今週のオークス、そして来週のダービーへ、硬くなりながら向かいたいと思います
2012.5.17
先週は、京王杯SCに出走したサクラゴスペルと、松岡が騎乗したコスモバルバラが惨敗することとなってしまいました。
コスモバルバラは右前の肩の可動に硬さを感じさせることがひとつのバロメーターであったりするのですが、歩様はむしろ良かったです。中1週というローテーションで競馬をしてきていても、状態に不安を感じることはありませんでした。
馬の状態に不安がなく、牝馬限定戦があるとなれば、いけるんじゃないかという気持ちになるものですが、そこで目に見えない疲労まで加味して考えるべきだったと思わせられます。もちろんタラレバは禁物ではあるのですが…。
サクラゴスペルも、多少緩さは感じさせられましたが、それでここまで走ってきて、結果を出してきた馬です。デキそのものは良いと思いましたし、いけると思ったのですが、何かが足りなかったということだと考えています。
この2頭に限らず、敗因が騎手の騎乗に求められることがありますが、自分自身としては、プロであればそこに求めてはいけないと思っています。
馬の力を発揮できるように仕上げるのがプロであり、レースでどうだったのかを逆に教えてもらいながら、その後に活かしていく。そのことが大切だと思っています。騎手から「完璧だ」と言われるくらいの仕事を目指さなければならないはずです。
さて、今週は、黛騎手との対談が最終回を迎えます。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)マユちゃんがデビューした頃、ウチの馬に田辺が乗っていて、『田辺は上手いと思うんだよ』という話をしたら、マユちゃんが『田辺先輩を目標にしてやっている』ということを言ったんだよね。覚えてる?
黛騎手(以下、黛)そういう意識でいたことは覚えています。
[西]ローカルでの位置取りや動きなど、参考にするべきところが多いんだと言っていたよ。
[黛]「エコ乗り」ですね(笑)。
[西]「エコ乗り」ね(笑)。俺は「セコ乗り」と言ってるんだけど。中舘さんを参考にしようとしても、強い関西馬や実力馬に乗っていることが多いから、あまり参考にならないらしいね。
[黛]中舘さんが乗っている馬とは力が違うんですよね。当時の田辺さんは、僕が騎乗している馬と力の差がないこともありましたので、エコ乗りとしては参考になりました。
[西]デビュー当初は、結構イケイケの競馬をしているというイメージがあったなぁ。
[黛]減量もありましたからね。3キロ軽いわけですから、残ることができるんじゃないかと考えたこともありました。
[西]なるほどね。
[黛]でも、この前、(田中)勝春さんと一緒に角馬場を回っていたら、『なんで俺は馬乗りが上手くならないんだ』と言っていたんですよ。
[西]えっ、勝春さんが!? 僕が言うのも失礼な話ですが、勝春さんが下手だったら、上手い人なんていなくなっちゃうでしょう。走らないと言われる道産子を走らせたという逸話の持ち主ですよ。
[黛]ジョッキーのなかでは、間違いなく1、2を争う馬乗りの上手さを持っているのにですよ。自分もまだまだだと痛感させられました。
[西]決して満足しないんだろうね。ある落語家の人がテレビで言っていたけど、プロフェッショナルは周囲の人たちから『立派だ』、『凄い』と言われてもそんなことを思っていなくて、さらに良くなろうと考えることで精一杯だと言っていたよ。
[黛]自分自身、競馬に乗っている姿を見ると、本当に憂鬱になります。なんでもっと上手く乗れないのかと思います。
[西]そう考えるんだ。
[黛]どうしたら上手くなれるのか、本当に悩みます。満足できるレースはありませんし、それなりに乗れたかなと納得できるレースさえほとんどありません。
[西]いまでも田辺を参考にしているの?
[黛]田辺さんは最近、人気馬に乗っていらっしゃいますからね。
[西]ということは、最近の田辺を真似しても、乗っている競馬場も違えば、馬の力も違うから、あまり参考にはならないよね。
[黛]最近は、藤岡康太騎手を参考にさせていただいています。あとは、丸田、それと江田(照男)さんです。
[西]松岡も江田照天才説を唱えるよね。
[黛]あと、勝浦さんも上手ですし、誰というよりは、それぞれの騎手の動きのなかで参考にできるものを参考にさせていただいています。
[西]田辺に聞いたら、『以前と同じ乗り方をしていたら勝てないから』と言っていた。『実は内にいました。ちょっとごめんね』とはいかないらしいよ(笑)。
[黛]そりゃ、そうですよ。あれだけ人気馬に乗っているんですから、みんな見ていますよ。中舘さんも『1番人気を勝たせるのはいちばん難しい』と言っていました。
[西]中舘さん、名言ですね。
[黛]マークされるから閉じ込められる可能性が高くなります。だからといって、外、外を回ると、内で楽をしている馬にやられてしまうことも出てくるわけですよ。1番人気を勝たせるというのは難しいですよね。
[西]走る馬の後ろに付けるというのはセコ乗りの鉄則だと思うけど、実際はどうなんでしょう?
[黛]逆に、走らない逃げ馬の後ろという手もありますよね。みんなが付こうとしないですし、隣に走る馬なんかがいたら最高で、走らない馬がタレ始めた瞬間に走る馬の後ろに移動するとまた前に道ができる、と田辺先輩が言っていました。
[西]うははは(笑)。あいつ面白いわ。
[黛]人の逆を突くんですよね。
[西]ローカルのダート1700とかは、そういう奥の深さがあるよね。
[黛]田辺先輩はダートの1700は上手いですよ。芝ではなかなかそうはいかないですからね。内外で芝の良し悪しがあったりしますし、何より直線の入り口までほとんどの馬たちが頑張ってしまいますから、バラけないんですよね。
[西]でも、田辺は相変わらず内が好きだよね。特に人気がない時などは、ちょっとごめんねをしてますよ(笑)。
[黛]上手ですよ。桜花賞を見ていても上手だなぁと思いました。
[西]一発を狙っている雰囲気がプンプンした。
[黛]僕もG1に乗れるように頑張ります。
[西]去年以上の成績が残せるようにね。
[黛]でも、正直に言いますと、来年のいま頃、騎手でいられるのか、とやはり不安になります。
[西]そういうもんなんだ。でも、やれるよ。本当に一度はやめようと考えたんだし、それを思えばやれるでしょう。
[黛]はい。やれることは全部やり尽くすまで頑張ります。
[西]今日は忙しいなか、ありがとうございました。
[黛]こちらこそ、呼んでいただきまして、ありがとうございました。これからも頑張ります。
マユちゃんとは、普段から焼き鳥屋さんに飲みに行ったりするのですが、今回改めて対談をして、その前向きさが魅力だと感じさせられました。
自分自身が育ってきた過程について、マユちゃんは明るく話すのですが、それはお父さんが愛情を持って懸命に育てられたからこそなのだろうと思います。
騎乗停止処分以降、頑張りが成績に結びついてきているようですし、これからもその前向きさで頑張っていってもらいたいと思います。
さて、我が尾関厩舎は、今週はオークスにココロチラリが、そして来週のダービーにはモンストールが出走する予定となっております。
それぞれ18頭しか進むことが許されない舞台です。携わる者として、一度たりとも立つことが叶わないことも珍しくないわけで、そこへ2週に渡って向かえることはとても光栄です。
もちろん、これから先も、1回でも多く経験したいことですが、まずはその舞台に良い意味で硬くなりながら、それぞれの馬を信じて向かいたいと思います。
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