話し合って情報共有することも大切なことです
2010.5.20
先週のヴィクトリアマイルに出走したプロヴィナージュは、一瞬見せ場もあり、応援していても力が入りました。
小島先生と角馬場で一緒になる機会があったので、「残念でした」と声をかけさせていただいたのです。すると「頑張って走っていたよ」と納得された表情を浮かべていらっしゃいました。
その小島厩舎が今週のオークスに送り出すのは、トライアルで3着からの挑戦となるブルーミングアレー。
優勝関係者へのプレゼンターとして訪れるのは女優の蒼(あお)井優さん。その名前にかけて、激走を期待しましょう。さらに言えば、もし4枠に入ったら、完璧なのですけれどね(笑)。
冗談はこのくらいとして、小島茂之先生との対談3回目をどうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]小島厩舎と言えば、ポリトラックの角馬場でハッキングしながら話し合っているという姿が印象深いんですよね。実際には、時間もかかるし、大変な面もあるのでしょうのが、大事なことなのでしょうね。
[小島茂之調教師(以下、小)]競馬で勝つ、あるいは良い競馬をしたいという方向は一緒なのですが、助手が3人いたら、それぞれの感覚や考え方がある。それはそれで良いのだけれど、ある程度統一性がないと、馬が戸惑ってしまうでしょう。だから、こちらが「こういうイメージがあるから、こういうように調整していこう」と言ったとすると、「こういうのはどうでしょうか」、「こういう感覚があります」というような意見も含めて、話し合うことは大切だと思っています。
[西]具体的には、どのような話をしているのですか?
[小]どこか気になるところがあるか、あるいは、どこが気になるか、ということですよ。調教助手としては、まずは最低限、調教ができる・できないという部分が求められるわけですが、異常を察知できなければダメでしょう。どこが気になって、どこがおかしく感じるのか。乗りながら治せるケースもあれば、厩務員さんに話をして、ケアしてもらわなければならないことも多々ありますよね。そのためには、まずは気が付くことができないとダメです。それをみんなで確認し合うわけですよ。
[西]なるほど。
[小]具合が良かったのに、急に悪くなることもありますし、乗る人によって気になるところが違えば、それぞれの意見を出し合うことで「あっ、なるほど」と気が付くこともあるわけです。右トモか左トモで違うこともありますし、右トモだと言われて跨ったら左トモということもある。まず、第一印象は大切です。その後、部位をひとつひとつバラバラにして、イメージして異常を感じられるようにならないとね。
[西]そうですよね。尾関厩舎になってからは、基本的に騎手の方が乗るので、僕は速いところに乗らないのですが、速いところに行くと見えなくなることってありませんか。もっと言えば、角馬場では気になる。でも速いところへ行くと大丈夫というケースで、どのくらいまで治療したり、どのラインでOKを出すのかということなのですが。
[小]そういう馬の場合、石橋を叩いて渡るじゃないですけど、ひとつひとつ確認していくしかないし、その中で判断していくしかないでしょう。その判断については、ひと言で言えば、経験で得たモノなんだよね。自分で乗って、これは大丈夫という時もあるし、あとはウチは鉄平(池田元騎手)がジョッキーだったから、いろいろな馬に乗ってきているので、経験がある半面、大丈夫という判断をしがちになりやすかったりする。
[西]あっ、なるほど。経験が多いということは、危ない馬にも乗っているということですからね。
[小]それと、最近はあまり言わなくなったけれど、右の出が悪いとか、肩が張りやすいという時に、「元々だから」とか、「入ってきた時からだから」というセリフを聞いた。でも、それじゃ良くならない。それなら、慢性的なのかもしれないけれど、それを時間を掛けて、それが1年と長くなるかもしれないとしても、意識したり、ケアをしたりしていかなければ、良くならないからね。実際にやっていると良くなるから。
[西]そうですよね。
[小]昔、背中から腰にかけて、どこを触っても痛がった馬がいた。獣医から「坂路には入らない方がいい」と言われたんだけれど、乗ったら坂路でしか治せないと思ったんですよ。その根拠を聞かれると……もう忘れてしまって、思い出せません。でも、治せると思った。それで、坂路で乗り続けたら、1週間後に良くなっていったよね。
[西]そういうことってあるんですよね。
[小]悪いところというのは、単純な言い方をすれば、血行が悪かったりすることによるものだったりするよね。そこで、全体的なバランスを整えることは有効な手段のひとつでしょう。そこで坂路を乗ってあげた方がその部分を動かしやすく、そうすることでバランスが良くなる。それは血行が良くなることに繋がっていきますよね。
[西]あと、獣医さんが触っても分からないということもありますよね。
[小]あるね。獣医に診てもらっても、たぶん触っても出てこない部分かもしれないと感じることはありますよ。逆に、ベルウッドローツェが良くなりかけた頃というのは、乗ってみるとまったく感じないのに、獣医が触ると、もう嫌がって嫌がって仕方がないくらい痛がりましたよ。
[西]小島厩舎では、馬それぞれのファイルがありますよね?
[小]あります。でも最近は多くなっていますよ。国枝先生のところもずっと続けているようですし、他の厩舎も多いはずですよ。
[西]この馬が何升食べているという情報自体を共有することも大切なのでしょうが、そこで「食べていないからこうしませんか」、あるいは「食べているので、もっと攻めましょう」というような話し合いもされていて、きっと大きな役割を果たしているんでしょうね。
[小]有給休暇であるとか、競馬の関係で持ち替えになるとか、それこそ担当が替わる状況もあるわけですよね。それに対して、半年、あるいは1年近くの間隔で入厩してくる馬もいます。そうなると、飼い葉もそうですが、例えばサクヘキをやったのかどうかという部分についても、あやふやになる可能性がある。人の記憶というのは曖昧だったりしますので、それによって事故やアクシデントにつながる可能性があることを書いておけば、未然に防げると思うのですよね。
[西]参考になります。
[小]あと、書くことによって、記憶に残るという面もあるし、言葉遣いを考えることにもなると思うのですよ。オーナーが馬房を訪れた時、言葉遣いも含めてキッチリとした対応が求められるのです。我々調教師、あるいは調教助手だけが必要なことではないはずですから。
[西]基本的には調教師や調教助手が説明しますが、常にいるとは限りませんからね。助手の人たちがパソコンで入力しているのは、馬主さんへの報告ですか?
[小]あれは牧場への申し送りです。いまは牧場から申し送りを付けてきてくれるところが多いですからね。電話でも、伝えさせていただくのですが、文章として送ることで、こちらにもデータとして残りますので、続けています。
[西]隣で見ていて、馬のことだけでなく、そういう面にも凄さを感じさせられていたんですよね。ある意味、そこも調教師の技量であると思うのです。開業当初、どの部分から着手されたんですか?
[小]あくまでスタッフは、来てくれる人たちで頑張ろうと考えていました。いまでもそうだけど、流れに任せようと思っているのですよ。あと、調教師になると、いろいろやりたいことがあるのは当たり前で、それを10とすると、10のすべてを求めたくなる。でも、それぞれのスタッフによって、特徴も違えばできる量も違いますし、いきなり全部は無理。だから、あくまでできることからという意識でしたね。そうすることで腹も立たないし、上を目指して頑張っていこうということになった。
[西]なるほど。
[小]最初はスタッフのみんなも構えていたはずですよ。俺自身もそうだったはず。「どうなるんだろう」という不安も、少なからずあっただろうからね。ただ、ウチにいる以上は、俺がボスなわけですよ。人間だからミスもするし、できないこともあります。すぐに上手くいくほど、甘い世界でもない。それをみんなで補いながらという気持ちを持って、頑張っていくしかないよね。それを言い続けてきたんだけれど、言い続けないとダメだと思います。
今週はここまでとさせていただきます。
読者の方からミンナノアイドルについて質問をいただいたので、その話をさせていただきましょう。
昨日(19日)、三浦騎手が跨り、追い切りを行ったのですが、『動きは良かったですよ』というように、ここまで順調に調整を進めることができています。
いまのところ来週のデビューが予定されているのですが、ここまで時間がかかっている馬ですので、いきなりどうかと言われるとわかりません。
ただ、調整過程としては良い雰囲気のなかで初戦を迎えることができると思っていますので、どんなレースをしてくれるか楽しみです。ぜひ、皆さんにも応援していただければと思います。
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