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ツインターボはなぜツインターボになり得たのか。笹倉先生にお聞きしました
2011.5.12

先週、我が尾関厩舎は3頭が人気を集めていたのですが、レッドシュナイト1頭しか勝つことはできませんでした。

それぞれに手応えを感じてはいたのですが、いやぁ勝つというのは本当に難しい。なかなか思うようにはいきません。

でも、全部勝てるように頑張らなければなりませんし、そういう思いで臨むことが大切なのですよね。

僕自身はというと、日帰りで京都にファストロックの臨場に行ってきました。帰りの新幹線で「今日、俺は本当に京都に行ったのか」と思ってしまいました。

なぜならば、朝3時から攻め馬をして、京都行って帰ってきて最寄りの駅から8時間。滞在時間3時間程度でしたので、感覚がおかしくなるのですよ。いやぁ、久しぶりに帰りの新幹線で疲労を感じました。

さて、今週は笹倉先生との対談が最終回を迎えます。それではどうぞ。

西塚信人調教助手(以下、西)グランリーオとツインターボについても話を伺いたいんですが、笹倉先生はこの2頭は走ると思われていたんですか?

笹倉武久元調教師(以下、笹)グランリーオもツインターボも、最初のうちはそこまで走るとは思っていなかった。

[西]そうなんだぁ。ツインターボはどんな馬だったんですか?

[笹]見に行ったら、1頭だけ放牧されていたんだ。家族経営の小さい牧場だったから、大きい牧場に移させてもらったんだけど、他の馬たちの輪に入れなかった。やがて厩舎に入ってきたんだけど、気が小さいんだよ。そのくせ、頑固だった。

[西]聞いた話だと、相当に引っ掛かったらしいですよね。

[笹]だから自分で乗っていたんだよ。ジョッキーに乗せたら、持っていかれてしまってダメ。でも、俺が乗っても、上がってきてたばこを吸おうと思ったら、手が震えていたよ。そのくらい引っ掛かったんだよ。


[西]かなりだったんですね。

[笹]それで気に入らないと今度は止まってしまうんだ。だから、追い切りでも5ハロンから行ってくれない。乗っていて、行きたいと思ったところから行くような感じでしか追い切りができなかったよね。新聞社には、そこから時計を取ってくれ、という感じだった(笑)。

[西]馬が動いたところからが時計なんですね(笑)。

[笹]そう。それと、ゲートは4ヵ月かかったな。

[西]マジですか!? 入らなかったんですか?

[笹]入るのは入るんだ。でも、扉が開いても出ていかなくて、そのまま立っているだけで、まったく反応しなかった。仕方がないから、出るまで待ったよ。気が向くとスパーンと出るんだよ。

[西]いやぁ、難しそうですね。最初から逃げ馬だったんですか?

[笹]いや、そうしたんだよ。ゲートを出ていかないのだから、出遅れる確率が高い。しかも410kg前後の小さい馬だったんだけれど、あえて1800メートルに出走させたんだ。「ゲートを出たらとにかく行ってくれ」と乗り役さんには言った。正直、期待もしていなかったからね。そうしたら逃げ切ったんだ。

[西]そうだったんですね。なんで中舘(英二)さんになったんですか?


[笹]最初に重賞(ラジオたんぱ賞)を勝った時は大崎(昭一元騎手)だった。逃げてくれって言って、その通りに乗って重賞を勝って、その後は、行くということで英二に頼んだんだよ。「結果については、俺が責任を取るから、とにかく行ってくれ」と言っていたんだ。逃げることで、あの馬の良さが出たよね。いまだから言えるけど、もし他の馬が競り掛けてきたら、まったくダメだったよ。

[西]そうだったんですね。

[笹]1週間前から戦いが始まるわけですよ。登録が出た時点で、『絶対に行く』というコメントを連発するんだ。『もし他の馬が来たら、競り潰す。責任は俺が取る』と言っておく。そして、仕上げは、パドックの騎手控室で、また『何が何でも行け。全責任は俺が取る』と、わざと大声でやるんだ(笑)。

[西]うははは(笑)。パドックでそれをやったら、もう決まりですよね。他の逃げ馬に乗っている騎手たちはイヤでしょう。競り掛けられてつぶれたくないですよ。

[笹]でも、あの馬の弱点を補うにはそれしかなかったんだよ。あとは、他の騎手たちの意識の中に『いつかは止まる』ということもあったはず。それを利用しただけなんだ。あれだけ逃げて勝っているからなのかよく言われるのだが、面白いものでレコード勝ちはないんだよ。

[西]いまだに逃げ馬と言えば、ツインターボの名前が挙がりますよね。でも、4ヵ月もゲートに費やされたとはとても思えませんでした。

[笹]結果論だけど、あそこで4ヵ月かかったことがこの馬の成長を助けたということはあったよ。あそこで無理をしていたら、あのようにはならなかっただろうね。

[西]グランリーオはどうだったんですか。

[笹]未勝利戦で英二を乗せて、最後の上がり1ハロン15.1秒で勝ったんだよ。クラスが上がったら、ハナを切ることができなくなってしまって、逆にいちばん後ろから行かせた。そこから徐々に前で競馬ができるようにしていった。

[西]後ろから行くようになって、そこから重賞を勝ったわけですよね。

[笹]函館で田面木を乗せて後ろから行かせたら、良い脚を使って、その時に面白いかもしれないと思ったけど、それまでは正直、そんなになるとは思っていなかった。ノドがなければね。

[西]あの馬、ノドが鳴ったんですか?

[笹]手術を2回しているんだ。それでも重賞を勝ってくれたからね。

[西]こういう言い方をしたら失礼ですが、良血じゃない馬を走らせるというのは調教師業の醍醐味のひとつですよね。

[笹]醍醐味だよ。でも、そうではなくて、走る確率の高い、主流の血統の馬たちを集められなければダメなんだ。それが現実だよ。営業をかけて、ヘソの下まで頭を下げてでも、馬を、走る確率の高い、主流の血統の馬たちを集めてこなければダメなんだ。それを否定しては、いまの時代は負け犬の遠吠えと言われてしまう。『あれだけの馬を預かれば、俺だって』とかよく耳にするけど、そういう馬たちを集められなければ能力がないということになってしまう。それこそ、頭を地面に擦りつけてでも、良い馬を集められるかどうかなんだよ。俺はそれをできなかった。だから、勇退の第一号となったんだ。馬房を減らしてまでやりたくないという思いもあった。

[西]本当に重い言葉です。先生は最後に『努力が足らなかったから』というコメントを残されていましたよね。

[笹]営業努力が足らなかったということですよ。ある馬主にも言われたし、分かっていたつもりだった。でも、これ以上は無理だと思った瞬間があったんですよ。

[西]そうですか。先生はイヤと言われるかもしれませんが、今日はウチの親父と飲んでいる気分になりました。

[笹]そうか(笑)。

[西]今日は本当にありがとうございました。

[笹]こちらこそ、ありがとう。

[西]また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

[笹]また、一緒に飲みましょう。


笹倉先生との対談はいかがでしたでしょうか。

ぶっちゃけ、最初は、正直大丈夫かと思っていました。でも、僕じゃなければやれないという思いもあって対談させてもらったのですが、昔の様子が分かって面白かったというメールなどもいただき、やって良かったなぁと思いました。

遠慮なく言わせてもらうならば、ふた昔前の人だと思うのです。古き良き時代ということは言いたくはありません。笹倉先生自身もそうおっしゃっていました。ただ、古い時代に良い部分があったのは間違いないはずなのです。

例えば、馬を見るというか、あくまで馬に合わせていたのですが、いまはそうじゃないケースがとても多い。

ぶっちゃけて言えば、馬の都合ではなく、人間の都合が優先されるケースが増えているのは間違いないです。

実際、我々も、馬だけとはいかない現実があり、様々な事情を優先的に考えなければならないことがあるのです。

でも、それがすべて悪いわけではないのですし、笹倉先生も言われていたように、それが現実なのですよ。ただ、そういう雰囲気は、お客さんであるみなさんにも伝わるものだと思っています。

もしツインターボが、ライラリッジ産駒ではなく、笹倉厩舎でもなく、すべてがトップだった時とでは違ったはずではないかと思うんですよね。

どちらが良いとかではなく、それも競馬ですし、ツインターボが持つ魅力であり、競馬の魅力のひとつでもあったはずです。

そういう部分も含めて、これからも5年後、10年後の競馬を考えるということを前提に、今後も対談をしていければという思いを強くしました。

ということで、最後はいつもの通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうか、よろしくお願いいたします』。