“美浦にいちばんいない調教助手”斎藤隆介助手との対談最終回です!
2011.1.13
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
新年2日目(1月8日)の中山2Rで我が尾関厩舎のシンクオブミーが勝ち、早々に初勝利を挙げることができました。
調子は良かったのですが、前走も同じようにデキが良くて5着ということと、距離(1800m)に対しても半信半疑の部分があったので、ブッチャけ、自信満々ということではありませんでした。むしろ、5着に敗れた前走の方がいけるんじゃないかという思いがありました。
ただ、それでも、単勝が75.2倍だったことには、正直、驚きました。勝負事ですから、勝つかどうかは分かりませんし、前走が同じように状態が良くての5着でしたから大きなことは言えませんが、それにしても人気がないなあという印象は受けました。
まあ、単勝75倍の馬を、他のケースで勝てると思っているかと言われれば、もちろんそれほどないですよ。
今回のように、調子が良く、展開が向くなどの不確定要素が味方してくれた時には上位進出ができそうだという感覚の時はありますけど、勝つことがそんなに簡単ではないことも痛いほど知っているだけに、そういう感覚になるのかもしれません。
どんなに強い馬が、どんなに良い状態であっても負けてしまうことがあるのが競馬で、競馬は1頭でしているわけではありませんし、様々な要素が絡み合って、結果が生まれるわけですからね。勝つ時というのは、こういうものなのかもしれないと改めて思わされた一戦でした。
シンクオブミーは内容も良かったと思いますし、次走以降も楽しみだと僕自身は感じています。
新年ということで今年の目標を挙げさせていただきますと、「整理整頓」を心掛けたいと思ってます。
身の回りの物理的なことだけでなく、気持ちの面も含めて、すべての面において整理整頓を目指します。
例えば、仕事場を整理整頓をすれば、次の日にスムーズに仕事をすることができますよね。段取りが大切ということと繋がるのですが、片づける手間を惜しむと、その分、翌日に影響するわけですよ。
一方で、気持ちの整理整頓ができれば、慌てることがなく、落ち着いて物事に当たれますからね。
自分自身、だいぶ落ち着いて行動できるようになったとは思うのですが、まだ落ち着きがなくなることもあるようですので、気を付けたいと思っている次第です。
いきなり冒頭から長くなってしまいまして、どうもすみません。新年一発目は斎藤隆介調教助手との対談の最終回になります。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)外国では馬を叱らないみたいなことがよく言われるけど、実際、そのあたりはどうなのかな?
斎藤隆介調教助手(以下、斎)そもそも、馬はおとなしくなければならないという意識ですよね。噛んだり、蹴ったりすることは問題で、そういう時は、言葉が適切かどうかわかりませんが、ヤキが入ります。「よし、よし」なんてことは、まずあり得ません。扱いは、基本的には荒いですし、叱る時は半端じゃないくらい叱りますよ。「心得ているなぁ」と感心させられますし、衝撃を受けた部分ではありますね。
[西]日本では馬を叱ることはあまり良くないような風潮があったりするけど、ヨーロッパでは決してそうではないということなんだね。
[斎]叱る時は、それこそ馬が参るまでやりますよ。
[西]ひとつ質問なんだけど、ハミ受けとか、どのくらい気にする感じなの?
[斎]その部分はとてもデリケートに思っていますよ。
[西]そこはそうなんだ。悪い場合は、日本なら角馬場で調整したりするけど、ヨーロッパではどのような対応をしてました?
[斎]オックス(厩舎)では、草原を自由キャンターさせる以外に、厩舎内でブレーキングをしています。現役の競走馬に対して、ブレーキングをして厩舎のあちらこちらを歩きまわるのですよ。
[西]ロンギ場でやったりするの?
[斎]いや、ロングレーンで、厩舎の中や周りを歩きまわります。どんなに騒々しいところや、狭いところであっても、人間の指示に従わせるのです。
[西]それが基本なのですよね。あと、日本の馬とヨーロッパの馬で、何かここは違うと思ったことはあったりした?
[斎]個人的に、日本で最初に感じたことは、走るフォームが違うことですかね。上手く説明できないのですが、首の付け根から頭への角度が違うように感じました。それだけ抑え込まれて乗られているんだなぁと思ったのですよ。向こうでは、とにかく大切なのは馬とのリズムみたいなところがあるのですよ。調教でも、あがってくると、ボスに「ハッピーだったか?」と聞かれます。いかに馬との呼吸を合わせて走ることができているかということなのですよ。
[西]時計とかじゃないんだ。
[斎]そもそも時計なんか計測しないですからね。アップダウンを走っているなかで、ノメったり、バランスを崩しかけたりすることがあるわけです。そこで人間は引っ張るのではなく、譲ってあげた方が良かったりするんですよね。引っ張ることで、逆に、馬の動きを邪魔してしまうことになるケースも、けっこうあるのですよ。
[西]なるほどね。人間の動きが馬の動きの邪魔をしてしまうということはあるのでしょうね。
[斎]そういう環境だからと言えるのでしょうが、大きなフォームで走るし、馬がハッピーなポイントで乗ろうとするのでしょう。
[西]いやあ、勉強になります。でも、外国に3年間、行っていたことも凄いけど、美浦にもいないよね。斎藤隆介と言えば、「美浦にいちばんいない調教助手」です。今年(2010年)は、結局、何ヵ月いなかったの?
[斎]えぇと……、まず1月10日から栗東へ出張して、戻ってきたのが、5月の15日だったかな。
[西]えっ!? いきなり4ヵ月。というか、その前の年の暮れもいなかったよね?
[斎]クィーンスプマンテと栗東へ行っていて、そこから香港でした。
[西]ということは、戻ってきたら有馬記念だったみたいな感じですよね。
[斎]そう。年末年始の挨拶に美浦に帰った感じでしたね。
[西]そして、夏になってからは北海道でしたよね?
[斎]はい。そのままエリザベス女王杯の後まで栗東でしたので、結局、9カ月以上、美浦にはいませんでした。
[西]NHKの受信料とか払いたくないだろうし、それこそグリーンチャンネルももったいなくない?
[斎]もったいないとは思いますが、一人身なもので。
[西]そろそろ結婚したら?
[斎]相手がいればいいんですがね。
[西]でも、9カ月というのは、マグロの遠洋漁業の漁師さんより長いんじゃない?(笑)
[斎]いつマグロ漁船に乗せられるかわからないね(笑)。
[西]そういえば、以前に、新潟へ1週間の予定で行ったら、そのまま滞在になっちゃったということあったよね?
[斎]あった、あった(笑)。2年前かな。新潟に一週間滞在の予定で行ったのですよ。10日後に競馬をする馬を送り出して、その週末に大宮へ出て、そこから新幹線で新潟へ向かった。そうしたら、その週に出走した馬が良い競馬をしたので、さらに1週間滞在を延長しようということになったのですよ。そうしたら、送り出した馬も良い競馬をしてそのまま滞在を延長となって、そのままズルズルと新潟に居座ったのです(笑)。
[西]普通の会社じゃあり得ない話だろうね。出張を2週間延長とか、1ヵ月延長というのは、さすがにないでしょう。
[斎]決して多くはない話だと思います(笑)。
[西]あなたはJRAの調教助手のなかで、いちばん出張していると思いますよ。
[斎]そうかな。
[西]俺が知っている限りでは他にはいないな。凱旋門賞に行っていた二ノ宮厩舎のスタッフよりも長いんだから(笑)。
[斎]そうね(笑)。
[西]栗東に住んじゃえば?(笑)
[斎]最近、関西の人にも、「土地は見つかったか?」とか「土地、買ったか?」とか言われるんだよね(笑)。
[西]ハハハハ。まあ、でも、(馬にとって)滞在の効果は大きいと思いますからね。
[斎]もちろんコストの問題もありますが、栗東で言えば、関西圏での競馬が続くのであれば、良いとは思いますよね。馬にもよりますけど、ひとつの選択肢ではあると思います。
[西]いやぁ、今日はありがとうございました。せっかくの短い美浦滞在の時間を割いていただき、どうもすみません(笑)。
[斎]いえ、いえ、こちらこそ、ありがとうございました。もういつの間にか、美浦は冬になっちゃっていました(笑)。
[西]またぜひ、今度は小島茂之厩舎についてというテーマでもお願いします。
[斎]その時はまたぜひ呼んでください。よろしくお願いします。
いかがでしたでしょうか。今回の斎藤さんとの対談は、普段、競馬場の調教助手席や厩舎などで、こんな感じで話しているとイメージしていただければいいと思います。
斎藤さんは、3年をワンサイクルという意識の元で、目的を持って海外に行き、その後に競馬サークルで働くというアプローチが明確な、数少ない人だと思うのです。
意外とそうではない人も少なくないように思いますし、とても尊敬する部分なのです。僕自身はまったくそんなことを考えたことがありませんから。
そして何より、斎藤隆介と言えば、調教助手でありながら、旅人ですからね(笑)。これからも旅を続けることでしょうから。
実は、この対談の後、斎藤さんはケガをしてしまったんですよね。ただ、もう復帰していて、今朝も話をしたのですが、「大丈夫」ということです。9ヶ月も美浦にいない斎藤さんにとってはいい休養になったのかもしれません。
これからも旅をするはずですので、競馬場で見かけたら、また旅をしているんだと思ってください(笑)。
さて、来週は、みなさんからメールでもいただいている話題で、昨年暮れに何人かの騎手が辞めたことや、厩舎のシステムなどが変更されたことについて、話をさせていただこうと思います。
ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。