人馬ともに、自らの力でクラシックへの扉を開いた
文/編集部
マンハッタンカフェの近親にあたる
アプリコットフィズ、アドマイヤグルーヴの初仔
アドマイヤテンバ、メジロドーベルの娘
メジロオードリー、タスカータソルテの全妹
テイラーバートンと、今年のフェアリーSは良血馬たちが多く揃った。
POG的には、同週のシンザン記念よりも注目度が高かった、とも言えたのではないだろうか。
しかし、そんな良血馬たちに牙をむいたのは、優勝した
コスモネモシン、ではなく、
中山芝1600mというコースだったように思う。
いまや
「日本一アンフェアなコース」とさえ言われる中山芝1600m。圧倒的な外枠不利は有名で、上級条件になればなるほど、優勝馬はひと桁馬番から出やすくなっている。
86年以降、中山芝1600mで行われた2~3歳限定のOPクラスの競走は114レースで、実にそのうちの83%にあたる95レースでひと桁馬番の馬が勝利している。
ふた桁馬番の中で、勝利数が比較的多いのは10~12番で、13番より外枠だと4勝。これは全体の3%で、消費税より低い。
馬番16番に至っては[0.1.1.29]という成績で勝ち馬が1頭も出ておらず、今回のレースで
テイラーバートンがゲート入りを手こずったのも、大外枠にイヤな予感を感じたからではないかと思ったほどだ。
前述した良血馬の中では、
メジロオードリーが1枠2番を引き当てたものの、
アプリコットフィズは13番、
アドマイヤテンバは15番、そして
テイラーバートンが大外の16番と、ことごとく不利な外枠となった。キャリアの浅い3歳牝馬で、これはさすがにつらかったに違いない。
それでも
アプリコットフィズは、大逃げした
カホマックスを最初に捕まえに動き、クビ差の2着まで粘ったのだから、
改めてその能力の高さを示したと言える。
テイラーバートンも大外枠で序盤で外を回らされる形にながら、その後になんとか馬群の真ん中まで潜り込み、直線でもジリジリと脚を伸ばしていた。前走で初めて控える競馬をして勝ち鞍を挙げ、今回はさらに苦しい条件だったにも関わらず3着とレースを作ったのだから、これは賞賛に値するはずだ。
ただ、しかし。おそらく陣営は「3着では…」という思いも残ったことだろう。収得賞金に加算されるのは、重賞競走では2着までで、2着と3着には大きな差がある。
今回のようにフェアリーSに好メンバーが揃うのは、各陣営が、
早くに賞金を稼いで桜花賞をはじめとした大レースへの出走権利を確保したいと考えているからだろう。早くに賞金を加算できれば、余裕を持ってクラシックに向かうことができる。
その意味では、3着となった
テイラーバートン以下の馬たちは、クラシックに対しては、もう一度仕切り直しになってしまったと言える。無情な話だが、ルールなので仕方がない…。
逆に言えば、優勝した
コスモネモシンは、前走で未勝利戦を勝利したばかりだったが、連勝で重賞制覇を果たし、自らの力でクラシックへの扉を開いた。
アプリコットフィズの直後に付け、これをマークするようにレースを進められたのも良かったのだろうが、これを後ろから差し切ったのだから素晴らしい。
ゴールした瞬間、鞍上の
石橋脩騎手がガッツポーズを見せたが、それもそのはず、
石橋脩騎手にとっては今回が初の重賞勝利だった。
石橋脩騎手はこれまでに中央G1に6度の騎乗があるものの、春のクラシックには出場歴がない。今回の勝利で出場が確定したわけではないけれど、
人馬ともに、自らの力でクラシックへの出走をグイッと引き寄せたと言えるだろう。
コスモネモシンの父ゼンノロブロイは、現3歳が初年度世代で、中央重賞は今回が初勝利。
アニメイトバイオが阪神JFと京王杯2歳Sで僅差の2着になっていて、またも牝駒から活躍馬が出る形になった。
ゼンノロブロイにとっては、中山芝1600mで重賞を勝利したことの意義が大きいように思う。というのも、前述したようにこのコースはトリッキーで、苦手にする種牡馬が多いからだ。
例えば、今回のレースで2&3着となった
アプリコットフィズと
テイラーバートンの父ジャングルポケットは、今回のレースを終えた時点で中山芝1600mでの産駒成績が[1.2.4.34]。
メジロオードリーの父であるスペシャルウィークは、[8.13.14.93]という産駒成績だが、500万クラス以上に限ると[0.7.5.60]と勝った馬がまだ出ていない。
このほか、昨年のリーディングサイアーであるマンハッタンカフェの産駒も、このコースで500万クラス以上だと1勝止まりだし、タニノギムレットの産駒も中山芝1600mでは[1.6.2.52]と勝ち切れないケースが目立つ。
中山芝1600mというコースは、枠順の有利不利もありつつ、種牡馬の選り好みも激しいのだ。これが人間なら付き合いづらいこと間違いなしだが、ゼンノロブロイは今回の
コスモネモシンの勝利により、このコースと相性が良さそうなことを証明した。
給食で余った牛乳をがぶ飲みする牛乳好きの子どものように、今後の中山芝マイルの上級条件でも、ゼンノロブロイの産駒が次々と1着を平らげていく。そんな光景が見られる可能性も、十分にありそうだ。