5年後のことも真剣に考えて、細かい部分から改善すべきと思ってます
2011.10.6
スプリンターズSで秋のG1シリーズが開幕したわけですが、それと同時に今夏の北海道開催が終了しました。
個人的にはローカル開催が行われている間にG1レースが施行されることに違和感を覚えるのですが、その北海道シリーズについて、ひとつお話をさせていただきます。
昨年までは第2回札幌の2週目が終わるまで、函館に在厩して調整をすることが許されていたのですが、今年はこれが1週前倒しの形となりました。その影響からか、札幌の後半は特別競走であるにも関わらず8頭立てというケースも見られ、出走馬そのものが少ない状況にありました。
ファンの皆様にはあまり馴染みがないことだと思いますが、毎年、函館が2馬房で札幌が4馬房、あるいはその逆というように、各厩舎に馬房が振り分けられています。
各厩舎、新潟や小倉の馬房などと交換、あるいは貸し借りをしながら、やりくりをしているのが現状なのですが、競馬に出走可能な馬が厩舎にいるのに、馬房の都合で出走できないという状況には、疑問を感じずにはいられません。これだけ売り上げが下がり続けている時代に、馬房の都合で出走馬が揃わないというのはおかしいと思いませんか。
出走馬が増えれば売上も上がると言われることに当てはめれば、その機会を自ら放棄してしまっていると言われかねません。いろいろな事情があるのかもしれませんが、何か良い方法を考えなければならないと思います。そういう細かい部分から改善をしていかなければいけないと思っているんですよね。
さて、今週は、畠山さん(畠山雅之調教助手)との対談の最終回をお送りいたします。それでは、どうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)僕は雅之さんに対して、勝手に同じ匂いを感じているんですが、この世界に入った当時の僕は雅之さんにどう映っていたのでしょうか?
畠山雅之調教助手(以下、畠)頑張っていると思ったよね。ノブは上を立てるところは立てるということができていたし、メリハリがあったよ。
[西]ローカルの馬房の貸し借りをさせていただいていましたので、生意気な態度を取らなかっただけかもしれません(笑)。では、僕自身のことはいいとして、このコーナーでは「5年後の競馬界」についても話をしているのですが、その点についてはどう思われますか?
[畠]その話がいちばん難しいね(笑)。
[西]雅之さんがこの世界に入った当時は、夢も希望もあったでしょう。売り上げが右肩上がりだった頃でもありましたからね。そして、いまこのような状況になっているのですが、まずは5年後のご自身について、どう思われていますか。
[畠]ノブのお世話になっていると思います。
[西]そうではなくてですね。
[畠]もっとフリーになっているように思えるかな。
[西]どういうことですか?
[畠]保障はないけど、やりたい人にはどうぞ、という感覚になっていると思います。調教師でも、いまはなりたい人間が減っているわけですよね。
[西]そうですね。雅之さんは(調教師試験を)受験されているのですか?
[畠]1回も受験したことはありません。
[西]なぜ受験しないのですか?
[畠]そぐわない気がして(笑)。
[西]言わんとしていることは、なんとなくわかる気がしますが…。
[畠]騎手についての話と同じではないですけれど、いまの時代、みんなで試行錯誤しながら…、という雰囲気ではないわけですよね。
[西]分かります。ブッチャけさせていただきますと、僕は雅之さんを目標にしてきた部分があるのですよね。
[畠]どういうことですか?(笑)
[西]調教師の息子が同じ厩舎に入ると、矢面に立たされて、非難を浴びたりするものですよね。程度にこそ差はあれ、息子が厩舎にいる、と言われるものですよ。でも、雅之さんを悪く言う人はいませんから。
[畠]それはウチの先生を見て育っているからだと思います。個人的な考えですが、この世界、味方はいないと思う。ただ、そういう状況のなかで、敵はつくらないようにしなければならないと思うのですよね。敵がいないということで、やりやすくなる側面がある。ノブも分かると思うけど、検疫馬房ひとつにしても、『お願いします』、『いいですよ』となるわけですよ。
[西]敵だったら、『アイツのところには貸したくない』ということになってしまうわけですからね。
[畠]競馬だって、勝った時に『おめでとう』と言われれば、嬉しいものですよね。
[西]確かにそうですね。でも、(調教師試験は)受験しないのですか。志はありましたよね?
[畠]いまも志はないわけではないですよ。ただ、そぐわないんじゃないかと思っているのです。
[西]雅之さんなら、やれますって。僕を面倒みてください。
[畠]そこですよ。いまの時代は必要ないことなのかもしれませんが、ノブも『受験しろ。そして面倒みてくれ』と言われるよね。それは人間としてはとても大切な部分だと思う。冗談だったとしても、本当に嫌いな人間にはそういうことってあまり言わないから。
[西]深いですねぇ。雅之さん、早く調教師になってください。身を粉にして働きますので(笑)。でも、先ほどフリー化という話がありましたが、このままいくと、それこそ調教師の定年制も崩れていくことになりかねませんよね。
[畠]そうなっていくような感覚はありますよ。
[西]こういう言い方をしたら、また反響があるかもしれませんが、JRAは日本の馬社会においては頂点とされているわけですよね。賞金をはじめ、いちばん恵まれていて、多くの人がここで競馬がしたいと思っていると言って差し支えないでしょう。なのに、そこが地盤沈下をしてしまっている……そんな現実があるわけですよ。
[畠]本当に厳しい時代になりましたよね。調教師だけでなく、スタッフのシステムや様々なルールがあって、お金が絡むだけに簡単には進まない部分が多いのが現実です。ただ、いまのシステムのまま行くのはほぼ不可能ですから、やはりフリー化になって行かざるを得ないのではないでしょうか。良いのか悪いのかは別にして、存続するためには仕方のない部分だと思います。
[西]雅之さんと対談させていただいて良かったです。ありがとうございました。雅之さんはグリーンチャンネルにも出たことがないということで、そのレアさがまた良いですよね。グリーンチャンネルは、僕だったらバンバン出演しちゃいますけど。
[畠]自分が出てもプラスにはならないけど、ブシ(武士沢騎手)や鉄平(池田鉄平元騎手)という騎手たちが出れば、それはアピールになりますから。
[西]また深い。さすがは、2世のトップに君臨する雅之さんですよ。本当はもっと話をさせていただきたいのですが、なにせ明日は3時なので、また次の機会ということにさせてください。
[畠]分かりました。でも、このような話で大丈夫でしたか?
[西]ご心配なく、大丈夫です。本日はありがとうございました。
[畠]こちらこそ、ありがとうございました。
いかがだったでしょうか。
幼い頃から馬術をやり続け、海外での経験を持つ方々が増えているなかで、高校までサッカーをやって、大学時代には社会勉強もしてきましたという方は珍しくなりつつありますので、雅之さんは、失礼ながら貴重な存在だと思います。
ブッチゃけさせていただきますが、調教師の息子であるということは、勘違いした人間を生みやすいシステムの中にいる、というのは間違いないでしょう。幼い頃からトレセンで育ってきて、実際にそう感じさせられましたから。
ただ、逆に言えば、調教師の息子でなかったら、この世界に入らなかったという人間が、実際には入ってくることもあるということです。僕自身も、父親が調教師でなかったら、この世界には入っていなかったですよ。
僕のこととは話が別ですが、雅之さんのように、もし他の世界に出ていても活躍されていただろうという人たちが、この世界に入って活躍しているのは、父親が調教師であったからなのです。
また、他の世界に生まれ育った方々がこの世界を目指す時にも、幼い頃から馬術をやって…という経歴ではなくても頑張れる、と思っていただけるのではないかなと思うのです。
調教師の息子である僕が言うのもおこがましいですが、雅之さんのような方がいてくれることは励みになります。
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