冬の中山開催は、なんとなく哀愁を感じてしまいます
2011.12.15
今年もあと2週を残すところとなりました。
12月10日は父親の命日で、3年が過ぎたのですが、早いなぁと思います。この冬の中山開催を迎えると、当時のことを思い出してしまうのですよね。
当時は、毎週、毎週、『今週が最後の競馬になるかもしれない』と思いながら、競馬に向かっていましたし、その前の年の暮れも、具合が悪くて、中山大障害に出走した時も、自分ひとりで競馬に行っていたんですよね。
その時のことを思い出させるのが、もうひとつあるのです。それは中山のファンファーレです。
音楽をやっていらっしゃる方ならお分かりだと思いますが、コードで言うとマイナーなのです。一般的には、ファンファーレというのはマイナーと言われる悲しい響きのコードというものではなくて、ワクワクする響きのものなのです。
中山のファンファーレは、そういう意味では珍しいのですが、この時期の西日とともに、物寂しさを感じさせられるんですよね(苦笑)。
また、G1のファンファーレじゃなくて、中山のファンファーレが鳴る時というのは、関西でG1、あるいは重賞レースという番組構成になっているので、いやぁ、哀愁が漂うわけですよ。
そんなわけで、この時期の中山開催は、個人的に物寂しさを感じてしまうのですよね。
さて、今週は、『競馬エイト』のトラックマンである高尾さんとの対談の最終回となります。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)高尾さんは、どうして競馬の世界に入ったのですか?
高尾幸司氏(以下、高)祖父が競馬好きだったのですよね。幼稚園の頃から、浅草の場外馬券場に一緒に連れて行ってもらっていました。好きな数字を言うと、お小遣いをくれたのですよね(笑)。
[西]ずいぶん長い競馬歴をお持ちなんですね(笑)。
[高]その後、父の仕事の関係で阪神競馬場の近くに住んでいました。ある時、やはり競馬好きの父と祖父で競馬場に行き、そこで観たのがスーパークリークが勝った産経大阪杯だったのです。
[西]懐かしい。
[高]初めてライヴで観た競馬だったのですが、そのレースを見てスーパークリークが好きになってしまったのです。そこから、どういうレースをしてきたのかなどを調べ始めたのですよね。
[西]そうやって1頭を好きになるというのがきっかけなのは自然な流れだと思います。そういう人の方がハマるようにも思います(笑)。
[高]当時、ワープロを持っていて、自分でスーパークリークの成績を一覧にしたりしていました。それがとても面白くて、夢中になりましたね。
[西]その気持ちは分かります。僕も似たようなことをしていました。芝2000メートルまでなら、史上最強馬はいまもオグリキャップだと信じていますよ(笑)。
[高]総合力ではスーパークリークでしょう(笑)。
[西]こういう話が競馬の醍醐味のひとつであったりするんですよね(笑)。
[高]大学に入ってからは、当時は馬券を購入できませんでしたけど、G1になると自主競馬新聞を作るようになりました。コピーして友人などに配っていた程度ですけど。
[西]僕たちの世代ではまさに王道ですね。
[高]オグリキャップとバンブーメモリーのマイルチャンピオンシップとか、話せばキリがないですよね。
[西]そうですね。そういう話は楽しいのですが、実はこのコーナーでは、最近、ゲストの方々に『5年後の競馬界』というテーマで話をしていて、それについてはどう思われますか? 新聞なども、以前ほど売れなくなっていると聞きますが。
[高]楽観できる状況ではありませんよね。
[西]サンケイさんの場合、日刊紙、専門紙、あと専門誌という3つがあるわけですけど、それぞれに状況が違いますよね。
[高]もし最後まで残るのは?と言われれば、日刊紙でしょう。競馬に限らず、他のスポーツも掲載されていますからね。
[西]極端な言い方をすれば、競馬がなくなっても、野球やサッカーがある限り、需要はあるはずですからね。でも、専門紙や週刊誌というのも、競馬にとっては本当に大事だと思うのですよ。
[高]それぞれに役割がありますからね。
[西]競馬全体が厳しい状況になっていると実感しますが、記者の立場として、人気回復のポイントというか、問題だと感じる部分みたいなことは何がありますか?
[高]そうですね……東西格差もひとつだと思います。影響がないような話をする人もいますが、意外と大きいような気がします。
[西]言われてみると、関西馬の方が強いというような固定概念ができあがってしまっているかもしれませんね。
[高]そうなんです。でも、馬券は関東の方が売れるわけですよ。関係がないと言われるかもしれませんが、関係があることも否定できませんよね。いまの時代、サッカーや野球じゃありませんが、地域密着型が効果を生んでいるのですから。
[西]それを解消するにはどうしたら良いと思いますか?
[高]まずは施設面でしょうね。実際、栗東に行ってみると、すべてが効率的にできていることを感じますから。特に坂路の違いは大きいと思いますよ。
[西]坂路の違いについてはよく聞きます。でも、僕は栗東の坂路を体感したことがないですし、それこそ見たこともないので、ぜひ一度行ってみたいと思います。
[高]栗東は最後までビッシリと追われてきます。最後に止めるスペースがありますから。でも、美浦はゴールすると下り坂になるので、手前で控えるケースが多いですよね。
[西]実際、坂路では最後止めにかかりますよ。
[高]明らかに違うと思います。
[西]ぶっちゃけさせていただきますと、東西格差については、現場で実際に馬を触っている人たちの間では、案外、希薄かもしれません。『5年後の競馬界』というテーマを話した時、東西格差を真っ先に挙げる人はいなかったですから。もちろん良いことではないのでしょうが、慣れてしまっている面もあるように思います。初めて言われたので、ハッとしましたし、なるほどと思いました。
[高]関東馬が馬券に絡まないというのは、馬券を多く買う関東のファンの方々には影響があるように思いますよ。
[西]でも、美浦が潰れて、栗東だけが残るというのは嫌ですからね。
[高]東西が拮抗した状況になれば、それによって盛り上がる可能性は十分にあると思います。
[西]いやぁ、良い話をありがとうございました。もっとお話を聞きたいところですが、明日もありますので、また今度、よろしくお願いいたします。
[高]こんな感じで大丈夫ですか?
[西]大丈夫です。貴重な話をありがとうございました。
[高]こちらこそ、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。今回、高尾さんとお話をさせていただいて感じたのは、競馬とはまったく関係のない世界から人が入ってくることで、もっと面白くなるのだなあ、ということでした。
高尾さんだけではなく、トラックマンから携わる側になった方々もいらっしゃるのですが、いろいろな空気が入り込むのは絶対に良いことだと思います。
これを読んでいただいている読者の方の中で、現在はまったく競馬に関係のない世界で頑張っていらっしゃる方でも競馬の世界に入ってもらえれば、活性化につながると思うんですよね。
大学卒業して間もない方はもちろん、25歳を過ぎた方々でも、個人差はあるかもしれませんが、馬に乗れるようになる可能性はあるはずです。騎手になるのなら、できる限り早く馬に触れていた方が良いのでしょうが、そうでなければ、やる気と健康であれば、可能性があるはずです。
それと、何人かの方からエージェント制についてメッセージをいただきました。以前にもお話をさせていただいたように、便利な存在ですし、存在した方が良いと個人的には思っています。
ただし、その存在によって、騎手と調教師、騎手と厩舎スタッフ、そして騎手とオーナーという関係、その日々のやり取りが薄れていく、あるいはなくなってしまうのは良くないことというか、絶対にあってはならないと思います。人間同士の関係が、馬に伝わっていくはずですから。
ということで、最後はいつも通り『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうぞ、よろしくお願いいたします』。