小林久晃さんに元騎手ならではの視点の話をしてもらいました
2011.3.31
ご存じの通り、現在は阪神と小倉の2場開催になっています。今週の競馬に向けて話をしていた時、ふっと頭を浮かんだのは、10年後にひょっとすると3場開催ができず、いまと同じような2場開催となっている姿でした。
現場では、出走できないために、抹消されてしまうという状況が生まれています。未勝利や500万円下においては、いつ出走できるかまったくメドが立たないという状況で、このまま2場開催が続けば、倒産する厩舎も増えてしまうのではないかと危惧しているほどです。
とにかく、現場にいる我々としては目前の仕事に全力であたり、頑張っていくしかないのですが、未来予想図に対して怖さも感じてしまいました…。
さて今週は、小林久晃さんとの対談の3回目をお送りします。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)久晃さんは、黛騎手の一件については、どう思われますか?
小林久晃調教助手(以下、小)パトロールを見ていなくて、ゴール前の写真を見ただけだから、そのつもりで聞いてほしいんだけど、あの姿は、内にモタれてしまったのを修正しようとしたんじゃないかと見える。ただ、手綱が長かったから、あんなモーションになったんじゃないか。もし手綱が短ければ、腕だけで対応できるんだけど、長いと重心を少し後ろに持っていくしかなくなるんだ。
[西]そういうイメージができるんですね。
[小]俺が見た写真だけからは、そういうイメージが浮かぶ。ただ、ひとつ言いたいのは、あの時、黛の内側に馬はいなかったよね?
[西]いませんでした。
[小]俺の感覚だけど、それなら、モタれていても直す必要はないんだ。ヨレたまま走らせれば良かったんだって。
[西]あっ、そうか。
[小]しかも、ヨレた時が、馬はいちばん速いからね。
[西]エリザベス女王杯の時のスノーフェアリーがそうですよね。
[小]そうだよ。鬼脚とか言われていたけど、あれはヨレているんだよ。馬はいないし、直す必要がないから、あのままラチまで行っただけ。馬というのは、ヨレる時がいちばん速い脚を使うんだ。斜めに走るのがいちばん速く走れる。
[西]言われてみればそうですよね。
[小]馬に乗ったことがある奴なら分かるはず。黛はあそこで直すことはなくて、あのまま追ってしまっていれば良かったんだって。
[西]久晃さんは競馬でそういう経験がありますか?
[小]府中とかで外から差していく時、馬が左にヨレていくのが分かっていても、内に馬がいなかったら直さなかった。当然、進路妨害にならないという状況の時だよ。その方が速く走れるんだから。
[西]そうですよね。
[小]周りに馬がいない時は、斜めに走らせていた。あとは……まあ、あまり細かいところは分かりづらいから、話さなくてもいいか。
[西]いえ、お願いしますよ。読者の方々はそういう話も聞きたいはずですから。
[小]4コーナーで大外を回って、直線半ばあたりでは真ん中にいたとしても、馬はどうしても内に寄っていってしまうんだよね。ディープインパクトなんかでも、そういうレースをしていたことがある。
[西]基本的に直線は順手前で入っていくから、仕方がない、ということですよね?
[小]そう。手前ということで言えば、順手前で走り切ってしまう馬もいるんだよ。そこで敢えて替えさせるのも、個人的にはどうかと思う。
[西]馬の動きを邪魔する可能性がある、ということですよね?
[小]一瞬だけど、リズムを崩すんだよ。ジョッキーの動きを見てもらえば分かるけど、手前を替えさせている時に、ひと呼吸遅れているんだよ。そのひと呼吸が、結果として、ハナ差負けにつながってしまうかもしれないわけだからね。
[西]なるほど。そうですね。
[小]もちろん、手前を替えさせたら、もっと伸びるかもしれない、という意識があって替えさせるんだけど、必要以上に替えさせようとしてひと呼吸遅れるなら、敢えてそのままでいくのもありかと思うし、そのまま走らせてみたりもしたよ。
[西]そのような話を聞くと、外から見ているだけでは分からない部分があるのだと、改めて思わせられます。
[小]外から見てるだけだと分からないというのは、他にもいろいろあるよ。
[西]というと?
[小]腕の良さがポイントだったりもするんだけど、昔は被害を受けても大きく見せないように乗っていたり、逆にルールでは問題ないけど、スレスレというような騎乗もできてしまう。接触せずに寄せていくのも、テクニックと言えばテクニックだから。
[西]外国人騎手にはそういうタイプが少なくないように思いますが、どうですか?
[小]そうだね。ただ、それ以前のこととして、外国人については、ヘグッてる騎乗が多いことも伝えておきたいな。日本人が言われるのと同じくらい批判されるのなら、外国人も比べものにならないくらい言われないと足りないと思ってるよ。
[西]そうですか。
[小]そうだよ。でも、日本人騎手は、綺麗なレース、綺麗な騎乗という教育をされてきていて、そうしないとペナルティを受けるように教えられてきているからね。
[西]そういう違いがあるんですね。
[小]でも、みんな勝ちたいんだよ。俺も現役時代、ズルいというかスレスレのことをやったことは認めるよ。そうしてでも勝ちたいし、勝負の世界なら、そうあっていいと個人的には思っている。もっと言えば、技術がなければ、そういうことはできないわけだから。
[西]なるほど。騎乗のテクニック以外の部分で、上手さみたいなものは他にもあるのですか?
[小]『口撃』だよ。自分では行きたくないから、「アンチャン、ペースが遅いぞ。行け、行け」とかいう人がいたんだよ。最初は分からないから、「はい」とか言って、行っちゃうんだよ。その言葉に、チャンスだと思ってしまうんだ。
[西]うわぁぁぁ。
[小]それだけじゃなくて、直線では「アンチャン、内行くぞ、内」と声が掛かるわけですよ。
[西]そうですかぁ。
[小]さすがに、数回やられれば、知らん顔をするようになるけどね。みんな『口撃』の洗礼は受けているでしょ。
今週はここまでとさせていただきます。
我らが『ノビーズ』のボーカルである南ちゃんこと南田雅昭騎手が現役を引退することになりました。
いやぁ、寂しいですよ。ひとりの友人でありますし、競馬に乗っていれば、掛け値なしに純粋に応援できる存在でしたから。
悩んでいたのは聞いて知っていたのですが、まさかこんなに早く決めるとは思いませんでした。
調教助手になるということですので、これまで通りのバンド活動はできなくなるかもしれません。引退レースに乗ることもなく、ステッキを置くこととなりますが、どうかみなさん、彼の存在を忘れないでください。
あっ、あと、今週は、馬と一緒に小倉に向かうことになるかもしれないのですが、前走で4着だったデルマアプサラスという馬に、今週から復帰する黛騎手が騎乗します。
オーナー(浅沼廣幸氏)とウチの先生(尾関調教師)の行動に敬意を払うとともに、何とか良い形で再スタートを切ってもらえればと願うばかりです。
ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。