なかなかどうして、ダート短距離界も多士済々で粒揃い
文/編集部
私だけに限らず、競馬ファンは常にニュースターの登場を期待していると思う。もちろん現在もウオッカ、ヴァーミリアン、ブエナビスタなど、実力も人気も申し分ない馬たちもいるが、それでも人間は欲張りなもので、さらにもう1頭の存在を望んでしまうものだ。
現在、なかなかの盛り上がりを見せているのが
ダート界。先日の川崎記念でG1(Jpn1を含む)9勝という大記録を打ち立てた
ヴァーミリアン、JCダートの覇者
エスポワールシチー、昨年のフェブラリーS勝ち馬で、東京大賞典ではヴァーミリアンを叩き合いの末にねじ伏せている
サクセスブロッケンなど、枚挙にいとまがないほど。
そんなダート界で、やや層の薄い印象があったのが
短距離路線である。本来ならば、08年のJBCスプリントの覇者
バンブーエールが、王者として君臨していてもおかしくなかったのだが、昨年の東京盃制覇後に右前浅屈腱炎を発症し休養に入ってしまった。そして、その東京盃で②着だった、当時3歳のスーニが次走のJBCスプリントを1番人気で優勝したのである。
そう、本来ならばこの
スーニが、ニュースターとしてファンに迎えられてもおかしくないところだろうが、JBCスプリントの次走のJCダートで⑭着と大敗してしまった。とはいえ、ここまでダート1600m以下のレースでは5勝②着1回という成績を残しており、それでも3番人気に支持されていた。
スーニを押えて上位人気に推されたのが、ダートで連勝中だった
サマーウインドと
ケイアイテンジンの2頭。前者はデビューから芝を2戦したが⑭着、②着と勝利を挙げられず、その後は北海道競馬に移籍して2連勝。そして、中央に再入厩し、条件戦を3連勝して一気にオープンへと駆け上ってきた。後者も準OP、OP特別と連勝し、ダート1400mでは5勝②着1回だった。
ともに、G1ウイナーの
スーニをも上回るインパクトを期待されての人気だったのだろう。そして、レースのカギもこの3頭が握ることになる。
レースは大方の予想通り、押して
ケイアイテンジンがハナに立つ。
サマーウインドも好スタートを切ったが、やや控えて2番手集団に。スタートでやや遅れた
スーニは、引っ掛かり気味に3コーナー手前で2番手集団の一角に取り付く。人気馬3頭が前に行ったことで、レースも一気にペースアップする。
直線に入り、逃げる
ケイアイテンジンに
サマーウインドが馬なりのまま並びかける。そこにやや遅れるように、川田騎手の派手なアクションでムチを入れられたスーニが追いすがる。人気3頭の叩き合いになるかと思われた瞬間、馬場の外目からグングン伸びてきたのが
グロリアスノア。人気3頭を交わし去り、重賞初勝利を飾った。
②着にはスタート直後にやや控えたことで、人気馬の中では比較的末脚が伸びた
サマーウインド。③着には
グロリアスノアとともに外から追い込んだ
オーロマイスター。
スーニは④着。逃げた
ケイアイテンジンは⑬着に失速した。
勝った
グロリアスノアは昨年のユニコーンSで②着し、エニフSでは古馬相手に勝利していた。その後、後肢に筋肉痛を発症して休養に入り、ここが復帰戦だった。11番人気という低評価になっていたのも、休み明けが影響した部分もあるだろう。これで
グロリアスノアの通算成績は8戦4勝となったが、
ダート1600m以下に限ると4勝②着1回である。
そう、
グロリアスノアもダート短距離に限れば、人気3頭に遜色のない成績を残していた馬だったのだ。いつだって新星は突然現われるもの。もしかするとこれは、
ダート短距離界のニュースター誕生の瞬間だったのかもしれない。
一方、②着
サマーウインド、④着
スーニも負けはしたものの、その実力を改めて証明した一戦ともなった。4コーナーで5番手以内だった他の馬たちは、⑫着の
ダイワディライトが最先着。最後は勝ち馬の鬼脚に交わされたが、先行馬に非常に厳しい流れの中で踏ん張ったそのレースぶりは、次走以降に向けて手応えを感じられるものだったのではないだろうか。
冒頭で層が薄いと書いたダート短距離界だが、なかなかどうして多士済々で粒揃いではないか。冬の大一番フェブラリーSで、ここから真のニュースターが登場することを期待せずにはいられない。