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小野次郎調教師に「5年後の競馬界」について伺いました
2012.11.15

先週は、土曜日に福島9レースでドリームコメットが2勝目を挙げることができ、我が尾関厩舎にとっては今年31勝目となりました。

ドリームコメットは蹄に不安を抱えていて、どの馬も1回1回が勝負なのですが、一層その1戦にかかってくる面があります。2着に入って中1週、という感じにはいかないのです。

蹄の不安というのはいつ悪化するかわからない面がありまして、何でもないときに痛みが激しくなることもありますし、逆に激しい競馬をしたとしても小康状態を保つこともあります。難しい馬のなかでも、より難しかったりするのです。

ドリームコメットは、今回、競馬に向かうまでの間に不安を感じることもあったのですが、何とか無事に競馬にいくことができて、勝つことができました。本当に良かったです。

さて、今回は小野次郎先生との対談が最終回を迎えます。それでは、どうぞ。

西塚信人調教助手(以下、西)次郎さんにお聞きしたかったこととして、騎手としての技術というのはそんなに簡単に落ちるものなのか?ということがあるんですが、どうですか?

小野次郎調教師(以下、小)騎手に限らず、身に付いた技術というのは、そう簡単に落ちるものではないのではありませんか。しかも、競馬に毎週乗っているなら、なおさら簡単には落ちないですよ。

[西]いま武豊騎手が一時期の成績ではなくなっていることについて、読者の方からメールが届くんですよ。

[小]僕が言うのもおこがましいかもしれませんが、豊さんの凄さは変わっていませんよ。いろいろな声を耳にしますが、百歩譲ったとしても、トップですよ。天才です。

[西]同じ騎手だからこそ、感じることがあるんでしょうね。そのような感覚については、レース後にも感じることがあります。パトロールフィルムを見ながら会話されているのを聞くと、僕たちにはない感覚だったりするんですよね。


[小]こういう言い方をしたら失礼だけど、そこだけは、一生わかりあえない部分があると思っていますよ。騎手時代もそうでしたが、競馬に乗った人間が感じる感じ方と、乗ったことがない人の感じ方は、絶対に違うものです。これだけはどうにもならないことです。

[西]騎手の方々と話をしていて、その感覚を理解できない部分が自分にはあります。見ている方としてはわずかな動きなのですが、実は着差に大きく影響していることがあるようで…。騎手の人たちからすれば、(元騎手の人とは)わかり合えるから、話しやすいはずですよ。

[小]ただ、それがすべて良いかと言えば、それはどうかはわからないですよ。


[西]そうですか。ただ、騎手の人たちが次郎さんの厩舎の馬たちに乗って、引き上げてきたときとか、何となく違う印象を受けるんですよね。次につなげていくということで言えば、やはり騎手が競馬で感じたことは話を聞きたいですよね?

[小]もちろんです。聞かなくてもわかるんですけどね(笑)。

[西]騎手の人たちにすると、ある意味、嫌ですよね(笑)。

[小]良いことも失敗も、お互いに言わなくてもわかっているところがありますからね。

[西]そうでしょうね。この対談では「5年後の競馬界」というテーマをみなさんにお聞きしているのですが、次郎さんはどのように思われていますか?

[小]かなり厳しいと思いますよ。

[西]競馬が再び伸びていくために、何か思うところがあったりしますか?

[小]個人的には、個性がなくなってきたなぁと思います。昔は、逃げ馬、追い込み馬列伝と言われましたが、それは個性だったわけですよ。ミスターシービーの吉永さんとか、勝っても負けても逃げるホワイトフォンテンというように個性派がいたのです。騎手も、個性派と言われる人たちがいました。そこが競馬の面白さ、魅力のひとつでもあったと思うんですよ。

[西]そういう側面は間違いなくあるでしょうね。

[小]統一されることは、必ずしも良いこととは思いません。いろいろな馬がいて、いろいろな騎手がいて、いろいろなファンがいて、競馬が成り立っていたはずなんですよね。古くさいと言われるかもしれませんが、そういう部分は大切だと思っています。そういう競馬なら、ファンの方々は競馬を愛してくれると思うんですよね。

[西]ファンサービスについては、どのように思われていますか?

[小]騎手時代は、ファンの方々に喜ばれることをいろいろやりたいと思っていました。ただ、規則や制約もあって、できない部分もありました。そういう意味では、要望があるときには、ファンの方々からJRAに対して意見を言っていただきたいと思います。できることはまだまだあると思います。

[西]具体的には何かありますか?

[小]例えば、スポンサーですよね。いまは有馬記念のときだけ協賛という形で企業と協力したりしますが、スポンサーを認めるべきでしょう。そうすることで、ファンの方々に還元されるんですから。

[西]例えば飲料メーカーであれば、ジュースがサービスされる可能性もあるわけですよね。

[小]そうでしょう。いろいろな制約やハードルがあるのでしょうけれど、どうやったら可能になるのかを考えないといけないですよ。それ以外にも、これだけ売り上げが下がっているのですから、競馬場を会場として貸し出すことも有効な手段だと思います。

[西]ターフビジョンもありますし、10万人を収容する施設はなかなかありませんから、良い会場になりますよね。

[小]経費の問題とかもあるのかもしれませんが、やろうと思えばやれることはたくさんあるはずです。現場のほうが危機感を持っているように感じますよね。

[西]レース後のサインとかも、やっていらっしゃいましたよね。

[小]騎手時代はね。ただ、どうしても時間的な制約がありました。調教師になってからも求められることがあるのですが、いまは控えさせていただいています。

[西]それはなぜですか?

[小](調教師は)裏方だからです。

[西]立場が変わったということですね。

[小]極端な言い方をすれば、真逆と言ってもいいかもしれません。騎手から「お前も変わったな」と言われるかもしれませんが、そうしないとやっていけないのが現実だと思いますよ。

[西]なるほど。

[小]騎手の感覚のままでは(調教師は)できないんですよ。

[西]それが責任だったりするんでしょうね。

[小]それもありますし、それこそ、馬へのアプローチも違ってくるわけですよね。いままでは乗って判断してきたのですが、今度は観て判断しなければいけない。そこはいま頑張っているのですが、難しいですし、本音を言えば乗りたくなります。

[西]そういうものなんだぁ。見ていると、次郎さんが乗っているときは、人員的な側面が理由のように思います。特に、スタッフが競馬に行っているときですよね。

[小]そういうわけではないですよ。うちのスタッフたちは協力してくれるので、乗らなくても対応できています。

[西]そうですか。

[小]うちは本当に良いオーナーの方々に恵まれていて、本当に感謝しています。もっと上を目指して頑張っていかなければならないという思いはあります。ただ、人間は抱いている期待や希望が大きくなればなるほど、苦しくなるものだと思うんです。いまの現状をみつめて、そこから1歩1歩進んでいくことができれば、苦しさはないですよね。高い目標を持つ。そこへなかなか辿り着けない。浮き足立って、苦しくなってしまう。いまの自分、いま土台をつくっている段階のうちの厩舎という現実のなかで、一歩一歩できることを頑張っています。

[西]当たり前と言われるかもしれませんが、なかなかできることじゃない、難しいことですよね。

[小]馬自身が本当に難しいですからね。馬は言葉をしゃべりませんし、競馬を走ってみるまでわかりません。だから、未勝利で終わってしまう馬に対しても、1億や2億、さらにそれ以上の価格が付けられることもあるわけですよね。能力がわからない。だから血統背景や馬体などから推測して先行投資がされる。正直な話、すべてに的確な助言ができて、見抜くことなんか無理ですよ。あくまで、その段階での情報から判断しているわけです。

[西]安価な馬が活躍する話は、世界中に溢れかえっていますからね。

[小]科学的な側面から研究もされていますが、それに当てはまらず、絶対的な方程式が存在しないですよね。競馬はそこに面白さがあって、ギャンブルとして成立しているとも言えます。我々のコメントが結果と違うことがありますが、それは嘘を付いたということではないのです。馬、競走馬には未知数の部分があるということなのです。そこが競馬のひとつの面白さでもありますし、ファンの方々にはそこを予想する楽しさも競馬だということを理解してもらえればと思います。

[西]新聞などだけでなく、自分自身の感覚でも予想していただきたいということですよね。いやあ、良い話をありがとうございました。まだまだお聞きしたいのですが、なにせ明日も早いので、この続きはまたの機会にお願いいたします。

[小]すみません、何か面白くない話でしたね(苦笑)。

[西]いえ、とても実のある話だったと思います。本日はありがとうございました。

[小]こちらこそ、ありがとうございました。


いかがでしたでしょうか。調教師の方々のなかには、「あの人、調教師になって変わったよね」と言われる人たちが結構います。従業員から経営者になるわけですから、当たり前なのかもしれませんが、今回、話をさせていただいた次郎さんは、それほど変わっていない印象を受けました。

ただ、会話にも出てきたように、競馬に出走させることについては、その考え方は変わったようです。

騎手としては、「状態が悪いのに出走させるべきではない」という考えをするのが当然。それに対して厩舎サイドとしては、「無理してでも出走させなければならない1走がある」のが現実ですよ。これは綺麗ごとではなく、それぞれの立場があるんですよね。

次郎さんは、現役のときは「ザ・騎手」といいますか、職人気質で高い技術が魅力のジョッキーでした。でも、そうであったからこそ、調教師となり、良い意味で厩舎サイドの思いを理解することになったのではないかと思うんです。

調教師となり、険しい表情を浮かべる方々が少なくない状況のなかで、本人もおっしゃっていましたが、充実した毎日を送っていらっしゃるようです。

騎手の頃は勝負に対してピリピリした雰囲気がありました。いまもそういう雰囲気は感じられるのですが、騎手時代とは何かが違うんですよね。熱いというか、沸々と燃えるというところは感じさせられました。

あの次郎さんが、自分自身で乗るのを我慢するというのですから、やはり良い意味で変わったのでしょう。読者のみなさん、ぜひ小野次郎厩舎も応援をよろしくお願いいたします。

ということで、最後はいつも通り「あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうぞよろしくお願いいたします」。