今年の前半戦は上手く噛み合ってくれたと感じています
2012.6.7
先週から2歳新馬戦が始まり、我が尾関厩舎も今週にトルークマクトがデビューを予定しています。
新馬戦は、動きとともに、血統面がとても重視される傾向があると思いますが、それと同時に、何が起るか、やってみなければわからないという未知数の部分も大きいと感じています。
この時期の新馬戦のポイントとしては、仕上がりの早さも言われますが、トルークマクトについては、騎乗予定の(嘉藤)貴行(騎手)も「動きは良い」と言っていますので、楽しみにしています。
さて、今週は大野騎手との対談の2回目となります。それではどうぞ。
西塚信人調教助手(以下、西)大野はいろんなコースで乗っているけど、どのコースがいちばん好き?
大野拓弥騎手(以下、大)福島が良いイメージがあるんですよね。理由は分かりませんが、いちばん良い結果が出ているんですよ。
[西]あっ、そうなんだ。
[大]人気のない、少し力的には厳しい馬でも、上位に来たりしているんですよね。
[西]そのことについて、自分ではどう分析しているの?
[大]いやぁ、よく分からないんですよね。福島ではこう乗るんだ、と考えることもなく、純粋に結果が付いてきていて「あっ、福島は良い結果が出ている」と知った感じなんです。
[西]ひょっとすると、福島での相性の良さを知って、精神的に自信が持てて、相乗効果を生んでいるんじゃないの?
[大]それはあるかもしれません。
[西]内を狙っているという話だったけど、福島は内が開きやすいわけでもないよね。直線が長い新潟の方がむしろバラけて開きやすいようなイメージもあるけど。
[大]どうでしょうかね。僕自身のなかでは、そこまでの差はないように思います。
[西]大野の騎乗でしびれたのは、チェレブリタでの(08年)愛知杯で2着(クビ差)になった時ですよ。あそこしかないという競馬だったよね。
[大]あれはすべてが上手くいってくれましたし、勝ったと思ったんですけどね。
[西]あの時は人気がなかったよね?
[大]確か14番人気だったと思います。
[西]相手はどの馬だったっけ?
[大]セラフィックロンプですね。いやぁ、勝てると思いました。
[西]そうしたら、北斗(宮崎騎手)にやられてしまったわけだ。ところで、大野はどうして騎手を目指したの?
[大]父親が騎手になりたかったらしいんですよ。
[西]あっ、そう。じゃあ、お父さんはいまは毎週たまらないね。
[大]たまらないんじゃないですか(笑)。
[西]大野はここまで大きなけがをしていないのもすごいよね。
[大]そうなんですよね。骨折したことが一度もないのです。でも、いつかはそういう経験をする可能性が極めて高いですからね。避けては通れないものだという覚悟はしています。骨折しなかった騎手って、いるんですかね?
[西]どうだろう。
[大]あっ、そう言えば、杉浦先生はしなかったという話を聞いたことがありますね。
[西]師匠である杉浦先生ですね。そうなんだ。杉浦先生については『天才説』を唱える人がいっぱいいるけど、調教とかで一緒に馬に乗っていて上手だった?
[大]上手でした。時計もほぼ誤差なく乗ることができます。
[西]時計とか厳しく言われた?
[大]そうですね。先生が先頭で行くと、まず時計は狂いませんでしたね。
[西]逆のパターンは? 大野が先頭だと嫌だね。
[大]テレグノシスの追い切りで、僕が違う馬で先に行っていたんです。そうしたら、後ろから先生の声が聞こえて、「遅いぞ」と言われたと思ったんです。ですから、そこから伸ばしていったら、実は『速いぞ』と言われていたらしく、さらに速くなってしまったことがありました。
[西]怒られただろう?
[大]はい。翌日の新聞には『誤算』と書かれてしまいました。
[西]そうなんだ。まあ、テレグノシスに乗っていたのは杉浦先生だったから、オーバーワークにはなっていないんだろうけどね。俺なんか、「速くねぇか」と併せた相手に言ったら、逆にピッタリだったということがあるよ。
[大]杉浦先生はほとんど間違えませんでした。また折り合いの付け方も上手なんですよ。
[西]それを言う人も多いよね。杉浦先生は同じ騎手出身なわけだけど、言われたことでよく覚えているのって何?
[大]いちばん印象に残っているのは、「内から伸びて交わされるレースだけはしてはいけない」ということですね。何度も言われた印象があります。
[西]そうなんだ。大野はテレグノシスに乗せてもらったことはあったっけ?
[大]はい。2度ほど乗せていただきました。最初は毎日王冠で乗せていただいたのですが、確か2年目だったはずで、いやぁ、緊張しました。
[西]それは緊張するよね。アンちゃんがG1馬に乗るんだから。それも重賞レースだからね。テレグノシスはどういう馬だったの?
[大]攻め馬では、もちろん良いのですけれど、驚くほどではないのですよね。でも、競馬にいくと、その凄さが分かるんです。
[西]どのあたりでそう感じさせられるの?
[大]やはりキレ味ですね。とにかく乗っていて、もの凄い加速なのです。
[西]そういう馬に乗れたのは財産だよね。
[大]そうですね。
[西]いままででいちばん印象に残ったのはテレグノシスですか?
[大]マイネルロブストも印象に残ってます。
[西]あっ、そうなんだ。マイネルロブストでは新馬勝ちしているよね。そんなに良い馬なんだ?
[大]良い馬です。僕の少ない経験ですが、インパクトは強烈でした。新馬前の調教で跨がって負けないと思いましたし、本当に乗り味が良いんですよね。大人びていて、完成度が高いという印象があって、相当な器だなと思わせられました。
今週はここまでとさせていただきます。
ダービーが終わり、1年の折り返しとなったわけですが、お陰様で我が尾関厩舎は14勝の勝ち星を挙げることができました。周囲の方々から好調の要因を尋ねられるのですが、すべてが上手く噛み合ってくれたということだと個人的には思っています。
仕上げに関しては、我々人間が行う部分ですが、馬の調子までは変えることはできません。我々はその調子を見極め、良い時にレースを走るようにするだけで、そういう馬たちが勝ってくれたという部分がありました。ですから、上手く噛み合ってくれたと感じているのです。
そして、勝ってくれたばかりでなく、今年の前半戦では貴重な経験もさせてもらいました。モンストールとココロチラリとともに、クラシックレースに臨めたことです。クラシックの難しさを教えられ、そこに挑むことの難しさや尊さも教えてもらい、本当にかけがえのない経験でした。
後半戦に向けて、さらに上を目指して、とにかくできることを頑張ってやっていきますので、どうぞ応援をよろしくお願いいたします。
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