馬は数字だけではなく、アナログな部分も重要なのです
2010.4.8
先週は、土曜日の中山のメインレース・船橋ステークスでエフテーストライクが4着となりました。
状態が良かったので、良い競馬をしてくれるはずだという手応えがあり、実際によく頑張ってくれたと思います。
今回のエフテーストライクの競馬で、ひとつ感じたことがあります。それは持ち時計ということ。
基本的に、競馬のなかで位置取りや時計、もっと言えば右回り、左回りということなどを気にするよりも、競馬に向かう前の状態がどうであったのかということを、調教助手としては、競馬の後で何よりも先に考えてしまうのですよね。
もっと言えば、能力がある馬なら、どんな厳しい状況で、どんな不利を受けようとも勝ってしまいますから。
でも、今回のエフテーストライクは状態も良かったのですが、時計の掛かる馬場も良かったと思うのです。
振り返れば、1分8秒から9秒の間での決着だと好走しているのです。いわゆる、時計の掛かる馬場で台頭するタイプということなのでしょう。
さて、今週は、池上調教助手との対談の2回目をお送りいたします。それではどうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]牝馬のなかには、どうやっても、こうやっても食べてくれないというのがいますよね。個人的には、飼い葉の食べが良いとか悪いという血統があるんじゃないかと思っているんですが…。
[池上昌和調教助手(以下、池)]あると思います。気性的に難しい面を持っている血統というのがあるわけで、気性が難しいタイプには飼い葉食いが細い傾向が強かったりするわけですからね。
[西]気性と飼い葉食いには、関連性があるとされるじゃないですか。この種牡馬の牝馬は飼い葉食いがあまり良くないとか、兄弟であまり食欲が旺盛ではないというようなことはあるでしょう。
[池]兄弟で気難しいというケースも、決して珍しくはありませんからね。
[西]一緒にいる時間が長いからなのでしょうが、気性とかは母馬の影響を強く受ける印象があります。
[池]でも、特に牝馬は難しいと思います。2~3回競馬を経験しても食欲旺盛で、安心していると、いつの間にか食べなくなってしまうという牝馬もいますよね。
[西]そうなんですよ。牝馬は特に、入厩した当初は普通に食べているのが、競馬を経験していくに連れて食べなくなっていくケースが珍しくありません。
[池]あとは、ハードな追い切りを一度経験したら食べなくなってしまった、というようなケースもあったりしませんか?
[西]セオリーと言っても良いくらいじゃないですか(笑)。ゲート試験が終わったあたりから怪しいぞ、みたいなこともありますよね。
[池]新馬にとって、ゲートは大きな負荷のひとつですからね。
[西]それは確かだと思います。話が逸れてしまいますが、池上厩舎としてG1は最近も挑戦していますが、クラシックは?
[池]クラシック出走はなかったはずです。いちばん最近のG1はトウショウギアで、その前がシルキーラグーンですね。あとは、ビッグスマッシュの朝日杯かな。
[西]シルキーラグーンと言えば、オーシャンSを連覇していますよね。当時はまだOP特別で、重賞になっていれば、重賞連覇だったんですよね。
[池](連覇した)次の年に重賞に格上げとなったのですよ。引退する年(06年)に重賞となったオーシャンSに出走を考えていたのですが、繁殖に早めにあげたいというお話をいただいたのですよ。
[西]クラブ所有の馬たちが繁殖で引退するケースというのは、普通は春だったりしますよね。
[池]あの頃はCBC賞が暮れに行われていて、あの年は雪で1週間延期になってしまったんですよ。(中京競馬場と)2往復せざるを得なくなり、熱が上がってしまったのです。他にも関東馬が1~2頭いたのですが、全頭が熱発してしまいました。熱もすぐに下がり、調子も悪くはなかったのですが、無理をせずということで、引退することになったのです。
[西]なるほど。桜花賞に出走するギンザボナンザは、栗東ではどのようなメニューで調教される予定なのですか?
[池]栗東でもダートやポリトラックが主体となるでしょう。追い切りはポリトラックで行うことになると思います。
[西]栗東のウッドチップは深いと言われますよね。
[池]ただ、美浦は最後が坂になっていますが、栗東はフラットですから、時計は出ますよね。美浦のウッドチップで、最後の1ハロン11秒台という数字は、まったくと言って良いほど見かけません。
[西]そう言えば最近、ウッドチップコースで外を回るようになりましたが、70-40が出なくなりましたよね。
[池]出ないですね。内のハロン棒を目安にしているから、外を回ることになると、どうしても2秒くらいは変わってくるのでしょうね。
[西]この前、あるトラックマンに「70-40で大丈夫」と言われたことがあったのですが、いまはそれが普通だったりしますよね。
[池]特に3歳とかで非力な馬なら、なおさらです。僕も『70-40ですけど、大丈夫』と言われました。
[西]時計もそうですけど、馬体重もいろいろと聞かれませんか? 西塚厩舎だった頃は、相当言われました。確かに重要なファクターのひとつではありますが、ブッチャけ、それがすべてはないと僕は思うのですよ。
[池]重要なファクターではありますが、例えばプラス体重=調教が軽いということではありませんし、逆にマイナス体重=ハードであるとか、飼い葉を食べさせていないということではないですからね。
[西]そういう解釈を馬主さんをはじめ、ファンの方にもされがちだったりしますよね。
[池]そこで我々が気を付けなければならないのが、数字を合わせにいってしまうことだと思います。
[西]分かります。マイナスやプラスで負ければ、そこに敗因が求められがちですよね。もちろんそういう部分が敗因の時もありますが、そうじゃない部分もありますから。
[池]例えば、3ヵ月の休養明けでプラス体重だった時、数字そのものではなく、成長分なのか、それともそれを加味しても太めなのか、ということだと思うのです。
[西]そうなんですよ。あと、休み明けで増減なしという状況で、こちらとしては『もっと成長していてもらいたかった』と思っているのに「好仕上がり」と言われることもありますからね。
[池]そういう傾向はあると思います。世間というか、社会全体がそういう風潮になってきているからなのでしょうが、フィーリングによる部分が少なくなってきているように思います。
[西]そうですよね。下町の職人じゃないですけど、数字では表せない部分は絶対にありますからね。経験を積んできたからこそ理解できている人たちの技が、軽視されているように思うんですよ。
[池]あるテレビ番組で、砲丸投げの砲丸を作っている職人さんというのは、削る音だけで重心の位置が分かる、ということを放映してました。僕らも含めて、若い人間には経験がないからなのでしょう、分からなかったり、実際にやったことのない人間には分かり難い。だから、数字になっていく面もあるのだと思います。もちろん数字が大切なことは理解しているつもりですが、それだけではない部分があると思っています。
[西]技術者が減ってしまっていると言われますよね。僕自身、年配の厩務員さんに教えられることはたくさんあります。こういう言い方をしたら失礼ですが、池上さんってアナログの部分を持っていらっしゃるのですね。怒られるかもしれませんが、少し意外でした。
今週はここまでとさせていただきます。
冒頭の話に戻ると、持ち時計は数字です。ただ、エフテーストライクでも1分8秒から9秒の間であっても、凡走してしまうケースはあるわけでして、数字は大事ですが、絶対ではないということを言いたいのです。
そう言えば、地方競馬に移籍したシルクヒーローの勝利を知らせてくれる方々がいらっしゃいました。(シルクヒーローは4月1日に園田競馬での2勝目を挙げた)
僕自身も、レースや結果を追いかけているのですが、いま思うと、「あのようにもできたんじゃないか」、あるいは「もっとこうすれば良かったのかもしれない」と思うことがあります。
それだけに、地方で頑張って、そして勝つ姿は本当に嬉しいですし、陰ながら応援しています。
今週は、デビュー前から知っているということで思い入れがあるノボパガーレが出走します。あと、以前にお話ししたノボチャンも出走する予定ですので、応援をよろしくお願いいたします。
さらには、対談でも話をさせてもらったギンザボナンザが、いよいよ桜花賞に挑戦します。本当に頑張ってほしいと思いますし、応援させていただきます。
ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。