田辺騎手に「今年の本当の目標」を聞いてみました
2012.2.2
先週、我が尾関厩舎がいまだ未勝利と話しましたが、その途端に土&日で4勝を挙げ、一気に関東リーディングに躍り出ることになりました。
他の厩舎の方々からも「おめでとう」と声をかけていただきますし、やはり勝つと掛け値なしに嬉しいです。
でも、先週もお話をした通り、あくまで1頭1頭について様々なことを考え、できる限りのことをやることが先決で、1年が終わった時に勝ち星を実感するという感覚が強いのですよね。
先週は4つ勝つことができたわけですが、来週以降もチャンスのある馬がいます。また勝った馬たちの次へ向けた戦いもすでに始まっていますので、先生の指示の元にできることをやって頑張っていきます。
綺麗ごとに聞こえる部分もあるかもしれませんが、現場で働いていて、経験をすればするほど、そう思えるようになるのですよね。
さて、今週は田辺との対談が最終回を迎えます。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)今年の目標っていうのは何かあるの? それともない?
田辺裕信騎手(以下、田)ない。
[西]あるとすれば、毎週、ケガなく、1年間競馬に乗ることですか。
[田]おっしゃる通りです。
[西]そういうコメントって、刺激がないんだよ。
[田]無難に聞こえるんだろうね。
[西]でも、1年間ケガなく競馬に乗り続けるというのは、簡単じゃないということはわかってもらいたいよね。新年早々、松岡がまたケガをしてしまったし…。
[田]ケガをしないで1年間競馬に乗り続けるというのは、無難な言葉かもしれないけど、それが最高だし、簡単じゃないことなんですよ。
[西]田辺は『逆ビッグマウス』でいいんじゃないの?
[田]そうかな。
[西]いつでも「わかんねぇ」って言っとけよ。
[田]いや、すでに結構、言っちゃってるんですよね。
[西]あ、そうなんだ。
[田]「故郷に錦」という話もされるけど、福島だけではなくて、どこでも勝ちたいと思って乗っているからね。
[西]深みが出てきたね。
[田]いや、そうじゃなくて、普通にそう思うでしょう。
[西]確かにね。でもさあ、俺は田辺がこのような活躍をすると思っていたよ。
[田]マジで!? 俺は思っていなかったよ。
[西]だって、西塚厩舎の走らない馬で7着とか8着、時には勝っていたんだから、良い馬に乗ったら勝つよ。
[田]うははは(笑)。じゃあ、その予想通りだったということで。
[西]初重賞勝ちも、ある意味、当たり前なんだよ。
[田]俺の具合が悪くて勝つんだから、やっぱり馬ということでしょう。
[西]でも、G1で昔のようにセコ乗りはしないの?
[田]Gが付くレースは難しい。少なからず、指示が出るからね。出ないのは松田(博)先生くらいかな。
[西]あっ、そう。
[田]実際、「まあ、上手く乗ってこいや。出たところでジッとして、あとは開いたら開いただし、脚があったらあっただし、詰まったら詰まった時だから」という感じですから。あっ、ひとつだけ、「あんま早く先頭に立つなよ」とは言われます。
[西]それ最強の指示だね(笑)。
[田]脚があったら伸びんだと言われます。ゲートもどれほど出るかわからないし、ペースなんてやってみなければわからないのが現実ですから。的確と言えば、これ以上なく的確な指示ですよね。
[西]癖とかはどう?
[田]それは必ずこちらから聞くよ。
[西]でも、言われたことと違う時もあるでしょう。
[田]ある。
[西]いやぁ、最近悩んでいるんだよね。攻め馬では見せるのに、競馬になると見せないというケースや、その逆もあって、(騎手に)告げない方が良いのかと思わせられたりするんだ。
[田]それは一応言った方が良いって。「何もありません」と言われて、口が利かなかったりすると、嘘つきと思う。
[西]そういう馬もいるよね。
[田]いるよ。「うちでいちばん大人しいから」と言われたのに、口が利かないだけじゃなくて、ゲートではうるさいし、立ち上がるし、「この馬のどこが大人しいんだ」と言いたくなることもありますよ。
[西]それはビックリするわ(笑)。でも、「癖はある?」と聞かれた時に、答えるのに困る時がある。
[田]「たまに、跳ねて、回ります」ってサラッと言えば良いんじゃないの。
[西]無理、無理(笑)。
[田]じゃあ、「さて、何があるでしょう?」って言ってみたら?
[西]開けてのお楽しみって。福袋じゃねえんだよ(笑)。
[田]でも、ある馬に乗った時、前に乗っていた先輩に返し馬で「何かありますか?」と聞いたら、「馬込みがダメ」って言われて、「あとはスタートしてからのお楽しみ」って言われたことがあった。いじわるじゃなくて、本当に思い出せなかったみたいだったんだけど、輪乗りに向かったら立ち上がられたんですよ。
[西]うははは(笑)。面白過ぎる。田辺、あんたはやはり最高です。
[田]でも、やっぱり、言ってもらった方が良いよ。それでアブミの長さを変えるから。「あっ、立つんだ」と思えばね。
[西]そうだよなあ。
[田]専門的な話をすると、立つ・跳ねるは別にして、「物見する」と聞くとアブミは伸ばすよね。
[西]そうなんだ。田辺が活躍した後で、アブミの位置が云々という話を聞いたことがあったんだけど、実際はどうなの? 何か変えたりしたの?
[田]何も変えてないって。乗り方も、アブミの長さも変えていません。
[西]あ、でも、俺は知っているよ。変わったところがあることを。
[田]え、何?
[西]ダートで使う砂よけのサランラップ。あれ、空気が入っちゃっているね。
[田]うははは(笑)。その通り。バレットがやってくれているんだよ。
[西]教えないの?
[田]そのうちできるようになるでしょう。
[西]俺とどちらが上手ですか?
[田]ノブちゃんは、指が太いから接着のために隅に塗るメンタームが多くなってベタベタになるんだよね(笑)。
[西]ごめんなさいね(笑)。いやあ、でも、楽しかったわ。本音でいろんなことを話してくれて、ありがとうございました。
[田]こんな感じでいいの?
[西]本当の田辺が伝わったと思うから、良かったと思いますよ。
[田]それなら良かったです。いやぁ、肉も上手かったよ(笑)。
田辺との対談、いかがでしたでしょうか?
昨年はいままでにないくらい勝ち星を伸ばした田辺の言葉が、僕自身、20勝できる厩舎で働いてみて、その言葉の意味がわかるような気がしています。
結果はもちろん大切なのですが、それだけではダメで、プロセスも結果と同じ、いや、ひょっとすると、それ以上に大切であるということなのです。結果は、相手がいることですし、運という不確定要素に影響を受けるケースもあります。
ただ、それに左右されることなく、ひとつ、ひとつできることをやり、積み重ねていくことが大切なんだと、田辺と話をして、改めて思いました。
ジョッキーなら、ひと鞍、ひと鞍、騎乗していくことで得られるモノがあり、我々ならば1頭、1頭、そして1レース、1レース、できることを、モチベーションを保ちながら、頑張ってやっていくことこそが、最高の結果につながるのだと思います。
もし、田辺が乗れない時代に腐っていたら、いまの田辺はないわけです。競馬開催日の朝、早い時間なら3時ごろから攻め馬に跨って、そこから競馬にいった日々を頑張ってきたのです。田辺の場合は楽しみながらだったのかもしれませんけどね(笑)。
それと、先日、通算2000勝を達成された蛯名さんのコメントにも、「ケガなく」とありましたが、その言葉こそ偽りのないものだったのではないでしょうか。
マスコミ的にはちょっと刺激が足りないコメントになってしまうのかもしれませんが、田辺が「馬はわからない」とか「まずはケガをしないように」と話すその言葉こそ、僕は重みを感じました。
次回のゲストは、多方面で活躍をされていますが、実は阿部厩舎所属の調教助手である谷中公一さんをお迎えして、お送りさせていただきたいと思っています。どうぞお楽しみに。
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