダートでのヴァーミリアン挑戦者決定戦という趣となった。
レースは、スタートから
ネイキッド、
ヴァンクルタテヤマ、
サクセスブロッケン、
ワンダーアキュートらが激しい先行争いを見せ、前半3Fの入りは34秒6。そこから
ワンダーアキュートがハナに立って行ったが、2番手の馬たちもピッタリとマークしているため、ペースを緩めるわけにはいかない。2番人気
マチカネニホンバレはそんな先行勢の直後につけ、
トランセンド、
テスタマッタ、
ラヴェリータらも後方から虎視眈々といった感じだった。
レース後、
安藤勝騎手は
「いいペースで行かせてもらえた」と話していたが、ペース自体はそれほど緩くはなかった。しかも、2~5番手で先行していた馬たちもビッシリと並びかけ、先行した馬には厳しい展開にも見えた。
それでも
ワンダーアキュートは直線に入るとスパートを仕掛け、後続を突き放しにかかった。すると、
サクセスブロッケンを含む先行勢はまったくついていけず、待ってましたとばかりに抜け出しを図った
マチカネニホンバレも思いのほか伸びず。結果、
ワンダーアキュートを追いかけた馬たちが伸びを欠き、さらに後方に控えていた馬たちが馬券圏内に食い込む形になった。
ハナに立ち、道中は馬群をひきつけ、直線で一気に突き放す。これは確かに
逃げ馬の必勝パターンで、
安藤勝騎手は
ダイワスカーレットなど、この形での騎乗が非常に上手い印象もある。
しかし、今回のレースで、
ワンダーアキュート以外で
4コーナー5番手以内にいて最先着を果たしたのは、なんと10着の
サクセスブロッケンである。どれだけ先行勢に厳しいレースだったか、これだけでも分かるだろう。
今日の勝利で、
No.1コンテンダーとなったと言っていい
ワンダーアキュート。
JCダートでも、王者ヴァーミリアンの先行力を無力化するような逃げで世代交代を果たせるだろうか? そろそろ新たな時代に突入してもいい頃だと思われるが…。