騎手試験合格に導いた「キリーン」の話を柴山さんにしてもらいました
2010.3.4
先日、春一番が観測された日がありました。あの日、朝からくしゃみが止まらず、鼻もムズムズして仕方がなく、ついに30歳にして花粉症デビューか、と覚悟をしたのです。周囲の方々の苦しみ方を見ていると、憂鬱な気分になりました。
覚悟を決めようと花粉症用のマスクを購入し、着用して過ごしました。翌日も同じ症状が続き、完璧に花粉症だと覚悟しました。
そして、その夜は熱発。花粉症の酷い人は熱が出るケースもあると聞いていたので、酷い症状になってしまったぁ…と一層気分が落ち込みました。
ところが、なんと翌日、熱が引くと、くしゃみも鼻のかゆみも治まったのです。治療には行っていませんので、ハッキリとしたことはわかりませんが、ただの風邪だったようです。
上の人(松岡騎手)は、花粉症が相当酷いらしく、鼻も目も赤くなってしまっていて、見ているだけでその辛さがヒシヒシと伝わってきます。読者の方々で改善や対策の方法をご存じの方は、僕ではなく、ぜひ上の方に送ってあげてください。
では、今週は柴山騎手との対談の2回目となります。それではどうぞ!
[西塚信人調教助手(以下、西)](柴山騎手は)僕と同期なんですね。一緒に競馬場に入っているんですよ。
[柴山雄一騎手(以下、柴)]えっ!? それなのにあんなに初々しさがなかったの(笑)。
[西]そんなに初々しくありませんでしたか(笑)。
[柴]もう何年も働いているベテランの方という雰囲気でした。
[西]そんなぁ、間違えないでくださいね、同期ですから。僕は柴山さんに、初めて西塚厩舎の馬に乗ってもらった時のことをよく覚えています。エフテーコンコルドだったんですよ、覚えてますか?
[柴]覚えているよ。
[西]またぁ、本当ですか?(笑)
[柴]本当、本当(笑)。
[西]じゃあ、そうしておきましょう。京都だったのですが、ブレイク中の柴山さんでも、やはり1年目ということで、関西へ行くと空きが出るわけですよ。それまで人気があって乗ってもらえませんでしたが、結構お願いはさせていただいていたのです。
[柴]皆さんに、本当によく乗せていただき、感謝しています。
[西]柴山さんは、(JRAの騎手試験は)何回目で合格されたのですか?
[柴]地方所属としては1回目だね。
[西]一発ですか!? 凄えぇ。
[柴]運があったとしか思えないんだよね。
[西]勉強は相当したのではないですか?
[柴]2、3ヵ月くらいはやったという感覚がある。
[西]すごく勉強したわけですね。
[柴]勉強というか、ひたすら書いて、書いて、覚えてということを繰り返していた。
[西]馬学とかもそうやって覚えたのですか。
[柴]そうだね。過去の問題を参考にしながら、ひたすら書いて覚えていった。
[西]どんな感じで出題されるのですか?
[柴]そうだなぁ、例えば、騎手が馬場入場した馬を、ゴールに到達するまでにしなければならないことを書きなさい、というようなことだね。記述式で、横に線が引いてある解答用紙が用意されているんだよ。
[西]まずは…?
[柴]まずは並足でゴール板を通過して、集合合図があったら速やかに集合すること、という感じで書いていくわけですよ。
[西]騎手の方々にとっては、普段何気なく行っていることですが、言葉にすると難しくありませんか。
[柴]そうなんだよ。体では覚えていても、文字にすると変な感覚になるんだよね。でも、あの時は勉強したなぁと思う。
[西]どのくらい勉強されたのですか。
[柴]1日4、5時間はやっていたと思う。笠松と名古屋で、毎週交互に開催されているので、両方で騎乗していたのですが、7月からは笠松だけにさせてもらいましたから。
[西]勉強するためにですか?
[柴]そう。
[西]それって、かなりの勇気を必要としませんか。断るわけですからね。
[柴]勇気は要りますよ。名古屋で走って、今度笠松に戻ってくる時に、戻してもらえる可能性が低くなるわけですから。
[西]リーディングの上位であっても、そうですか。柴山さんは1~2位でしたよね?
[柴]いや、4~5位という感じだったと思いますよ。
[西]凄いですね。だって、JRAは受かる保証はないけど、勉強しなければならない。そのために騎乗も抑える。それによって乗り鞍が減る可能性は高い。でも、リーディングの背中が見える位置にいる。それは難しいというか、大変ですよね。もしJRAがダメだったら…、と考えましたか。
[柴]というか、落ちるのが当たり前という意識だった。だから、合格するまで頑張るんだと思っていたんだよね。もちろん、受験勉強しながらでも、リーディングでも上を目指して上げていきたいと思っていたよ。
[西]でも、乗鞍が減っていってしまうかもしれないわけですよね。
[柴]リーディングは笠松は笠松、名古屋は名古屋だから。とにかく笠松で頑張りながら、という意識だったよね。
[西]それが1次試験を合格したわけですよね。
[柴]落ちて当たり前だと思っていましたし、まずはJRAに行きたいと意思を見せるんだという思いでしたから。もう2次試験は言葉にならないほど、ドキドキしましたよ。これを滑ったら騎手を辞めようとさえ思いました。
[西]えっ、そういう覚悟で試験に臨んでいたのですか。
[柴]2次試験の時ですよ。アンカツさんにも、『まだ若いんだから、何回でも受ければ良い。10年くらい受けるつもりで頑張れ』と言っていただいていたからね。
[西]アンカツさんにも相談されたのですか。
[柴]僕でも受けても良いんですか、と聞くと、大丈夫だと教えてもらった。『行きたいなら、若いうちから受ければ良い。行きたいんだという意思を見せるためにも、何回でも受けるべきだ』と言っていただいて、それで受験し始めたんだよ。
[西]それが受験するきっかけでもあったわけですね。
[柴]そう。それまではリーディング上位でないと、合格どころか受験できないと思っていましたからね。
[西]話は変わりますけど、2次試験の時、馬の準備とかをしていたのは僕たちなんですよ。
[柴]あっ、そうだったんだ。あの時もラッキーだった。
[西]何かあったんですか?
[柴]障害の試験があった。
[西]えっ!? 柴山さんも障害の試験を受けたのですか?
[柴]受けましたよ。角馬場で障害を飛びました。
[西]柴山さんは障害の免許も持っていたということですか。
[柴]いや、免許は持っていないよ。角馬場ではなく、障害の免許をもらう試験は走路で障害を飛ばなければならないから。あくまで、基本馬術の試験だったんだけど、メチャメチャ障害を飛ぶのが上手い馬に当たったんだよ。くじ引きで決めるんだけど、何も知らないで引いたら、キリーン号になったわけですよ。そうしたら、学校生たちが『うわぁ、取られたぁ』と、ざわついてね(笑)。
[西]それは相当飛ぶんでしょうね(笑)。
[柴]すごく飛ぶ馬でしたよ(笑)。
[西]ある意味、いまの柴山さんがあるのはキリーンのお陰かもしれませんね(笑)。
[柴]そうですね。キリーンと、あとは、笠松の乗馬クラブがあるのですが、そこで障害を教えてもらったお陰ですね。
[西]あっ、乗馬クラブに行っていたのですか?
[柴]行ってました。1次試験に合格してから、行きました。
[西]そうですか。運も実力のうちですが、キリーンは大きかったですね(笑)。
[柴]いや、運が良かったんですよ。運しかなかった。そうではなかったら、キリーンにも恵まれていませんから(笑)。運が良かったと言えば、事前に勉強したところがピッタリと出たりしてね。
[西]あっ、そうだったんですか。
[柴]うちの奥さんが問題を作ってくれて、晩御飯の前に問題を出された。口頭試問的な感じで、いろいろな問題を出されたんだけど、全然覚えることができないし、だから言えないわけですよ。『これで、本当に受けに行くのですか』と言われてしまうくらいのレベルだった。でも、それが3日前くらいからスラスラ言えるようになったんですが、直前に勉強したところがピッタリと出たんですよ。思えば思うほど、運が良かったと思います。奥さんが一生懸命出題してくれましたが、結局、アッと言う間に忘れてしまいましたけどね(笑)。
[西]いや、そこはさすがの集中力でしょう。
[柴]そんなことないよ。試験が終わってから、一緒に受験した先輩に、『あそこって書けた?』と聞かれて、『一応書きました』と言うと、『なんて書いた?』とさらに聞かれて、『思い出しますから、待ってください』と言って考えたんだけど、思い出せないんだよね。ずっとダグを踏みながら振り返ったんだけど、結局、思い出そうとしているうちに馬場を1周してしまったんだよね。
[西]マジですか(笑)。
[柴]さらにキャンターをやって、結局、その馬を降りて『すいません、思い出せませんでした』と謝った(笑)。
今週はここまでとさせていただきます。
前回登場していただいた山嵜獣医師との対談で話題となった“筋注”について、整形外科の部長さんを務めていらっしゃる先生からメールをいただきました。
僕が受けたブロック注射の薬の成分など、より詳しい内容を書いていただき、いやぁ、本当に勉強になりました。この場を借りてお礼を言わせていただきたいと思います。ありがとうございます。
その先生が、馬も人間と似ている部分があるのですね、と書いていらっしゃいましたが、ある胃腸薬も人間用と馬用で同じような成分だったりしますし、似ているなぁと僕自身も感じております。
ぜひまた、メールでご意見、ご指摘をいただければ幸いです。これからもよろしくお願いいたします。
あっ、あと、メールと言えば、髪型についての指摘もいただきました(苦笑)。トレセンの裏にある理髪店で、いまさらのツーブロックにしたのです。友達たちにも笑われましたが、そこを狙ってあえて挑戦したことをご理解ください。
ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。