今月のサラブレ本誌の巻頭インタビューには感慨深いものがありました
2011.8.18
先週から今週にかけて、世間ではお盆を迎えました。ただ、親もそうでしたので僕自身も同じなのですが、お盆という感覚がありません。お盆だから帰省するということもありませんし、いつからいつまでなのか、いまひとつ曖昧だったりもします。
日曜日に家族で出かけて、渋滞のなかで並ぶ車を眺めていて、お盆なんだと思ったのですよね。
僕の場合はどちらの実家も近いので、半休となる日曜日にお坊さんを迎えてお経をあげてもらうことも済ませることができましたが、テレビの映像などを見ていると、遠方へ帰省される方々は本当に大変なんだと感じます。読者の皆さんも、それぞれいろいろな形のお盆を過ごされたのでしょうね。
さて、今週は武士沢騎手との対談の3回目をお送りします。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)武士沢さんは前回の対談以後、重賞をさらに勝っていますよね。アルコセニョーラ(08年新潟記念)もそうでしたよね?
武士沢友治騎手(以下、武)そうですね。巡り合わせだなと思うのですが、あの時はダイワマックワンが函館スプリントSに出走を予定していたのです。除外にならなければ行くと言われていたのですが、補欠の1番か2番でギリギリだったのですよ。どうしようかと思っていたのですが、アルコセニョーラ陣営がギリギリまで待ってくれたので、新潟記念で乗ることができたのです。もし函館の方が出走できていたら、新潟では乗っていませんでした。
[西]それは、かなりの乗るか反るかですね。
[武]あのレースはすべてが思い通りというか、イメージしていた通りの競馬になりました。あの頃は行きたがるようなところがあったのですが、折り合いさえ付けばチャンスはあると思っていました。長く良い脚を使うというタイプではなく、一瞬のキレが身上ですから、内で折り合いをつけられて、直線で400メートル、いや300メートルあたりでその脚が使うことができれば、突き抜けられるんじゃないかと思っていたら、その通りになったのです。
[西]確かに、切れましたよね。
[武]後の天皇賞馬・マイネルキッツに勝っているんですから。
[西]そうですよね。アルコセニョーラはあの後も、重賞でも2着などに入って活躍しましたよね。
[武]そうです。でも、本当に難しい馬でしたよ。具合が良くて、今回はと思うと走らないんです。それで、今回は具合があまり良くないからと思うと、頑張ったりして、分かんなかったなぁというのがいちばんの思い出ですね。
[西]あまりそういうイメージはないかもしれません。アルコセニョーラは、小回りが合ったのですか?
[武]小回りで、展開がハマッたという時かな。ある程度前が流れて、折り合いが付いて、ゴチャつかない所にいられるかどうか、ということもありましたよね。
[西]モマれ弱かったのですか?
[武]モマれ弱いというよりは、接触したりすると、引っ掛かってしまうことがあったのですよね。それさえも克服してしまう馬もいますが、(アルコセニョーラは)そういうところが敏感な面がありました。
[西]ちょっと話は逸れますけれど、例えばそういう馬の場合、接触しても問題ないように調教で克服することができるのかという疑問を持つんですが、それについてはどう思われますか?
[武]例えば、調教で、敢えて馬と馬とを接触させたとします。でも、それで気持ちが萎えてしまって走らなくなってしまう馬もいますからね。もちろんそうすることで克服してしまう馬もいますが、そうじゃない時にはなるべく競馬のなかで、接触する確率が高い状況にならないようにします。それでも、なってしまったら、人間が冷静さを失わずに対処できる方法で対処するしかないかもしれませんね。
[西]精神的な面というのは本当に難しいですよね。最近は特にそう感じさせられます。
[武]エフテーストライクもそういうところがありましたよ。あの馬は中山1200メートルが抜群の成績でしたが、実は外を回わすと伸びたんですよ。
[西]あっ、それは田辺にも言われたことがありますよ。内を突くと伸びないから、絶対に外を回すべきだ、と言われたんです。普通に考えれば、内を通った方が良いに決まっていると思うわけですよ。
[武]あの馬に関しては、性格的な面よりも脚質面でそう思います。俗に小脚と言われるような、素速い加速ができる馬なら内で我慢させるのも良いですが、あの馬のように大きいフットワークで加速するタイプの馬は、外を回ってきても良いと思いますよ。内を通って、スペースを探しながら伸びてくることが逆に加速を妨げることになるわけです。
[西]なるほど。飛びのきれいな馬は芝の方が良いように思うんですが、そのことについてはどう思われますか?
[武]それは一理ありますよね。ただ、芝向きであっても、荒れた馬場だと極端に嫌う馬がいるんですよ。この前の中山のインコースのように、荒れて、下の土が見えてしまったような状態だとまったくダメという馬は、意外と多いかもしれません。
[西]そうかもしれませんね。
[武]逆に、乗っていてダート向きだと思わせられるフットワークなのに、芝で走っている馬もたくさんいますからね。
[西]確かにそういう面もあるかもしれませんね。
[武]ダートはフラットで引っ掛かりがありません。それに対して芝は引っ掛かりがあるのですが、荒れる、あるいは重馬場など状態の変化とともに、それにも変化が生じるわけですよね。すると、それによってリズムを崩してしまう馬もいるのです。それに対してダートは基本的にはフラットですよね。芝でバランスを崩したり、走り難そうにしている馬をダートで走らせて結果が出たこともありますよ。
[西]なるほど。ダートは常にフラットですからね。
[武]福島開催の最後などで、よくみんなが揃って外を回る光景を目にすると思いますが、それは荒れた馬場にやる気をなくしてしまったり、リズムを崩されてしまうのが嫌だからという思いがあるからなのです。
[西]そこで1頭内を突く馬がいたりするわけですよね。
[武]荒れていてもまったく気にしないで走ることができる馬もいますからね。パンパンの良馬場で速い時計の決着には対応できないものの、ボコボコ馬場は見事なまでに対応できる馬もいますよ。
[西]芝・ダートということで言いますと、例えばロックドクトリンは、ゆくゆくは芝1200メートルもいけるんじゃないかと個人的に思ったりしているのですが?
[武]ただ、今回の中山のような荒れた馬場は、しっかりしてからも走らないと思いますよ。
[西]そうですか。
[武]ロックドクトリンは荒れた馬場ではリズムを崩してしまうだろうということです。
[西]能力のある馬は条件が合わなくても勝ってしまうことがありますよね?
[武]ありますよ。たとえ条件が合っていなくても勝ち上がっていく馬もいますが、それは1000万円下くらいまでで、その上はやはり適性が必要不可欠になってきますよね。
[西]そういう意味では1000万円下は壁ですよね。
[武]1000万円下まで来るのは強い馬ですよ。終いの脚が鋭いとか、競ったら負けないとか、何かしら特徴があるスペシャリストですよね。そこを勝ってきた馬たちが1600万円下になるわけで、いつでもオープンまで駆け上がってくるわけですから、やはり強いですよ。
[西]言われてみれば、500万円下だと強い勝ち方をしているのに、1000万円下ではまったく通用しない馬がいます。
[武]1000万円下の馬たちと500万円下の馬では、雰囲気が違いますよ。そこで止まらずに突き抜けたり、好勝負をする馬たちというのは、変な話ですが、パドックで負けていませんよ。
[西]1000万円下のパドックは、やはり目を引く馬たちが揃っていますよね。やはりそこがひとつの壁なのでしょうね。
今週はここまでとさせていただきます。
現在発売中の『サラブレ』本誌を読まれた方も多いでしょうが、巻頭の田辺裕信騎手&柴田大知騎手のインタビューは、僕自身にとってはとても感慨深いものです。
田辺は西塚厩舎時代にはエースであったわけですし、大知君にしても、僕のなかでは忘れることができないディエゴという存在に騎乗してもらうなど、一緒に仕事をさせていただきました。
そのふたりが、いま注目の真っ只中にいるわけですから、本当に嬉しいですよ。巻頭というとトップジョッキーが相場だと思いますが、昇ってきたふたりの記事だったということで、個人的には興奮さえ覚えました。
田辺は、他のメディアなどでも義理人情的な雰囲気が伝えられていますが、実際に接していて、強烈に感じたことはありませんが、行動がそうなのでしょうね。エフテーストライクの話をしていましたが、本当にそう思ったのですかね。聞いてみましょう(笑)。
記事を読んでいて感じるのは、ふたりともきっかけがあって、注目を集めて、活躍しているわけです。生意気かもしれませんが、成績に表れていなくても、実際に競馬に乗ってもらっていて、上手だなと感じさせられる騎手の方々はいます。
ブッチゃけさせていただきますが、騎手については、すぐに上手いとか下手とか言われますが、それは数字の上での判断でしかないことが多く、僕自身は、見極めるのはそんなに簡単なことではないと思っています。特に、自厩舎の馬ならまだしも、他厩舎の馬への騎乗で判断しろと言われると、特徴や癖もわかりませんから、難しいですよ。
実際、世間では上手いと言われていない騎手のなかにも、騎手の間では上手いと言われる人がいます。田辺がそのうちのひとりであることは(小林)久晃さんとの対談でもご紹介しましたが、実は小野(次郎)先生も騎手時代から「田辺は馬乗りが上手い。1頭チャンスのある馬に巡り合えば突き抜けていく」とよく言っていました。
競馬に乗っている騎手たちから「上手い」と認められることは、ある意味、名誉なことですよね。
田辺、これを読んでいるなら、「出てほしい」というリクエストも読者の方から届いているので、出てよ。
アイツは、遊びの誘いをすると「いいよ」と即答するのに、「対談に出て」と言うと、一瞬間があるんですよね(笑)。みなさんの声に応えられるように、頑張って誘ってみます。
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