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巨漢馬たちの押し切りを33秒6の末脚が阻止した
文/編集部

愛読書の『鬼平犯科帳』の中に、「相撲小町」と呼ばれる女性が登場する。たっぷりとしたある女性の呼称なのだが、今年の京都牝馬Sの出馬表を見ていたら、ついそんな相撲小町のことを思い出してしまった。

2番人気に推されたザレマは、前走から体重を6kg増やしての544kg。3番人気だったブラボーデイジーは京都金杯を取り消した影響もあったか、8kg増の542kgで登場した。5番人気のワンカラットも512kgでの出走で、実に5番人気以内の5頭中3頭が500kgオーバーという状況だった。

いずれも先行しての寄り切りを目指すタイプで、これに514kgのショウナンラノビアも加わり、先行勢はなかなか強力な布陣に映った。

京都競馬場は、特別競走に入る頃になると雨が再び降り出し、芝も良馬場から稍重へ。末脚勝負の馬たちの切れ味を殺ぐようなコンディションに変わり、ますます相撲小町たちの優勢かと思われた。

ところが、そんな状況を断ち切ったのは、馬体重460kgのヒカルアマランサスだった。格上挑戦で斤量が52kgだったとはいえ、稍重馬場で上がり33秒6の脚を繰り出したのだから、これは凄い。

相撲で例えれば、巨漢力士が力で寄り切ろうとしたところ、小兵力士が土俵際でひらりと体を入れ替えたような感じか。いや、そんな逆転劇ではないな。むしろ、小兵力士が立ち会いとともに巨漢力士を突き、一気に土俵外に追いやったような力強さがあった。

ヒカルアマランサスは、デビュー2連勝を飾り、忘れな草賞ではブロードストリートと人気を分け合うほど、早くから注目された存在だった。

だが、デビュー2戦目で馬体重を18kg減らし、3戦目だった忘れな草賞でもさらに8kg減って⑩着に惨敗。当時はまだか弱さを感じさせていた。

それが、昨秋のローズSに32kg増(476kg)で復帰すると、叩き2戦目以降は466kg(10kg減)、460kg(6kg減)、462kg(2kg増)、460kg(2kg減)と、460kg台で安定。近走の馬体重の安定と末脚の確かさは、無関係ではないだろう。

レース後のインタビューで、デムーロ騎手「彼女はこれからもっと良くなると思う」と話していたが、それに異論を挟む人もいないだろう。その母系を見ても、非常に長く活躍しそうな血統をしている。

祖母のカーリーナは仏1000ギニー3着馬で仏オークス馬だが、その母系を遡ると、ある希代の古豪の名前が見つかる。その馬とは、10歳、11歳、12歳で日本のある重賞を3連覇したのだが、さて、何か分かるでしょうか?

正解は、中山グランドジャンプを3連覇したカラジだ。カラジの祖母シャイナーズは、ヒカルアマランサスの4代母でもある。

カラジは430kgの小さな体で中山グランドジャンプを3連覇し、体の大きさとタフさは比例していなかった。同じ雰囲気をヒカルアマランサスにも感じないだろうか。

今回のヒカルアマランサスの勝利により、古牝馬の芝重賞は、先月(09年12月)の愛知杯に続いてアグネスタキオン産駒の2連勝となった。

思えばその愛知杯も、500kg以上あった馬たちを②&③着に抑え、アグネスタキオン産駒(リトルアマポーラ)が勝利したのだった(②着は534kgのブラボーデイジー、③着は500kgのメイショウベルーガ)。

ヒカルアマランサスはその愛知杯が④着だったわけだが、今回はブラボーデイジーを飛び越えて勝利を手にした。面白いもので、③着だったメイショウベルーガも、次走で日経新春杯を制しているが、その時は馬体重が4kg減で496kgだった。

調べてみると、00年以降の古牝馬の芝重賞で、馬体重が500kg以上あった馬は[5.16.9.90]となっている。複勝回収率が117%なのだから、非常に頑張っていると言えるが、②着16回・③着9回が示すように、400kg台の馬たちに頭を抑えられるケースが目立つ。

次回の古牝馬の芝重賞は、3月14日の中山牝馬S。出走馬の馬体重に注目しつつ、馬券検討すると面白いのではないだろうか。