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ローズバドの息子と一体になって手に入れたもの
文/石田敏徳

小牧太騎手が初めてのJRA重賞制覇を達成したレースが、2001年のフィリーズレビューだった。パートナーはローズバド。その手綱を彼に委ねたトレーナーが橋口弘次郎師である。鮮やかなデビュー3連勝を飾って今年の2歳チャンピオンに輝いたローズキングダムと、馬に携わる男たちの物語はここから始まる。

当時はまだ、地方競馬の園田(兵庫県)に籍を置いていた小牧騎手はこの2001年、ローズバドと同じ“バラ一族”の血を引くロサードで小倉記念を制するなど、中央の舞台で20勝の勝ち星を挙げる。

「帝王」と呼ばれた田中道夫騎手の長い王朝に幕を下ろした新たなリーディングジョッキーとして、地元・園田では揺るぎのない地位をすでに確立していた小牧騎手だが、中央で騎乗する機会が増えた1999年以降の勝ち星(中央でのもの)は1999年が5勝、2000年はわずか1勝に過ぎなかったのだからアピール効果の大きさが窺える。

こうして中央の関係者にもすっかりその名が知れ渡ることとなった「園田のフトシ」は、翌2002年も中央で21勝を挙げてJRA騎手試験の一次試験免除の資格を獲得。2003年に同試験を受けてこれに合格し、2004年3月にJRAへ移籍した。

前年の春に笠松からJRAへ移籍した安藤勝己騎手は、ビリーヴとのコンビで移籍直後にG1制覇(高松宮記念)を達成するなど大活躍。地方通算3376勝の実績を引っさげて園田からやってきた36歳のルーキーの行く手にも、大きな期待をかける人が多かった。

しかし、移籍初年度の小牧騎手の騎乗ぶりは、周囲の期待を十分に満たしたものとは言えなかった。この2004年、彼は44勝を挙げ、重賞も3勝しているのだから、普通の物差しでは十分に合格点と言える。しかし、キラキラと輝いていた園田時代の彼を知る人の目にその数字は物足りなく映った。

とりわけ大きなフラストレーションを感じさせた騎乗が、G1制覇の絶好機と思えた同年暮れの朝日杯FSだった。デイリー杯2歳Sを豪快に差し切ったペールギュントとコンビを組み、1番人気の支持を背負って臨んだ彼だが、レースでは馬群の後方で包まれ、脚を余した格好で③着に敗れてしまう。

「あの朝日杯は彼の騎手人生を大きく変えてしまうようなレースでしたね。あの後、彼の騎乗には傍目にも“迷い”が見えるようになりましたから」

ペールギュントの手綱を委ねた橋口師はそう振り返る。

ひとつの敗戦の後遺症に、思いがけないほど長く苦しめられてしまうということが、競馬の世界では確かにある。その後の小牧騎手はまさにそんな感じだった。ソコソコは勝つけれど、派手な活躍とは縁の遠いジョッキー。周囲からはいつの間にか、そうしたレッテルを貼られるようになった。

とはいえ、たったひとつの白星をきっかけに流れがガラリと変わるのも競馬の世界の常だ。かつての輝きを失いつつあった小牧騎手が、自らの手でつかみとったターニングポイント。それがレジネッタとのコンビで制した昨年の桜花賞だった。

「桜花賞を勝ったことで吹っ切れたのでしょうね。その後の彼からは迷いが消えて、自信が伝わってくるようになりました」とは橋口師の弁である。

念願のG1制覇を果たしたことで心の霧を振り払ったジョッキーに、トレーナーはこの秋、ローズバドの息子の手綱を託した。その馬、ローズキングダムは新馬、東京スポーツ杯2歳Sを連勝。

当初は暮れの照準をラジオNIKKEI杯2歳Sに定めていた橋口師だが、デイリー杯2歳Sを鮮やかに差し切った僚馬リディル(これも小牧騎手の手綱)の故障を受けて予定を変更、朝日杯FSに挑ませることを決断する。ペールギュントの朝日杯FS以来、5年越しとなる“リベンジ”のお膳立てがこうして整った。

3戦3勝の2歳チャンピオンが誕生したレース後、検量室前では晴れやかな表情でインタビューに答える小牧騎手の姿があった。

「自分の馬がいちばん強いと思って乗っていました。こんなに素晴らしい馬に跨らせてもらったことが嬉しいし、これからは一戦一戦、取りこぼさないようにダービーまで進んで行きたい。(僕は)ベテランと言われるけれど、あまり大きなレースを勝っていないんで、『小牧太はやればできる子なんだ』ということをお見せしたいですね」

一方の橋口師は共同会見後の囲み取材でこんな話をしてくれた。

「ペールギュントのことがあったから、彼は僕の何倍も期するところがあったはず。だけどすごく落ち着き払って、本当に自信を持って乗ってくれた。これでもう、来年も安心してこの馬を任せられますよ」

浅からぬ縁を持つローズバドの息子と一体になって手に入れたのは、ペールギュントの忘れ物ばかりではなかった。トレーナーからの信頼もすっかり取り戻した“園田出身のフトシ”は、愛馬に傾ける揺るぎのない自信を胸に来年のクラシック戦線を率いていく。