現実的には、日本競馬は保護の下でしか運営できない可能性が極めて高いと思うのです
2011.1.20
今週は対談の間ということで、何人かの方からメールをいただいた、昨年の暮れに多くの騎手の方々が引退した件について、ご説明をさせていただこうと思います。
あまり報道をされていないようですが、昨年暮れに多くの騎手の方々が引退した背景には、厩務員と我々調教助手の給与体系が変更されるということがあったのです。
我々厩舎従業員たちの給与というのは、勤続年数によって号級に分けられているのですが、今年の1月1日以降の採用者から「2割減」とされることとなったのです。
ということは、もし騎手の方が引退をして、調教助手もしくは厩務員となる場合もこれに当てはまることとなり、2割減の号級が適応されることになるのです。
最終的には、騎手からの職変希望者に限り、2割減の号級の適用は「2年間の猶予を設ける」ということになったのですが、この2割減という変更が引退者が一気に増やすことに拍車をかけたわけです。
いまは地方所属騎手ばかりでなく、外国人騎手たちが増え、騎手の方々はより厳しい環境に置かれている現状があります。おそらく、いや確実に、このままなら、ステッキを置く騎手の方々は増えていくはずです。
ただ、その一方では、「調教助手になりたい」、「厩務員になりたい」と言っても、厩舎に空きがないことには、職変することはできないという現実もあります。
実は、2割減以外にも、厩舎を取り巻くシステムが来年度より大きく変更になっていきます。
そのなかでも注目が集まっているのが、すでにモデル厩舎では実施されている「持ち乗り調教助手制度」の導入と、「13人体制」について、正規従業員12人に加えて非正規従業員、いわゆるピンク帽と言われる競馬学校卒業生たちを1人加えることが認められることについてです。
毎日行われている攻め馬、さらには追い切りでは、集団調教をやりたいケースもよくあるわけで、その際は、騎手たちの存在は技術的な側面ばかりでなく、人員という側面でも必要不可欠というのが現実です。
ハッキリ言えば、集団で一斉に調教したいわけですよ。その時に、3人の調教助手と4人の持ち乗りだけではなく、そこでジョッキーに手伝ってもらっている厩舎がとても多い。もっと言えば、騎手にまったく手伝ってもらわないで、調教を行っている厩舎というのは少ないのですよ。
つまり、何が言いたいかと言えば、まず騎手たちについては、いなくなってしまうことで、調教にも影響が出てくるということなのです。
一方、厩舎のシステムということでは、確かに騎乗と世話が認められる「持ち乗り助手」が認められることで、よりスムーズな厩舎運営ができるようになるのは良いことでしょう。ただ、13人体制は維持されるのですから、人件費ということではそれほど大きな節減につながるとは思えません。
「副馬手当」と言って、原則とされる2頭以外の馬の世話をした場合に出る手当についても協議されているということなのですが、資本主義において、売上が下がれば給与を含めて手当などが減額されるのは、ある意味、自然な流れでしょう。
とは言っても、手当が下がるということは、その産業の地盤沈下にもつながっていくという現実もあると思っています。
現実の問題として、思い描く給与がもらえない、しかも競馬学校を卒業しても正規採用されるかどうかが不透明という実情を考えれば、競馬という産業を目指す若者が増えると思いますか。
ブッチャけさせていただきますが、制度について、保護されていないと、日本の競馬がいまのままの形では存続していくことができないと思うんです。
時代錯誤、あるいは甘いと言われてしまうかもしれませんが、そういう現実を考えた時、日本競馬は保護なしでは運営できないでしょう。
外国人騎手についても、読者の方々から「大相撲になってしまうのではないか」というメールをいただきましたが、一応、いまのところは人数などで制限があります。
一部ではそれを開放へという声もあるようですが、そもそも日本競馬というのは保護の元に発展してきたという歴史の上に存在していて、それが現実であると思います。
騎手ばかりではありません。我々厩舎従業員、調教師、そして馬主さんたちでさえ、保護を受けているのです。
ハッキリ言えば、それぞれ手当が出ているわけです。騎乗手当こそ世界の多くの国々で支給されていますが、出走手当は日本だけと言われています。それらの手当こそ、保護の一部であり現実です。
もし、外国人騎手だらけの中で、外国人調教師が連れてきた外国馬たちばかりのレースとなったら、ファンのみなさんも馬券を購入したいと思いますか? 調教タイムや関係者のコメントなど、情報さえ少なくなるわけですよ。
保護が悪のように言われますが、現実としてそうされない限り、運営されることができない側面があることも忘れないでいただきたいと思います。
極端な言い方をすれば、馬主さんたちに馬を買っていただいて、その馬をお預かりして、競馬を走らせて、お金を得ているのですが、そのほとんどが損をするわけです。世間的には、だから競馬は甘いとか、ダメなんだと言われるかもしれませんが、損をすると分かっているものに対してお金を出してもらうということも、世間ではありませんよね。
馬主さんに同じ1000万円を使ってもらうのに、他のことよりも、競馬に面白味を感じてもらえなければならないと、僕自身は思っています。
そもそも馬主たちがお金を出して、自分の馬たちを競走させることに始まったヨーロッパの競馬と、ファンの方々の馬券の売り上げが賞金となっている日本の競馬との間では、大きな違いがあるわけです。
現実的には、いまの段階では日本競馬は保護の下でしか運営できない可能性が極めて高いということなのです。
話がまとまらずにすみません。話を整理しますと、競馬を取り巻く環境に変化が伴い、厩舎制度にも大きな変化が求められ、大きくシフトチェンジし始めているということです。
その中で、競馬そのものがどこを目指すのかを決めなければならないところに来ていると思うのです。
久しぶりに長くなってしまいまして、どうもすみませんでした。
今回の件について、みなさんのご意見をぜひ聞きたいので、メールをお待ちしております。
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