キンシャサノキセキの成長力にこちらの想像力が追い付けなかった
文/編集部
先日、会社のトイレで便座に座ったら、電源が抜けていたのか、冷たくて飛び上がりそうになったんですが(笑)、その時と同じくらい、今年の
阪神Cのスタートはヒヤッとしました。
1番人気に推された
キンシャサノキセキがスタートで出遅れ、レース開始から1秒も経たないうちに1馬身ほど離される形になった。
短距離戦におけるスタートが肝心なことは言うに及ばず、致命傷になることも少なくない。ところが、出遅れがかえって良いように作用することもあるのだから、競馬は分からないものだ。
先頭争いは
ドラゴンファングが制したことで事なきを得たが、その直後の番手のポジションを取ろうと馬が殺到し、一瞬にして交通渋滞が発生した。
いや、渋滞と書くとペースが遅いように感じられて誤解を招くかもしれませんね。ペースはむしろ速く、2F目からは10秒6-11秒0-11秒2と流れ、明らかな前掛かりの展開になった。
そんなタイトなレースを、
キンシャサノキセキは出遅れたこともあって序盤を後方に控え、3コーナーからは外を回ってマクり、直線で弾け飛んだ。鞍上のデムーロ騎手は、渋滞速報が出る前に別ルートを選択して迂回したかのような、鮮やかな手綱さばきだった。
ゴールする姿を見ていたら、
キンシャサノキセキがなんだか逞しく感じられたのだが、よくよく見ると、この日の馬体重は8kg増の504kg。過去最多体重で、
いつの間にこんなにデカくなっていたんだ!?と驚いてしまった。
もともと高い能力を評価されてきた
キンシャサノキセキだが、3歳春にアーリントンC(1番人気6着)、マーガレットS(1番人気4着)と阪神でのレースを上位人気で敗れたことで、同馬に対してはひ弱なイメージを持っていた。
その2戦での馬体重は464~466kg。南半球での生産で半年遅生まれのこともあり、当時の実年齢は2歳秋といったところだったのだろうが、その2戦のイメージが強すぎて、『牡馬にしては小柄な部類で、平坦でスピードを活かす形の方が向く』とインプットしてしまっていた。
キンシャサノキセキは今回が8勝目で、これまでの勝利を馬体重とともに振り返ると、次のようになる。
1勝目:新馬(2歳12月)
470kg2勝目:ジュニアC(3歳1月)
466kg3勝目:桂川S(3歳11月)
470kg4勝目:谷川岳S(4歳4月)
482kg5勝目:キャピタルS(4歳11月)
486kg6勝目:函館スプリントS(5歳7月)
490kg7勝目:スワンS(6歳10月)
496kg8勝目:阪神C(6歳12月)
504kg2勝目のジュニアCからは、常に体を大きくしながら勝利を重ねていて、完全な右肩上がりの曲線を描いている。
この辺りは、タップダンスシチーなどと同じく、血統内にリボーの血を持つ馬の成長力と思わせられるが、いずれにしても、この成長力にこちらの想像力が追い付けていなかったのが悔やまれる。
キンシャサノキセキ、6歳秋(実年齢換算なら6歳春)でも成長中、ということなのだろう。
2着は
プレミアムボックスと
サンカルロの差し争いとなったが(結果、同着)、2頭も序盤は後方に控え、3コーナー過ぎからは
キンシャサノキセキが通った後をなぞるようにして末脚を伸ばした。
この上位3頭はいずれも関東馬で、すべて
社台グループの馬。競輪風に言えば、
社台グループの関東ラインで上位を独占した、といったところだろう。
3頭はいずれも阪神での連対歴がない馬だったが、古馬混合の阪神芝重賞で、阪神での連対実績がない馬が1~3着を占めたのは、88年以降では初。それ以前の記録は調べが付かなかったのだが……いずれにしても、
今回の阪神Cは、それだけレースとしては異質だったと言えるのではないだろうか。