今週からは育成牧場を経営されている添田昌一さんとの対談です
2012.3.22
先週は、モンストールがスプリングSで復帰して、6着という結果となりました。仕上がってはいましたが、どうしても休み明けの分だけ調子は戻り切れていなかったようです。
仕上がりと調子とは別であると思っています。仕上がりというのは、追い切りの本数やタイム、あるいは追い切りの後の息遣いであるのに対して、調子というのは携わっている人間の感触であったり、雰囲気であったり、あるいは毛づやということなのです。
言葉にするのは難しいのですが、仕上がりは人間が行う、あるいは何とかできる部分であるのに対して、調子というのは人知を超えた部分と言いますか、頑張ってもどうにもできないという感覚なのです。
追い切りを行い、時計を出していくと、息遣いも良くなり、出走態勢は調います。ただ、だからと言って調子が良いかといえば、そこはイコールではなかったりするのです。
今回のモンストールについていえば、順調に調教を消化していて良い仕上がりでした。ただ、休み明けの分など、調子としてまだ良化の余地を残していたということだと思います。だからこそ、本番ではこのまま定石通りに馬の調子が良化してくれれば、チャンスがあると思えたのです。
レース後、(柴田)善臣さんは「良い」と言って引き上げてきました。そして「あとは頼む」と言われたのです。本番に向けて、我々はできることを、厩舎全体でやり尽くして、レースに送り出せるように頑張っていきたいと思います。
さて、今週からは、かつて栗東の小林稔厩舎で調教助手として活躍され、現在は美浦トレセン近郊で育成牧場を経営されている添田昌一さんをお迎えしての対談をお送りします。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)今回は美浦トレセン近郊で育成牧場を経営されている添田昌一社長をお迎えしております。お引き受けいただき、ありがとうございます。
添田昌一氏(以下、添)いえ、こちらこそありがとうございます。よろしくお願いいたします。
[西]某競馬雑誌にコラムを掲載されているので、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、添田社長は様々な経歴の持ち主でいらっしゃいます。僕自身は、トレセンに入る前に勤務していたサーストン牧場で、大変お世話になりました。
[添]一緒に働いていた頃が懐かしいですね。
[西]当時は、ビジネスサイクルをはじめ西塚厩舎の馬たちがサーストン牧場さんにお世話になっていたのですよね。
[添]お預かりしていました。
[西]あの時は、装蹄師さんや獣医さんなどとのやり取りや、入厩に向けての準備など、場長にたくさんのアドバイスをいただき、西塚厩舎の馬たちをやり繰りしていました。本当に勉強になりましたし、とても感謝しています。
[添]どれくらいいましたか?
[西]1年半程度だったと思います。こういう治療をするとこうなっていくよとか、こういう馬はこうするとこう変わっていくというようなアドバイスをいただき、そのことはいまも本当に役に立っています。
[添]そういう意味では、サーストン牧場があって良かったですね。
[西]本当にそう思います。サーストン牧場があって、そして添田社長が場長だったから、いまの僕があるといっても過言ではありません。もし、そうじゃなければ、ひどいことになっていたと思います。
[添]良かったねぇ(笑)。具体的には、どんなことが勉強になった?
[西]添田場長は、僕たちに考えさせるようにしてくださいましたよね。すでに重賞を勝っていたタイキリオンにも乗せていただいて、とにかくのびのびとした雰囲気で楽しく働かせていただきました。覚えていらっしゃらないですよね?
[添]タイキリオンは覚えているよ。
[西]僕は下手くそだったのに、乗せていただいたんですよ。
[添]騎乗技術云々ではなく、タイプがあるんだよ。上手くはないが、こういうタイプなら、上手く乗れるんじゃないか、という感覚だね。タイキリオンだけではなくて、たくさん乗せたはずだよ。
[西]いや、本当にたくさん乗せていただきました。
[添]基礎はできていたから、あとは数を乗っていくしかないと思っていたんだ。そこからは自分自身で工夫していけば良いわけだからね。
[西]牧場でお世話になった最初の頃にも同じことを言われました。ただ、客観的に見て、他だったらそうはいかなかったと思うんですよ。
[添]でも、人にも馬にも、いろいろなタイプが乗った方が良いのですよ。
[西]場長のお陰で、僕は調教助手になることができました。本当に感謝しています。読者に方に説明させていただきますと、添田場長はかつて小林稔厩舎で調教助手をされていたのです。何年されていたのですか?
[添]15年です。
[西]その経験のなかで、いちばん話をしてくれたのはミスターシクレノンについてでした。
[添]そうだったかな。
[西]そうですよ。とにかく引っ掛かったと聞きました。口向きも何もなかったらしいですよね。
[添]そう、そう。とにかく引っ張るだけでした。引っ張っているのに、持っていかれてしまったくらいだったのですよ。
[西]速いところをやる日はいいけど、速くなってしまってはいけない日の前日は嫌な思いをしていたって聞きました。
[添]そんな話をしていたんだぁ。でも、そういう馬に乗る前日は、ゆっくり飲んでいられなかったな(笑)。
[西]「いいか西塚、ハミ受けとかいろいろあるだろうし、いろいろ経験するだろうが、走る馬は勝手に走るから大丈夫だ」ってよく言われましたよ(笑)。
[添]そんなことを言っていたんだ(笑)。
[西]角馬場でハッキングであるとか、ハミ受けだとか、いまの時代となって求められているものとは違うことをおっしゃってました(笑)。
[添]でもね、自分が跨ったらベストの方法を考えるわけですよ。そこで、技術の差を把握していて、こうした方が良いという話はします。それでも、それ以上は上手く乗れないわけですからね。
[西]乗り手の技術以上を求めても、乗ることはできないということですよね?
[添]そうです。でも、こちらがこうした方が良いと言うと、考えるわけですよ。あなたも、どうしたらそうなっていくか、考えながら乗っていました。それが大切なんですよ。
[西]場長にはいつも励ましていただきましたし、頑張れば僕でもやれると思えました。ですから、本当に感謝しています。トレセンに入った頃を知っている人たちからは、「ずいぶんまともになったよ」と言っていただける程度にはなりました。
[添]西塚君にこの馬を乗せないと仕事が終わらない、という状況の時もあったけどね(笑)。
[西]うははは(笑)。そういうこともありましたか。
[添]それでも、工夫して、その人間のためになるのかということを考えながら選択していましたよ。馬は人間と同じで、いろいろなタイプがいます。そのなかには、西塚君に合う馬がいるんですよ。そういうことをいつも考えています。
[西]いま、うちには元騎手の助手もいますし、上手な先輩もいるんですが、そのなかでも、僕が乗るとスムーズに馬場に入るという馬が現実としているんですよね。あと、年配の方が運動すると大人しくなる馬というのもいます。
[添]いますよね。馬にも個性があるんですよ。だからこそ、大雑把というのか、決めつけない方が良いと思います。僕も、小林稔厩舎時代には、結構癖のある馬に乗っていたなぁ。いちばん体重が重くて、力があって、もっていかれなくて済むということで、結構いろいろな馬に乗りました。角馬場でひたすら引っ張らなくてはいけないんですよ。でも、それが本当に良い経験になりました。
今週はここまでとさせていただきます。
先々週、メジロアマギが障害の未勝利戦を勝つことができました。平地で勝つことはできませんでしたが、バテないスタミナを兼ね備えていたので障害に挑戦したのです。
個人的にも、障害は絶対に良いと思っていたので、嬉しかったですし、手綱を取ったのがこの対談にも出てくれた簑島だったので、思い入れもありましたし、本当に嬉しかったですよ。
障害は、平地を勝てずに転向してくる馬たちが少なくありません。そこには、「何とかしたい」、「何とかなるんじゃないか」というように、その馬に携わる者の思いがあります。
もっといえば、そういう馬たちは、平地を勝てないという挫折を味わい、あとがない状況なのです。ブッチャけさせていただけば、勝つことで生き残れるのです。平地未勝利の馬たちが障害に転向する時、そこには厳しい現実があるものなのです。
初勝利を手にしたメジロアマギですが、スピード任せに障害を飛越するのではなく、ひとつひとつ確認しながら、上にしっかりと飛ぶタイプです。こういうタイプは、障害馬として大成する可能性があったりするので、ここからが楽しみです。
これからもモンストールと同じように、メジロアマギを、そして尾関厩舎の馬たちを応援していただければと思います。
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