バシケーンの主戦・蓑島靖典騎手を招いて、『おめでとう企画』第二弾です!
2011.2.10
現在進行中の対談の主役であるバシケーンが、先週、中山大障害以来となるレースに登場しまして、高橋義博先生が話をされていたように63kgという斤量を背負いながら3着と、力があるところを見せてくれました。
レース後、角馬場で蓑島(騎手)と一緒になったのですが、「まったく悲観する内容じゃないし、むしろよく頑張っている」と言っていました。
よく1kg=1馬身などと言われますが、他の馬との差もありますし、60kgを超える斤量そのものもやはり過酷と言えるでしょう。
他馬と同じ斤量で、得意の中山ということになれば、バシケーンはなお力を発揮できると思うのですが、何よりも今回で「メドが立った」と蓑島自身が手応えを感じることができたようです。次にどんなレースを見せてくれるか、楽しみです。
さて、今週からは、そのバシケーンの主戦である蓑島靖典騎手との対談をお送りさせていただきます。
バシケーンとの出会いから、二人しか知らない秘密な関係まで、赤裸々にお伝えできると思っています。それでは、さっそくどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)高橋義博先生に続き、今回は、バシケーンで中山大障害を制した蓑島靖典騎手に登場していただきました。よろしくお願いいたします。
蓑島靖典騎手(以下、蓑)こちらこそ、よろしくお願いいたします。というか、これは何に掲載されるのですか?
[西]あれ!? 知らないの?
[蓑]はい。
[西]『サラブレモバイル』という携帯サイトがありまして、そこで対談を掲載させていただいているんですよ。今回は、『バシケーン、中山大障害優勝記念おめでとう企画』で、ただ飲みに来たわけじゃないですからね。
[蓑]なんだぁ、お祝いの会的なノリなのかと思っていました。まあ、よくわからないので、行ってみて聞こうと思っていたのです。
[西]まあ、普段飲んでいる感じを出すのがこのコーナーの売りなので、気楽にお願いしますよ。では、さっそくですが、バシケーンでの優勝、おめでとうございます。
[蓑]ありがとうございます。
[西]あのガッツポーズは勝利を確信していたわけですよね?
[蓑]だって勝っていましたから。
[西]絶対勝っていると思った?
[蓑]はい。ゴールした瞬間に手を挙げるという感じではありませんでしたけど、勝ったと思いました。
[西](レース前に)装鞍所まで一緒だったのは覚えてますか?
[蓑]覚えてますよ。『頑張れよ』と言われましたから。
[西]そうしたら高橋先生がね。
[蓑]ギリギリの時間になってしまってたんですよね。
[西]そのことは、高橋先生が話しているから(笑)。あれは分かっていなかったの?
[蓑]浜野谷さんと一緒にいて、五十(五十嵐騎手)もゆっくりとした感じで、控室で座っていたんですよ。まだ大丈夫なのだろうと思っていたら、五十はすでに厩舎装鞍で終わっていたのです。
[西]あははは(笑)。なるほどね。
[蓑]あと、(障害競走は)いつもは早い時間のレースが多いじゃないですか。
[西]そうだね。
[蓑]ふたつ前のレースが終わっていく感じですよね。
[西]3レースだったら、1レースが終わってから行く感じだよね。
[蓑](中山大障害は)10レースだから、8レースが終わったらと思っていたので、「あれ?」という感じでした。
[西]あの時、一緒だったけど、まったく焦っていませんでしたよね?
[蓑]先生の慌てた姿を見て、初めて気が付きました。
[西]今回は、自分で鞍を乗せたそうですね?
[蓑]はい。
[西]先生が言ってましたよ。
[蓑]グランドジャンプの時には、重いので上がらないと思って、乗せてもらったのです。でも、重すぎて、先生も落としそうになって、それなら僕がやろうと思ったんですよ(笑)。
[西]あははは(笑)。
[蓑]バシケーンは小さいですからね。
[西]自身の身長はいくつ?
[蓑]155cmです。
[西]体重は?
[蓑]普段は51kgで、競馬に乗る時は50kgぐらいですかね。でも、大障害の時には増やした方がいいだろうと、なるべく動かないようにと思っていたんですよ。でも、お風呂で漫画を読んでゆっくりとしていたら、体重が落ちてしまったのですよ(笑)。
[西]そうだったんだ(笑)。結局、何kgで乗ったの。
[蓑]51半くらいだったと思います。52kgくらいまで増やしたのですが、漫画を読んでいたら51kgを切ってしまって、500mlのペットボトルの水を1本飲んで、レースに向かいました。
[西]そうすると、鞍は何kgの重さになるの?
[蓑]11kgくらいですね。
[西]それは重い。
[蓑]それを背負ってパドックを周回するのはかわいそうですからね。僕自身が重くなれば少しは楽ですので、増やそうと思ったのですよ。
[西]正直、勝てると思っていたの?
[蓑]今回の一戦では、とにかくこの馬のリズムを崩さないように、そして、上手に観えるような競馬をしたいとテーマがあったのです。春のグランドジャンプでは、1周ずっと引っ掛かり通しで、ひどい競馬になってしまいましたから、勝ち負けよりもまずはその意識でした。
[西]あの時(10年中山グランドジャンプ)は馬場も悪くなってしまっていたよね。
[蓑]馬場も悪かったのですが、初めて63.5kgという斤量を背負っていたこともあって、飛べなかったのですよ。飛びすぎて下手というのはありますが、飛べないで下手というのは、あまりないのですよ。
[西]なるほどね。しかも、それで引っ掛かったわけだ。
[蓑]そうなんですよ。でも、あれだけ下手に飛んで、しかも1周引っ掛かり通しだったのに、差のない9着でしたから、『凄げぇ、走る』と思いました。
[西]でも、それから半年経って、勝てるとまでは思わなかった?
[蓑]頑張って掲示板に、というイメージはありましたけど、まさか勝てるとは思いませんでした。
[西]状態そのものは良さそうに見えたよ。
[蓑]状態は良かったですよ。今回は膨れていて、張りがありましたし、乗っていても良さが伝わってきました。
[西]レースはいちばん後ろから進めたよね?
[蓑]とにかくリズムを崩したくなかったのです。1周引っ掛かって9着なわけですから、引っ掛からなければ、最後までスタミナが残るはずですからね。それと(バシケーンは)闘争心が半端じゃないんですよ。基本的に前向きで、いつでも発射態勢にあるようなところがあるので、周囲に左右されずにレースをするためには、ある程度馬に任せて、ゆっくりと行きたかったのです。
[西]あえて下げてまでも、馬のリズムを大切に競馬をしたわけだ。
[蓑]大障害というのは、大竹柵と大いけ垣の襷のところで遅くなるんですよ。それに対して、バシケーンというのはバンケットが上手なのです。逆に勢いが付き過ぎて、引っ掛かってしまう可能性があるくらいなので、遅くなって引っ掛からないように馬任せで行って、もし多少離されてもバンケットで追い付くはずですし、障害そのものが大きいので、みんな構えて飛ぶようなところがあって、その部分で追い付けるという思いはありました。
[西]プロっぽいことを言うねぇ(笑)。
[蓑]いや、本当に今回はビデオを何度も繰り返し見て、考えました。春がひどくて、自分で観ていても下手すぎて具合悪くなっちゃうくらい下手に乗っていましたから。まあ、元々、下手なんですけどね。
[西]障害で差が詰められると思っていたんですね。
[蓑]今回はペースがすごく遅くなったのです。もし速いペースで流れたら、あの位置では逆に厳しかったかもしれません。そこはハマったというか、向いてくれた部分でしょうね。
[西]もっと速くなる年もあるの?
[蓑]逃げ馬がいればもっと縦長になりますけど、だいたいは行きたくないという感覚の方が強いかなぁ。あとは、今年は、関西馬でオバケ的な存在がいなかったこともあります。そういう馬だと、他の馬に関係なく、ぶっちぎって行ってしまいますからね。
[西]オバケね。確かにそういう馬はいるね。レースでは、どこで勝つと思ったの?
[蓑]勝つと思ったのは、最後の障害を飛び終えて、ダートから芝に入った時の感じですかね。『あっ、これなら、いける』と思いましたから。
[西]3コーナーで動いて行った時、ずいぶん勢いが良かったよね。
[蓑]そうですね。でも、良いと思ったのは大土塁が終わって、襷で順回りになった時かなぁ。1周引っ掛からないというひとつの目標をクリアできて、しかも前との距離がそこまで開いていませんでしたから。スタミナをロスしていないので、着はあるという思いはありました。
[西]それにしても、手応えが良さそうだったよ。
[蓑]向正面あたりは、みんな手応えが怪しくなりかけていましたので、ある程度は交わせると思っていました。
[西]上がっていく時に「交わせるんじゃないか」という思いは浮かんだでしょう?
[蓑]『こいつ凄げぇ』と思いましたもん。
[西]でも、内で林さん(林騎手)の馬(タマモグレアー)が粘っていたよね。
[蓑]あそこまで粘られるとは思いませんでした。並ぶまでは速かったですし、勢いとしては突き離せるくらいだったのに、『えっ!? 何? 何?』という感じでした。ここまできて負けるなんてないから、やめてくれ、と思いましたよ(笑)。
[西]でも、引き上げてきたら、高橋先生に『写真だぞ』って言われたんでしょう?
[蓑]勝ってると思っていたので喜んでいたら、先生は『大丈夫か』って言うので、そうなると、『えっ!?』という感じになってしまいますよね。
[西]見ていて、写真は写真だろうなと思ってはいたよ。先生は勝ったとはなかなか思えなかったみたいですよ。
[蓑]そうですよ。先生にそう言われて、『えっ、本当かな』と心配になってしまいました。バシケーンは小さいので、僕の体が出ていても、実は首が短くて負けているとか、考えてしまって、ドキドキし始めてしまったのですよ(笑)。
[西]そういう可能性はゼロとは言えないからね。
[蓑]もうガッツポーズはしているし、叫んでもいましたからね。
[西]ゴール直後にすでにガッツポーズをしていて、それでなかったら、それはそれで面白かったかもしれないね。うははは(笑)。
[蓑]いや、笑えないから(笑)。
[西]泣かなかったのですか?
[蓑]笑ってばかりでした。
[西]あははは(笑)。勝った瞬間の感想は? 他のレースとかとは、やはり違うものだった?
[蓑]いや、そんなことはありませんよ。ただ、感情が爆発するというか、抑えきれないような感覚はありました。『勝っちゃったぁ。えっ、マジで!?』という感じですかね。
[西]そりゃ、G1だからな(笑)。
[蓑]いつもはゴールすると、それほどかからずに止まるのに、あの時は止まらなかったのです。前に誰もいない状況になって、とにかく叫んでいました。
[西]写真を見ると分かるけど、ゴールした瞬間、何かを叫んでいるんだよ。あれはなんて言っているの?
[蓑]いや、何かを叫んでいたわけではなく、『ウォー』とか『ヤァー』というような雄叫びをあげていたのです。初めて新潟で重賞を勝った時(08年新潟ジャンプS)もそうでした。
[西]実感が沸いたのは、レースからずいぶん時間が経ってから?
[蓑]勝った直後は実感がなかったですからね。でも、今回は驚きの方が大きかったかもしれませんね。新潟の時も今回も、勝つ時は無欲というか、『勝ち負け、勝ち負け』という気持ちになっていない時なのですよ。本当に、あくまでリズムを崩さずに競馬をすることを大前提に考えていましたので、あそこまで頑張ったバシケーンが偉いのです。
[西](バシケーンと)出会った運もあるね。
[蓑]いや、本当に勉強させてもらっています。僕もいろいろ教えてきましたが、逆にいろいろと教えてもらっているのですよ。
[西]そうなんだろうね。
[蓑]こんなにコンビを組ませてもらう馬というのは本当にないですからね。障害馬は(競走馬)寿命が短くもありますので、ここまでコンスタントに出走できる馬自体が少ないのです。
[西]どうしても脚元へきますからね。未勝利を勝っても、その後、数戦で故障というケースも珍しくないし。
[蓑]そうなんですよ。ただでさえコンスタントに走り続けることが難しいにも関わらず、さらに入着を果たしてきています。僕自身は、こういう馬に乗ったことがないわけですよ。
[西]そうか。
[蓑]僕自身の中では、オープンでも勝てると思っていましたし、春はもうひとつ勝たさなければいけないという使命感がありました。そうして、結果的には大障害を勝てたのですが、僕が想像していたよりも、大障害を勝つというのが凄いことだと、いま実感しています。
[西]レース後、林さんが『俺にはまだ早いのか』というようなことを言っていたらしいね。
[蓑]言ってました。僕自身も(あそこまで来て負けるなんて)あり得ないと思っていましたが、林さん自身も勝ちパターンでしたから、あり得ないと思ったと思いますよ。しかも、それが僕だったので、『なんで、お前なんだ』という気持ちはあったでしょうね。
[西]いやぁ、勝っちゃったんだねぇ。そういえば、バシケーンは最優秀障害馬にも選ばれて。
[蓑]そうですね。それで、JRA賞に出席できたのですが、『ここにいていいのかなぁ』と思いました。
[西]うははは(笑)。場違いだと感じたんだ?
[蓑]『ここにいてはいけないんじゃないか』と思いましたし、緊張しました。
[西]オーナー(石橋英郎氏)は口取り写真を撮ったのが、今回が初めてだったらしいよね。
[蓑]バシケーンで御一緒させていただいたのが今回が初めてでしたし、(口取り写真も)初めてだとお聞きしました。そういう意味では、僕も先生も、G1、そしてJRA賞と、初めて尽くしだったのですよ。いやぁ、緊張しました(笑)。
今週はここまでとさせていただきます。
先週までお送りさせていただいた高橋義博先生との対談について、多くのみなさまから好評とのメールをいただきました。
ブッチャけさせていただきますと、対談史上もっとも短い収録時間で、ライトな感じだったのですが、みなさんのハートをつかむことができたのは高橋先生の人柄のお陰でしょう。
どうしても、こういう公といいますかメディアになると、かしこまってしまうようなところがあるのです。知り合いが出ている時を見ても、『硬くなり過ぎ』と思うことがありますからね。
でも、高橋先生は本当に素なのですよね。実際、普段もあのままでいらっしゃいますので、それがお伝えできて良かったと個人的に思っています。
今後も頑張ってまいりますので、どうぞ応援をよろしくお願いいたします。
ということで、最後はいつもの通り『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。